2022 Fiscal Year Research-status Report
脳疾患に伴う語用論的コミュニケーション障害の認知的・社会的側面に関する総合的研究
Project/Area Number |
19K10489
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Research Institution | Okayama Prefectural University |
Principal Investigator |
中村 光 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (80326420)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福永 真哉 川崎医療福祉大学, リハビリテーション学部, 教授 (00296188)
京林 由季子 岡山県立大学, 保健福祉学部, 准教授 (20234396)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脳疾患 / 語用論 / コミュニケーション障害 / 認知機能障害 / 評価 / 介入 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢化の一層の進展に伴い、脳血管疾患や脳変性疾患などの大脳疾患によって、言語・認知・コミュニケーションに障害をもつ人はますます増えると予測される。本研究課題では、大脳疾患による認知機能障害に起因する、ことばの語用論的側面(pragmatics)の問題によりコミュニケーションに障害をもつ人の、診断・評価、治療・介入の方法を開発し、これらの人の自立生活・社会参加の促進に資することを目指す。 具体的には、成人の語用論的コミュニケーション障害に関して、以下の3つのサブテーマを設けて、その本質に接近し社会的影響を明らかにする。サブテーマ①では、さまざまな脳損傷者に文の理解課題と認知課題を実施し、その成績の分析から同障害の認知的なメカニズムに接近する。サブテーマ②では、同障害をもつ人および家族へのインタビュー調査により、障害の社会生活への影響を明らかにする。サブテーマ③では、同障害を改善させるための、または社会適応を促進させるための治療的介入法・環境的介入法の開発を行う。 2022年度は、サブテーマ①に関して、脳損傷者において比喩文のどのような特性がその理解に影響を与えるかについて、過去のデータの再分析によって一定の結論を得た。また、レビー小体型認知症者における比喩理解障害のデータを収集し分析を進めた。予備的な報告にとどまるが、それらの成果を専門学会で発表した。サブテーマ②に関しては、インタビュー調査を継続した。サブテーマ③に関しては、語用論的コミュニケーション障害の回復パターンの情報を得るための縦断的データの収集(再評価)を行った。また、介入効果の評価法に関する先行研究のレビューを実施した。その成果としての総説論文が和文誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度も引き続きコロナ禍で、一部のデータ収集にやや遅れがみられたが、全体としては、おおむね順調な進捗である。 サブテーマ①「障害の認知的メカニズムの解明」に関しては、すでに私たちは、語用論的コミュニケーション障害を評価するための、観察式の会話評価尺度、および新規比喩の理解課題を開発・公表している。現在は、これらの検査をさらに多数の脳損傷者に実施し、データ収集を拡大している。特に、従来のデータ収集対象者は、脳変性認知症の中ではアルツハイマー型認知症者に限られていたが、2022年度はレビー小体型認知症者におけるデータ収集を進め分析を行った。その結果、レビー小体型認知症者の比喩理解障害はアルツハイマー型認知症者に比べ、より遂行機能障害と関連していることが示唆された。 サブテーマ②「障害の社会生活への影響の解明」に関しては、病院の外来患者およびその家族を対象としたインタビュー調査を継続して実施中である。 サブテーマ③「介入法の開発」に関しては、研究組織内での再検討において、効果的な介入方法の開発のためには、まずは縦断的なデータを収集し、語用論的コミュニケーション障害の回復パターンの知見を得ることが重要であるとの結論に達した。そのため、過去に評価を行った右半球損傷者のうち今でもデータを得ることが可能なものを対象に、再評価を実施した。また、介入効果の評価法に関して改めて先行研究をレビューし、その成果を総説論文として和文誌に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
サブテーマ①に関しては、上記のレビー小体型認知症者における比喩理解障害に関してデータ収集と分析を継続する。目標の20例に達したところで学術論文としてまとめる予定である。 サブテーマ②「障害の社会生活への影響の解明」に関しては、患者およびその家族を対象としたインタビュー調査をさらに進める。 サブテーマ③「介入法の開発」に関しては、再評価が実施可能な患者へのデータ収集を継続する。対象が20例ほどになった時点で結果を分析し、中間的な報告にはなるが、得られた知見を専門学会で口頭発表する予定である。また、介入効果の評価法に関してのレビュー論文を国際欧文誌に発表する計画を進めている。 本研究課題については、1年間の延長を行い本年度が最終年になる。研究課題全体のまとめと振り返りを行う予定である。同時に、残された課題を明らかにして、次の研究課題につなげたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、①コロナ禍で一部のデータ収集に遅れが生じたこと、②学内の研究費配分が想定より多かったため、関連する経費についてはそれを充てて対応できたことが挙げられる。 研究期間の1年間の延長が認められたので、これらは2023年度に有効的に活用していく。具体的には特に、患者への刺激呈示用PCが動作不良を起こすようになったので新品の購入、国際欧文誌への論文発表のための英文校正・掲載料等、研究のまとめのための情報収集(書籍購入、学会参加など)などでの使用を計画している。
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