2019 Fiscal Year Research-status Report
Continual water environment assessment related to water-borne disease control in large-scale typhoon hit areas in the Philippines
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19K10588
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Research Institution | Hiroshima Bunka Gakuen University |
Principal Investigator |
中村 哲 広島文化学園大学, 看護学部, 教授 (40207874)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
翠川 裕 鈴鹿医療科学大学, 保健衛生学部, 准教授 (10209819)
翠川 薫 鈴鹿大学, こども教育学部, 教授 (20393366)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本住血吸虫症 / フィリピン共和国 / Onchomelania quadrasi / 水系感染症 / GIS / 空間疫学 / 環境水 |
Outline of Annual Research Achievements |
以下の現地調査を2020年2月12日から16日までの4日間に実施した。 1レイテ州内2集落での日本住血吸虫媒介貝と生息水域の水質調査: レイテ州のアランアラン郡ボボノン集落とトゥンガ郡バリレ集落の共に沼沢地から採取したそれぞれ300匹と100匹の日本住血吸虫媒介貝を共同研究者の実験室で検査した。その結果、ボボノンの貝1匹から日本住血吸虫の感染幼虫が確認され(感染率:0.33%)、この集落では人への住血吸虫の感染リスクがあることを明らかにした。調査した2集落での貝の生息水域の水質について簡易水質検査キットを用いて分析した結果、共にアンモニウムと硝酸塩が検出され、有機物の含有量が高いことと大腸菌群による汚染が認められた。また、ボボノン村民が利用する井戸水では、大腸菌群や大腸菌が多数検出され、塩素や他の消毒処理の必要性が示唆された。 II. レイテ州タクロバン市街地内の水質調査: タクロバン市街地内の8施設のトイレの蛇口から8つの水質サンプルを採取し簡易水質検査キットおよびポータブル残留塩素計を用いて分析した。その結果、1地点を除き他の全てのサンプルが市営水道水であると示唆された。同水道水の蛇口での残留塩素濃度の分析では、日本の通常塩素濃度(0.1mg/L)よりも高いこと(0.5mg/L, n=6)が確認された。これらのサンプルの残留塩素0.2mg/L以上の濃度では大腸菌群による汚染は認められなかった。このような高濃度の塩素処理は、調査当時COVID-19流行に関わるフィリピン政府の警告がなされている最中であり、公衆衛生の観点から、タクロバン市当局の判断と施行によるものと考えられ、市民の手洗いによるウイルスを含む感染症とそれらの流行防止に効果を示すものと考えられた。上記の報告は英文・図表付報告として現地共同研究者に提示済である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由は以下の通りである。現地調査に関わる2研究施設、東ビサヤス地域中央病院(EVRMC)内の保健災害対策室(HEMS)および住血吸虫症防圧研究病院との研究実施合意文書の準備が遅れたことが研究の進捗を滞らせた主因であった。その他にマニラ首都圏近郊のタール火山の噴火による渡航制限やHEMSがCOVID-19によるビサヤス地方政府の行政対応業務に忙殺されていることも研究実施が遅れた他の要因となった。しかしながら前年度まで実施していた挑戦萌芽研究により協力を確立した現地共同研究者のその後の支援により、今回は研究合意文書を引き継ぐ形として、またフィリピンの医学研究に詳しい日本人研究協力者の一人である大竹英博氏を通じて事前にマニラ首都圏のフィリピン保健省(DOH)の住血吸虫症防圧主任担当居官およびレイテ島のDOH分室の住血吸虫症防圧担当官の許諾を得て現地調査を実施することが可能になった。新たな研究実施合意文書は年度内に有効となる見通しである。結果として現地調査は1回のみの実施となった。調査の成果は、実績の項で述べたように住血吸虫の新たな侵淫に関わる集落を見出した。また、レイテ島内の住血吸虫の分布に関わる情報等を入手した。さらに上下水道の水質に関しては、タクロバン市内の水道水の残留塩素濃度の分布実態を把握し、タクロバン市内での疾病流行対応に関わる公衆衛生行政の側面を知ることが出来た。このような進捗状況からみて本研究は概ね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の現地調査を通じて、共同研究者からレイテ島内の住血吸虫媒介貝の分布および貝の住血吸虫感染に関わる情報を入手できた。このことから、本年度内には地形地質等の地理条件を加味したGISマップ作製の準備に着手する。特にこのマップ作成については、現地共同研究者と研究会合を行い、所属する2つの協力研究機関に対してDOH当局を通じて住血吸虫症・下痢症患者情報の開示要請を行う。そして、これらの情報を応用して最終年度に作成する、住血吸虫感染を主としたレイテ州地域水系感染症リスク評価用地図を創出できるように準備を進める。水系感染症の現地調査に関して、住血吸虫症については、昨年度までにはレイテ島及び隣接するサマール島でそれぞれ新たな侵淫地が発見されていた。このことから、レイテ島に関しては新規住血吸虫症流行地の媒介貝の分布の特徴についても次年度の現地調査でできる限り明らかにする予定である。水系・食品媒介感染症の起因病原体に関しては現地の食品・飲料水源を中心にビブリオ科および腸内細菌科の細菌を主として検索し実施計画を進める。また、来年度の研究の進捗に寄与する事項として、マニラにあるWHO西太平洋支部ではフィリピンの住血吸虫対策に関与する国内外の研究・防圧関係者の交流会議を立ち上げ、本年中に開催を予定している。当該会議が開催される機会には本研究で得られた成果を発表し、国内外の住血吸虫症の研究者並びに防疫に関わる実務者との交流を深化させ、本研究の応用と協力に関わる発信を図りたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額の発生は、先ず現地調査の実施に関して、萌芽研究から引き継いだ現地共同研究者との本研究に関わる新規のMOU作成が遅滞したことから、研究開始が遅れ、夏季休暇時および冬季休暇時に予定していた2回の現地調査が、冬季の1回限定されたことがあげられる。またこの現地調査も1月に発生したマニラ近郊のタール火山の大噴火とそれに引き続くCOVID-19患者のフィリピン共和国への移入とビサヤス地域を含む流行の発生のため、調査計画の縮小:現地派遣研究者数と調査器材および消耗品費の支出の縮小,を余儀なくされ、実施も2月末に遅延したためである。繰越額については、本年度予定の分担研究者の現地渡航調査補助費または現地共同研究者の合同研究打ち合わせ会議費、GIS関連技術支出費等に支出する。
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