2019 Fiscal Year Research-status Report
医療従事者由来手指細菌を指標とした日本における感染制御の構築
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19K10539
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
一ノ渡 学 岩手医科大学, 看護学部, 講師 (00360701)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 院内感染対策 |
Outline of Annual Research Achievements |
<医療従事者由来手指細菌の検出状況による手指衛生効果の検討> 国内の手術時手指消毒法は、クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)を用いたラビング洗浄法が主流化し、消毒効果の成分としては単一有効成分による感染制御が行われている。国内の消毒薬剤に対する過敏症の報告は欧米より多いと示されているので、CHGのみに依存した感染制御の現状を考慮すると、医療従事者の手指保有細菌の状況を把握することは非常に重要であると考えた。さらに、保有細菌の状況を詳細に把握するには、いわゆる生菌状態の細菌培養による検出だけでは充分でない可能性も考えられた。そこで、一般的な細菌培養とメタゲノム解析とで同時比較することでCHGによる消毒効果について検討することとした。 その結果、当研究に協力を受諾したF県の病院手術担当者由来手指細菌を採取すると、生菌状態においては保菌株であるブドウ球菌属が最も多く検出され、その他は消毒薬に耐性のあるバシラス属が検出された。一方、同じサンプルをメタゲノム解析した場合では、保菌株に加えて一過性に病院内で接触したと考えられる緑膿菌などの菌株や嫌気性菌も検出された。当然ながら上記の菌種を想定した培養を行っているので、これらはCHGによって除去されていることが示された。消毒の評価は検出されないことが有効であるため、正しく除去されていることを証明した報告は希少であり、本研究を遂行する必要性が高まった。さらに保有菌株の表現型の変動も見られ、医療従事者特有の現象としてさらなる検討が必要であると示唆された。 この内容は第35回日本環境感染学会総会・学術集会にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が所属する大学の新規学部設置に伴い、本研究に関するエフォートに変更が生じた。しかしながら、学内他学部の研究室の協力により解析に遅延は生じていない。また、本学附属病院が昨年秋に移転した関係で本院での解析が困難になっているが、福岡みらい病院松田和久手術部長の協力の元、医療従事者保有細菌の採取および輸送方法の検討を踏まえた採取に関しても問題なく遂行でき、現在解析中である。さらに保有菌株の表現型の変動についても新たな知見を得ることができた。以上のことから研究計画としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況においても言及しているが、研究代表者の所属講座の新規設置に伴った研究設備の移動が発生したが、本学歯学部分子微生物学分野佐々木実教授の協力の元、研究設備に関する支援を受けて研究を遂行している。また、福岡みらい病院松田和久手術部長にも引き続き協力を賜りながら、研究計画通り医療従事者由来保有細菌のメタゲノム解析を行う予定であった。 しかしながら、現在日本国内の医療機関が対応を余儀なくされているコロナウイルスの伝播のなかで医療機関に介入して検討する本研究をそのまま行うことは非常に問題があると考える。 本年度の研究成果においても言及しているが、医療従事者の保有細菌には表現型の変動がみられ、その現象はスクラブ剤の有効成分であるトリクロサンが関与している可能性が考えられる。その中で現在における消毒剤の不足の問題からコロナウイルス流行前と後で医療従事者の保有細菌にも何らかの変化がある可能性は充分考えられる。 本研究の希少性からコロナウイルス流行前後の変動を検討することは、日本国民にとって有効な情報を発信するために必須と考えられる。そこで、本年度の予算執行をなるべく控えて流行終息後の検体採取を視野に入れている。
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Causes of Carryover |
本年度に本研究において支出の割合が大きいと予想されていたのは、メタゲノム解析費用であった。しかも2019年度に消費税率改正が予定され、それに伴う価格改定も予想された。本来であれば年度毎の予算配分の変更も考えていたが、状況が確定するまで変動することができなかった。さらにメタゲノム解析の予算執行が2月であったため、結果として次年度使用額が生じた。しかしながら次年度においてもメタゲノム解析費用の捻出が可能になった。 但し、今後の研究の推進方策において言及しているが、本研究の性格上コロナウイルス終息後に予算執行することでさらなる国民の利益を得ることが示唆される。したがって、本年度において敢えて次年度使用額が発生することを考慮している。
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