2021 Fiscal Year Research-status Report
Redox感受性転写因子活性化に及ぼすフェノール関連化合物の調節作用を探る
Project/Area Number |
19K10364
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Research Institution | Meikai University |
Principal Investigator |
村上 幸生 明海大学, 歯学部, 准教授 (00286014)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 歯学 / 抗酸化性フェノール / 酸化還元 / Redox感受性転写因子 / 炎症反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
著者らは以前、ラジカル化し難い構造のフェノール関連化合物が抗酸化作用を介して多くのredox感受性転写因子の転写調節作用を持つ可能性を示した。このことは、これらの化合物が抗酸化に関連した遺伝子発現も調節できることを想像させた。Heme oxygenase 1 (HO-1)は、ヘムのビリベルジン、遊離鉄、一酸化炭素への分解を触媒し、生体内での免疫反応を抑制し、抗炎症作用、抗酸化作用、および抗増殖作用を示すヘム酸素添加酵素である。Eugenolとbis-eugenolのRAW264.7細胞に対するHO-1誘導作用について検討したところ、bis-EugenolはHO-1発現を時間的濃度依存性に促進した。E.coli LPSを刺激剤として処理したところ、bis-eugenolはCOX-2とTNF-α mRNAの顕著な抑制を示したが、eugenolに抑制効果は見られなかった。bis-eugenol はLPSの有無に関わらずHO-1発現を誘導した。HO-1遺伝子発現を調節する転写因子Nrf2 はbis-Eugenolにより活性化しのAREへの結合を促進した。タマサキツヅラフジ抽出アルカロイドであるセファランチンは難治性疾患の治療薬として知られる抗酸化性のフェノール関連化合物である。HO-1発現について調査したところ、明確な促進作用は認められなかった。これらの結果は、抗酸化性フェノール関連化合物が抗酸化/抗炎症を持っていたとしても必ずしもHO-1発現メカニズムを介さずに効果を発揮している可能性があり、この差異を再評価するうえにおいて興味ある知見であったと考える。それゆえ今後は、過去に抗炎症性が明らかになった抗酸化性フェノール関連化合物だけでなくセファランチンのようなフェノール関連化合物の抗炎症性、HO-1発現、Nrf2活性化等が認められるか改めて調査しようと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
数年来の研究において、著者らは低細胞傷害性で自動酸化し難い抗酸化性フェノール関連化合物を探査し、それらのうちのいくつかがRAW264.7細胞の生理活性物質発現を調節できることを証明してきた。このメカニズムの多くは向炎症性の転写因子の抑制的調節に導かれるものであると考えられたが、一方で抗酸化を司る転写因子活性化調節のメカニズムの一つにHO-1発現の関与が示唆されてきた。抗酸化性フェノール関連化合物のうちeugenol関連化合物のHO-1発現誘導作用とその転写因子調節作用を検討してみた結果、bis-eugenolはHO-1を誘導しNrf2活性化因子の1つであることが明らかになったことから、今後の抗酸化性フェノール関連化合物によるredox感受性転写因子の調節機構の解明に大きな道筋を与えたことになった。一方、COVID-19感染症の蔓延により我々は研究時間の短縮を余儀なくされ、消耗品研究資材も品薄となり例年の研究実績より遅れてしまったと反省している。過去の研究実績より、細胞刺激物誘導性の生理活性物質の抑制効果を示す抗酸化性フェノール関連化合物の至適濃度はある程度予想がついているが、酸化還元に強く関与する化合物や遺伝子発現を通して抗酸化性フェノール関連化合物の抗炎症作用やredox感受性転写因子の活性化調節機構の仕組みは不透明のままである。本年度も研究活動の再活性化により遅れを取り戻せるように努力する。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究達成度はやや遅れていると考える。それゆえピッチを上げて引き続きRAW264.7細胞などを使用して抗酸化性フェノール関連化合物の細胞刺激物誘導性の生理活性物質発現におよぼす調節作用を検討する。また、細胞核蛋白質を回収し細胞刺激物誘導性のredox感受性転写因子活性化におよぼすこれらの化合物の調節作用の検討を進める。このメカニズムのうち、とりわけHO-1発現の関与については詳細な検討を行い、過去に抗炎症性が明らかになった抗酸化性フェノール関連化合物にも追試験を行うつもりである。今後の展開として、フェノール関連化合物の抗酸化/抗炎症メカニズムを考察するうえにおいてこれらの化合物の抗酸化応答エレメント刺激作用とそのredox感受性転写因子、とりわけNrf2の調節作用を探索しようと考える。
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Causes of Carryover |
数年来実験資源のコストダウンと省力化を図り、実験に使用する器具や試薬を割引価格で購入できたことが多かった。令和3年度も引き続いてCOVID-19蔓延により時間短縮や在宅勤務、PCR関連消耗品の品薄状況もあり次年度使用額が多少多く発生した。令和4年度はハード・ソフトとも研究環境の立て直しを図り、更なる実験アイテムの拡充と多くの実験データの選別や資料の整理をもくろんでいる。すなわち、抗酸化性フェノール関連化合物の抗炎症作用における酸化/抗酸化のメカニズムが明確になりつつあるので、これらの関与をReal-time PCR法で解明するための酸化還元に関与するいくつかのプライマーを購入する。また、その情報伝達機構の解明のためのWestern blotに使用する抗情報伝達関連タンパク質抗体、抗転写因子抗体を購入する。とりわけ、難治性疾患の治療薬として知られフェノール関連化合物であるタマサキツヅラフジ抽出アルカロイドであるセファランチンのHO-1発現は明確に促進しなかったことから、これらの化合物の抗酸化/抗炎症機能を改めて試験し、効果的なNSAIDs様作用をもつ抗酸化性フェノール関連化合物をつきとめることを目標とする。また、ラジカル産生を介する慢性炎症や難治性疾患の分子生物レベルにおける遺伝子転写調節に応用していきたいと考える。
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