2021 Fiscal Year Research-status Report
脳疾患に伴う語用論的コミュニケーション障害の認知的・社会的側面に関する総合的研究
Project/Area Number |
19K10489
|
Research Institution | Okayama Prefectural University |
Principal Investigator |
中村 光 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (80326420)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福永 真哉 川崎医療福祉大学, リハビリテーション学部, 教授 (00296188)
京林 由季子 岡山県立大学, 保健福祉学部, 准教授 (20234396)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 脳疾患 / 語用論 / コミュニケーション障害 / 認知機能障害 / 評価 / 介入 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢化の一層の進展に伴い、脳血管疾患や脳変性疾患などの大脳疾患によって、言語・認知・コミュニケーションに障害をもつ人はますます増えると予測される。本研究課題では、大脳疾患による、認知機能障害に起因する、ことばの語用論的側面(pragmatics)の問題によりコミュニケーションに障害をもつ人の、診断・評価、治療・介入の方法を開発し、これらの人の自立生活・社会参加の促進に資することを目指す。 具体的には、成人の語用論的コミュニケーション障害に関して、以下の3つのサブテーマを設けて、その本質に接近し社会的影響を明らかにする。サブテーマ①では、さまざまな脳損傷者に文の理解課題と認知課題を実施し、その成績の分析から同障害の認知的なメカニズムに接近する。サブテーマ②では、同障害をもつ人および家族へのインタビュー調査により、障害の社会生活への影響を明らかにする。サブテーマ③では、同障害を改善させるための、または社会適応を促進させるための治療的介入法・環境的介入法の開発を行う。 2021年度は、サブテーマ①に関して、レビー小体型認知症者におけるデータを収集し分析を進めた。また、右半球損傷者とアルツハイマー型認知症者における過去に収集したデータを再分析し、比喩文のどのような特性がその理解に影響を与えるか(患者は何を手がかりに比喩文を理解しているのか、または何が比喩文の理解を妨げているのか)について検討した。さらに、縦断的なデータについて収集しているところである。サブテーマ②に関しては、インタビュー調査を実施している。サブテーマ③に関しても、研究を開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も引き続きコロナ禍で、一部のデータ収集と、特に成果発表にやや遅れがみられたが、全体としては、おおむね順調な進捗である。 サブテーマ①「障害の認知的メカニズムの解明」に関しては、すでに私たちは、語用論的コミュニケーション障害を評価するための、観察式の会話評価尺度、および新規比喩の理解課題を開発・公表している。従来のデータ収集対象者は、脳変性認知症の中ではアルツハイマー型認知症者に限られていたが、2021年度はレビー小体型認知症者におけるデータの収集を進め分析を行った。その結果、レビー小体型認知症者の比喩理解障害はアルツハイマー型認知症者に比べ、より遂行機能障害と関連していることが示唆された。また、右半球損傷者とアルツハイマー型認知症者における過去に収集したデータを再分析し、比喩文のどのような特性がその理解に影響を与えるかについて知見を得た。これらの対象者では健常高齢者とは異なり、比喩文の解釈数や解釈多様性の程度と課題正答率が相関し、想定された正答を消去法で選ぶのに必要な比較・判断の過程に問題があることが示唆された。さらに、過去のデータ収集は横断的なものにとどまっていたが、現在は右半球損傷者における縦断的なデータを収集しているところである。 サブテーマ②「障害の社会生活への影響の解明」に関しては、研究組織内での検討の結果、質問紙調査よりもインタビュー調査の方が有効であると結論し、病院の外来患者およびその家族を対象としたインタビュー調査を実施している。 サブテーマ③「介入法の開発」に関しては、介入の方法の検討を行い、その過程で得られた知見の一部を国内学会で発表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
サブテーマ①に関しては、上記のレビー小体型認知症者における比喩理解障害の特徴に関する分析結果、および右半球損傷者とアルツハイマー型認知症者において比喩文のどのような特性がその理解に影響を与えるかに関する分析結果について、2022年12月に開催される第46回日本高次脳機能障害学会学術総会(於:山形)において発表する予定である。なお前者の研究は、研究協力者である藤本憲正氏(倉敷平成病院リハビリテーション科)が筆頭で発表する予定である。これらの研究については、年度内にいくらかのデータを追加収集し、学術論文としての発表を予定している。また、右半球損傷者における縦断的なデータについての収集をさらに進め、20例ほどになったところで分析を行う予定である。 サブテーマ②「障害の社会生活への影響の解明」に関しては、患者およびその家族を対象としたインタビュー調査をさらに進めていく。 サブテーマ③「介入法の開発」に関しては、少数例への介入を実施する。介入方法の検討の過程で得られた知見の一部について、2022年5月に開催される第48回日本コミュニケーション障害学会学術講演会において発表する予定である。また、その後論文にまとめる予定である。 本研究課題においては、コロナ禍でデータ収集に困難をきたす時期や、学会の中止などでその成果の発表を見合わせる時期があり、その分の研究資金にも余裕が生じたので、1年間の期間延長を申請する予定である。2022・2023年度で精力的に国内外での成果発表を行っていきたい。
|
Causes of Carryover |
本研究課題においては、コロナ禍でデータ収集に困難をきたす時期や、学会の中止などでその成果の発表を見合わせる時期があった。また、学内からの研究資金額が想定よりも大きかった。そのため、次年度使用額が生じている。 今年度は研究の遂行にほとんど制約がなくなったので、当初計画通りの執行が見込まれる。また、特に成果発表が十分でないので、1年間の期間延長を申請し、2022・2023年度で精力的に国内および国外での成果発表を行っていく計画である。
|