2019 Fiscal Year Research-status Report
周術期脳虚血モデルに対するデルタオピオイド受容体アゴニストの効果
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19K10357
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
前田 茂 岡山大学, 大学病院, 准教授 (50253000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋口 仁 岡山大学, 大学病院, 講師 (30423320)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 炎症 / 脳虚血 / 周術期 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は実験モデルの確立に努めた。 マウスを用いた周術期脳虚血モデル:ICRマウスに対して左総頚動脈を露出した後,絹糸で結紮し,それとともに100 mcg/kgの少量のlipopolysaccharide(LPS)を腹腔内へ投与した。6時間後に左総頚動脈を露出させ結紮を解除した。3日後にイソフルラン吸入麻酔下に灌流固定を行い,取り出した脳をパラフィン固定し,切片を作成したのち,TUNEL染色した。その結果,海馬歯状回においてDNA断片化が認められた。以前同様のモデルで海馬に発現するIL-6 mRNAレベルを調べたところ,少量のLPSにより虚血再灌流によるIL-6 mRNAの発現が増強されたことから,今回のDNA断片化も少量のLPSにより増強されたと考えられた。 マウス海馬プライマリセルカルチャによるモデル:海馬プライマリセルカルチャーに対して,低酸素環境と非低酸素環境でリコンビナントTNF alphaを作用させ,TNF alpha受容体およびDNA断片化に対する免疫染色を行なった。低酸素環境を6時間維持したところ,海馬ニューロンの生存を維持することができず,TNF受容体およびDNA断片化についての結果を得ることができなかった。しかし,非低酸素環境下ではリコンビナントTNF alphaによりTNF alpha受容体に対する強いシグナルが認められた。このことから海馬ニューロンはTNF alphaによってTNF受容体の発現が強まり,その後の細胞内シグナル伝達が促されることが考えられた。このことは前述のマウスを用いた実験で示唆された海馬神経細胞のアポトーシスが惹起された機序を示唆するものであると思われた。すなわち,炎症反応が海馬で惹起されることにより,海馬ニューロン膜上のTNF受容体が活性化され,それから始まるシグナル伝達を介してアポトーシスが惹起されると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の遅れに関してはいくつかの理由がある。まずは実験環境の変化がある。これまで法令等を遵守の上,医局の実験室で動物実験を行なっていたが,歯学部の動物実験施設から医局への動物の持ち出しが禁止され,さらに歯学部の改修工事の予定に伴い,動物実験施設の運用が難しくなった。そこで,2019年度の途中から岡山大学鹿田地区の動物実験施設を使うこととし,そこでの実験を再開したところである。 また,細胞については従来アストログリア由来のC6を用いていたが,中枢神経での免疫反応の中心はミクログリアであることと,虚血に対する反応が乏しいことから,ミクログリア由来のものに変えたいと思い,当初はMG6でのモデル確立を試みた。MG6はLPSに対してよく反応したが,C6と同じように虚血に対する反応は乏しかった。そこでプライマリカルチャを用いることとなったが,プライマリカルチャは非常に高価である上に増幅しないことから,実験を予定通り進めることができなかった。 このような状況ではあったが,動物モデルを確立できたことと,高価ではあるがプライマリカルチャを使えるようになった意義は大きく,これらのことは次年度以降への実験へ貢献すると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度以降,まずは確立した脳虚血モデルを用いて当初の目的であったオピオイドデルタ受容体作動薬の効果を調べる予定である。動物モデルではIL-6 mRNAの反応を指標にして以前実験を行なっており,今回も同じようにIL-6 mRNAの反応をRT-PCRによって調べる。また最終的なアウトカムとして,アポトーシスへの影響を調べる必要がある。動物での脳虚血モデルでアポトーシスが発現することと,それがオピオイド受容体作動薬でコントロールできることは,実験として大きな意義があり,それを検証する予定である。 また培養細胞では現在までの経過で,アストログリア,ミクログリア,およびプライマリカルチャにおいて,低酸素環境下で炎症およびアポトーシスが増強されることが明確に確認できていない。このことはモデルとして解決すべき問題であり,低酸素暴露の時間を詳細に調べることが必要と考えている。その上で,低酸素環境下での炎症またはアポトーシス増強が確認されなければ,培養細胞ではLPSおよびリコンビナントTNF alphaを用いて炎症およびアポトーシスを惹起し,それに対するオピオイドデルタ受容体作動薬の効果を検証する予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していたオピオイドデルタ受容体作動薬の効果を調べるところまで,実験を進めることができなかったことが要因である。2020年度は同作動薬の効果を検証することになるため,動物モデルと細胞モデルに対して同受容体作動薬を用いる予定である。
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