2019 Fiscal Year Research-status Report
肺内各種繊維状粉じん曝露指標の解析によるわが国の空気環境の経年変化の解析
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19K10584
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
柴田 英治 愛知医科大学, 保健管理センター, 教授 (90206128)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
酒井 潔 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (50834917)
鈴木 隆佳 愛知医科大学, 医学部, 助教 (80757740)
榊原 洋子 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (90242891)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 石綿 / 肺内石綿繊維 / 石綿小体 |
Outline of Annual Research Achievements |
すでに電子顕微鏡観察による肺内石綿繊維濃度の計測を行っている胸膜中皮腫症例34例について、独立行政法人労働者健康安全機構による「石綿小体計測マニュアル」に基づいた方法で肺内石綿小体濃度の解析を行った。肺内石綿繊維濃度と肺内石綿小体(含鉄小体)濃度は生前の石綿曝露指標として知られているが、同一症例でこれら2つの指標を計測した研究は極めて少ない。本研究計画実施以前に我々が非石綿関連疾患及び事故死事例合わせて67例で行った両指標の比較によれば、肺内石綿繊維濃度は肺内石綿小体濃度計測時に同時に計測できる非被覆繊維との相関を認めたものの、石綿小体濃度との相関は認められないという結果であった。この所見は肺内石綿小体濃度が石綿曝露指標であり、肺内石綿繊維濃度との相関が認められるという一般的な理解とは異なるものであった。この結果の解釈として対象症例が石綿曝露歴のない、もともと肺内石綿繊維濃度が低いものであったことが関連していると考えられた。本研究計画で昨年度に行った研究での対象は中皮腫という代表的な石綿関連疾患症例を集めたものであり、多くが職業的、または非職業的な石綿曝露歴を有しているため、前回の研究対象と比較して、生前の石綿曝露量が遥かに大きいと推測できる。得られた結果は、従来一般的に考えられてきたように、肺内石綿繊維濃度は肺内石綿小体濃度との間に強い相関を示した。石綿繊維の種類別にみると角閃石系石綿との相関がクリソタイルよりも強くみられた一方、非被覆繊維との相関はみられなかった。 これらの結果から、石綿曝露が少ない場合は肺内石綿小体濃度は肺内石綿繊維濃度との相関は必ずしもよくなく、むしろ鉄蛋白で被覆されない非被覆繊維との相関の方がいいと考えられる。しかし、石綿関連疾患例の肺内石綿小体濃度は従来考えられていたように、肺内石綿繊維、中でも角閃石系石綿繊維とのよい相関がみられると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は肺内の石綿をはじめとする繊維状粉じんの濃度の経年変化を観察するために剖検肺を対象に、肺内の石綿繊維、非石綿繊維、石綿小体、非被覆繊維等様々な指標を用いて肺内の繊維状粉じん関連の指標について生前の労働・生活環境、死因となった疾病といった背景となる因子を考慮しつつ、多数例のを解析し、試料採取年の違いによる、日本人の肺汚染の経年変化のようなものを観察するのが目的の一つである。その意味では1年目に中皮腫症例という特殊な疾病による死亡例という代表的な石綿関連疾患について石綿の製造使用が禁止された前後で肺内石綿濃度、石綿小体濃度ともに減少していることが示唆されたことは、ある程度の成果であったと考えられる。 但し、今後例数を増やすためには石綿関連疾患だけを観察するのではなく、石綿関連疾患以外の死因による死亡例について剖検肺の解析が必要である。そのため、今後安定的に剖検肺の解析ができるように剖検肺を提供できる病院の協力が不可欠である。そのため、現在剖検肺の提供が可能な病院との調整と倫理審査の準備をしているところである。本来はもっと早い段階で行わなければならない課題であるが、計画から見れば遅れているといえる。 しかし、全体的には3年計画の1年目の成果としてはまずまずと言えるのではないかと考えている。今後、計画に基づいた研究遂行を加速させ、次年度にはさらに大きい成果をあげられるように努めることが計画の目的を達成する上では前提になる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は代表的な石綿関連疾患である中皮腫例を対象に電子顕微鏡による観察で得られた肺内石綿繊維・非石綿繊維濃度、位相差顕微鏡による観察で得られた肺内含鉄小体・非被覆繊維濃度といった指標の間の相関関係を検討した。今後は石綿関連疾患、職業性石綿曝露歴を有する症例にとどまらず、非石綿関連疾患死亡例についても検討するため、現在ある総合病院に対して剖検肺の提供を依頼し、承諾を得ている。また、研究代表者の所属機関である愛知医科大学の倫理審査委員会へ審査申請中である。 また、これまでの肺内石綿繊維濃度は透過型電子顕微鏡で計測していたが、これまで使用していた共同利用の透過型電子顕微鏡の機種が更新され、新規に導入された機種が石綿繊維の種類を同定するための電子線を照射する分析電顕としての使用ができないものとなり、これに伴って研究に使用する肺内石綿繊維濃度測定を別施設の走査型電子顕微鏡に頼らざるを得なくなった。このため、従来の肺内石綿繊維濃度の計測値と今後使用する走査型電子顕微鏡による計測値との比較検討が必要になり、基礎的なデータを重ね、透過型・走査型の計測結果を比較可能にするための検討を行っている。今年度はこのような基礎的な検討とともに、新たな症例の肺内石綿濃度・含鉄小体濃度などの計測を重ねる予定である。 また、透過型電子顕微鏡による計測結果では中皮腫症例の肺内石綿繊維濃度は試料採取年が最近のものほど低下する傾向が見られているが、これらの肺試料を改めて前処理して肺内石綿小体濃度を計測してもほぼ同様の結果が得られている。今後はこの傾向が非石綿関連疾患の症例でも見られるかを検討することも課題である。
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Causes of Carryover |
初年度は1,950,000円を受領し、そのうち1,941,370円を支出した。これは残高で購入できる消耗品として適当なものがなかったこと、また新型コロナウィルス感染拡大に伴って予定していた研究関連の出張ができなくなったことが主な理由である。
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Research Products
(2 results)