2021 Fiscal Year Research-status Report
小胞体ストレスシグナリングカスケードに着目した重金属毒性抑制機構
Project/Area Number |
19K10582
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
松岡 雅人 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (50209516)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 小胞体ストレス / シグナル伝達 / 重金属 / カドミウム / サルブリナル / 神経細胞 / SH-SY5Y細胞 / オートファジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、重金属ばく露細胞における小胞体ストレス軽減物質サルブリナルによる細胞死抑制効果について、主要な小胞体ストレスシグナリングPERK経路に着目し、翻訳開始因子eIF2α、アポトーシス誘導分子CHOPおよびオートファジーが制御する細胞死を解析することにより、その分子基盤を明らかにすることを目的とする。これまでに、代表的な環境汚染重金属であるカドミウムばく露に対するサルブリナルの気道上皮・肺胞上皮細胞(2019年度)、神経芽細胞腫(2020年度)の細胞死抑制効果を検討した。2021年度は、ヒト神経芽細胞腫(SH-SY5Y細胞)におけるサルブリナルの影響について、以下の知見を得た。(1)サルブリナル単独処理では、細胞生存率低下は認められなかった。(2)カドミウムばく露は、リソソームpHの上昇をもたらした。(3)カドミウムばく露により、リソソーム膜に多く存在するLAMP1レベルには変化なかったが、リソソームおよびオートファジーを制御するTFEBレベルの減少が認められ、サルブリナルによる更なる減少が認められた。(4)バフィロマイシンA1を用いたフラックスアッセイにより、カドミウムばく露はオートファジー活性を抑制し、サルブリナルは逆にオートファジーを促進した。以上の結果から、神経芽細胞腫において、カドミウムばく露による細胞死に対するサルブリナルの抑制効果は、細胞死を誘導するCHOP発現の抑制に加えて、オートファジー経路の活性化が関わる可能性を示した。また、in vivo実験系では、カドミウムをばく露したモデル生物の線虫(C. elegans)において、以下の知見を得た。(1)非ばく露群に比べ、寿命短縮と体長短縮が認められた。(2)忌避行動が見られ、抗酸化剤により回復した。線虫は、カドミウムなどの重金属毒性を評価する実験系としても有用であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、サルブリナルの重金属カドミウムの細胞毒性・細胞死に対する抑制効果を近位尿細管由来上皮細胞に加え、気道上皮細胞、肺胞上皮細胞および神経芽細胞腫を用いて検証した。その機序として、神経細胞死を誘導するCHOP発現抑制に加えて、オートファジー経路活性化が関わる可能性を示した。今後、更に詳細な分子機序を検討する必要はあるが、上記in vitro実験結果について、論文投稿する段階に至っている。また、モデル生物である線虫を用いたカドミウムばく露実験も行い、寿命や行動の影響に関する成果を得た。以上から、環境汚染重金属のうち、カドミウムに限定したばく露実験ではあるが、おおむね順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、小胞体ストレス抑制物質サルブリナルを用いて、重金属のうち代表的な環境汚染物質であるカドミウムについて、そのばく露による細胞障害・細胞死について、小胞体ストレス応答とオートファジーの協働による細胞(神経細胞を主とする)の生存・死決定機構を検討する。特に、サルブリナルがオートファジー経路を活性化する機序について、mTORC1やその上流のシグナルであるAKT/PI3K経路およびMAPキナーゼ経路(ERK、JNK、p38)などについての解析が必要になる。また、神経細胞以外の近位尿細管由来上皮細胞(HK-2、LLC-PK1細胞)や気道上皮・肺胞上皮細胞についても、カドミウムばく露の環境ストレス応答に関する検討を行う。研究進捗状況にもよるが、小胞体ストレスを生じることが予想される他の重金属を標的細胞にばく露し、サルブリナルや他の小胞体ストレス応答軽減物質による中毒性細胞障害・細胞死の抑制効果を検討し、小胞体ストレスシグナリングカスケードがカドミウムに限らず、重金属ばく露に共通する毒性発現機序となる可能性について検討する。上記の一連のin vitro実験による研究成果は、学会・研究会発表に加えて英文原著論文として発表する予定である。また、カドミウム、鉛やトリブチルスズなどをモデル動物(ゼブラフィッシュおよび線虫)にばく露し、環境汚染重金属ばく露のin vivo実験系・評価系を確立し、環境ストレス応答を個体レベルで評価することに発展させる。
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Causes of Carryover |
旅費を使用する学会発表活動ができなかったため、予算の一部を次年度に繰り越すこととなった。また、今年度は、従来から行っている実験系・評価系と共通点があるため、保有する試薬や消耗品を使用することができた。2022年度は、新たな実験系・評価系の確立のため、試薬や消耗品の購入額の増加が見込まれ、繰り越し予算を支出する計画である。また、環境衛生学に関連する学会や研究会に現地参加できれば、旅費にも支出する予定である。
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Research Products
(4 results)