2020 Fiscal Year Research-status Report
褥瘡に対する細胞療法の確立と創治癒メカニズムの解明に関する基礎研究
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19K10898
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
齋藤 貴史 山形大学, 医学部, 教授 (80250918)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 褥瘡 / 圧迫創 / 炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
褥瘡の組織再生研究の基礎データを収集するため、マウスモデルを用いて創傷治癒メカニズムの検討を行った。褥瘡の治癒には、褥瘡発生にも関わる応力が強く影響するとされる。創傷治癒過程における上皮化完了以降の応力の加減による筋線維芽細胞の動態を明らかにする目的で形態学的検討を行った。6週齢雄性ICRマウスの背部皮膚に左右2箇所の切開創を作製し、3日間の創部固定による上皮化完了後、対照群には非固着性ガーゼ、介入群にはハイドロコロイドドレッシング材を貼付し創部にかかる引っ張り応力を緩和した。肉眼的観察により、介入群(n=4)では対照群(n=4)と比較して創幅の縮小程度が大きくなることを確認した。また、一般染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)による組織学的観察では、介入群において肉芽組織の面積が縮小傾向にあること、肉芽組織間の線維成分の規則的配列を確認した。創収縮において主要な役割を担う筋線維芽細胞について、抗Alpha-SMA抗体および抗Cx43抗体を用いた免疫組織化学染色法によりそれぞれ観察したところ、介入群において、筋線維芽細胞が対照群に比べて早い時期に互いの連結(ギャップ結合)を外し、かつ早期に創部より退縮する傾向にあることが明らかになった。ドレッシング材による創部の引っ張り応力の緩和が創の修復、筋線維芽細胞の速やかな退縮を促したと考えられる。この結果は、創の上皮化後、一見、治癒したと認識される状態であっても、真皮の創修復が完了するまでの間、創を固定し、安静とすることが褥瘡を円滑に治癒に向かわせる方法として推奨されることを支持するものであると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
褥瘡の治癒に際しては、褥瘡発生に関わる創の応力の影響が重要であるとされる。今回の検討で、マウスの切開創モデルを用いて、創部にハイドロコロイドドレッシング材を貼付し創部にかかる引っ張り応力を緩和することで創幅が肉眼的により縮小することを示すことができた。更にハイドロコロイドドレッシング材を創部に用いることで、創を縮小させるメカニズムを組織学的に検討したところ、創部のHE染色でハイドロコロイドドレッシング材を創部に貼付した群とガーゼのみ貼付した群を比較すると、ハイドロコロイドドレッシング材の使用で肉芽組織面積が小さく、肉芽組織間の線維の規則性配列に差異を見出すことができた。創傷の治癒過程における引っ張り応力の緩和が褥瘡の治癒に際しても重要であることが示された。そして、その緩和メカニズムとして作用しているのが、筋線維芽細胞の早期からのギャップ結合の解除とそれに引き続く退縮であることを免疫組織学的に示すことができた。これらの結果は、褥瘡の治癒に向かう際の基礎メカニズムの一端を示しており、創の回復および再生を促進させるために取り入れられるべき知見である。創傷治癒過程における応力の加減による創傷治癒の程度の差異とメカニズムの一端を基礎研究により明らかにすることができたが、研究の過程でcovid-19によるパンデミックのため研究室が十分に機能しない期間があり、創部組織の再生に関わるパートの研究が十分に行えなかった。次段階として、褥瘡の創組織の再生を目指した検討を行う過程にある。
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Strategy for Future Research Activity |
褥瘡の創傷治癒メカニズムの詳細を明らかにするために、創傷治癒過程における応力の加減により創傷治癒の形態に差異が生ずる機序について、抗Alpha-SMA抗体および抗Cx43抗体による免疫組織学的検討に加えて、創修復に関与する細胞マーカーを加えた免疫組織学的検討を更に進める。これらの創傷治癒に関わる基礎研究に加えて、創傷組織の再生促進に関わる検討を行う。マウスモデルを予定しており、再生研究に適切な褥瘡モデルを作成する。これまでの研究で、ラットを用いてネオジム磁石で皮膚を挟んで圧迫(2時間)、解放(2時間)を複数回繰り返すことにより実験に供する圧迫創を作成してきたが、これはマウスに応用可能な手技であり、この方法を応用して創再生研究に適したマウス実験モデルを作成する。創再生に関わる研究は現在、進捗が遅れている部分である。マウス圧迫創にGFP導入同種マウス脂肪由来幹細胞を直接、局注して幹細胞投与群を作成する。対照群は無処置とする。対照群と幹細胞投与群において、創部位の治癒過程を組織学的に経時的に比較検討する。幹細胞投与群では、投与細胞の生着を蛍光および抗GFP抗体により検出することで、生着率や組織内分布を検討する。また炎症細胞に由来する組織学的マーカーを用いて、創傷部位の免疫組織学的検討を行う。これらにより、マウス褥瘡モデルにおける脂肪由来幹細胞投与による組織改善効果の有無と創傷治癒メカニズムの一端を組織再生治療の視点から検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)covid-19によるパンデミックのため実験環境が一定期間、閉鎖され、また閉鎖解除後も活動制限などにより十分な研究環境が維持できなかったため、研究の予定の一部を次年度へ繰り越したため、研究使用物品の購入や成果発表に関わる経費が必要となり次年度の使用額が生じた。 (使用計画)マウスにおける新規褥瘡モデルの作成、サンプリング試料の血液・生化学検討および病理組織学的検討、再生因子の検討、移植細胞の検討等のため、実験動物、遺伝子工学用試薬、遺伝子工学用器具、一版薬品、細胞等の消耗品を購入する。データ処理や成果発表に伴う一般文具やソフトウェア等の消耗品、印刷費、学会発表費用および論文掲載費を予定する。
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