2022 Fiscal Year Research-status Report
褥瘡に対する細胞療法の確立と創治癒メカニズムの解明に関する基礎研究
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19K10898
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
齋藤 貴史 山形大学, 医学部, 教授 (80250918)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 褥瘡 / 炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
褥瘡は、皮膚が圧迫等により虚血や循環障害を伴う組織壊死性疾患であり、虚血再灌流による組織傷害がその病態形成に深く関与している。先行研究では、ネオジム磁石による虚血再灌流後の褥瘡モデルの作製を確立し、糖尿病モデルラットにおいて、創形成の重症化には一酸化窒素(NO)の減少による血流低下等の生命現象が関わっている可能性があることを示した。高度な炎症反応の亢進は創の進行および悪化に関与するが、活性酸素種(ROS)の過剰産生による生体の酸化ストレス状態の惹起は重要である。aldehyde reductase(ALR)はAKR1AがコードするNADPH依存性の解毒酵素であり、フリーラジカル消去作用のあるアスコルビン酸の合成に関わっている。ALR発現が欠損したマウスではカルボニル化合物の解毒が十分に行われず、臓器に障害を起こすと考えられている。ALRが褥瘡形成に与える影響について、モデルを用いて解析し褥瘡悪化に関する活性酸素種の関与について検討を行った。AKR1Aノックアウトマウス(KO群、n=4)と野生型コントロールマウス(WT群、n=4)に一定時間の磁石負荷による皮膚虚血再灌流負荷を行い、皮膚虚血再灌流障害を肉眼的・組織学的に比較検討したところ、再灌流24時間後はKO群の創傷スコアが有意に高値であった。組織学的には再灌流直後よりKO群の炎症が有意に高度であり、再灌流24時間後は更に強い炎症が認められた。次に、アスコルビン酸を投与し、WT群とKO群の皮膚虚血再灌流障害の肉眼的・組織学的変化を比較検討したところ、アスコルビン酸は再灌流24時間後のWT群とKO群の創傷スコア及び組織傷害を有意に抑制した。本所見は、褥瘡の病態形成と進展に対して活性酸素種(ROS)の関与を示すものであり、褥瘡の進展予防にフリーラジカル消去剤の投与が有用である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
マウスの切開創モデルを用いて、創部にハイドロコロイドドレッシング材を貼付し創部にかかる引っ張り応力を緩和することで創幅が肉眼的により縮小することを示すことができた。更にハイドロコロイドドレッシング材を創部に用いることで、創の治癒過程における引っ張り応力の緩和が、筋線維芽細胞の退縮を促し、創の回復および再生を促進させることを示すことができた。褥瘡の治癒に際しては、褥瘡発生に関わる創の応力の影響が重要であることをこれらの検討で示すことができた。また、褥瘡の発生と進展には皮膚虚血再灌流が深く関連していることから、糖尿病ラットの褥瘡モデルを用いて創の重症化には血中NOの減少が関与している可能性を示し、更にAKR1Aノックアウトマウスを用いて活性酸素種が皮膚虚血再灌流障害の進行と悪化に関与する可能性を示した。創傷治癒過程における応力の加減による創傷治癒の程度の差異とそのメカニズム、褥瘡の進展に関わる血中NOおよび活性酸素種の関与について基礎研究により示すことができたが、一連の研究の過程でcovid-19によるパンデミックのため、研究時間の不足や研究室が十分に機能しない期間があり、創部組織での炎症や再生に関わる研究が十分に行えなかった。褥瘡の創組織の進展および回復のメカニズムについて更なる検討を行っている過程にある。
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Strategy for Future Research Activity |
褥瘡の創傷形成および治癒過程のメカニズムの一端を解明するために、褥瘡モデルとして安定して作製が可能となった皮膚圧迫による虚血再灌流障害マウスモデルを引き続き用いる。AKR1Aノックアウトマウスは、皮膚虚血再灌流障害時の酸化ストレスによる褥瘡の進展を、活性酸素種の発生と酸化ストレスの視点から解析するのに適したモデルである。これまでの同モデルを用いた研究で、活性酸素種の過剰産生による酸化ストレスの惹起は褥瘡形成の重篤化に関わることが示唆されており、酸化ストレス惹起により発現する関連分子、生体防御作用のある抗酸化物質などの発現検討を引き続き行う。創の修復と再生に関わる機序についての研究を進める。前述のマウスモデルにおいて、アスコルビン酸投与で褥瘡の組織障害の軽減が見られたことから、他の抗酸化物質の投与を行い褥瘡改善効果について検討する。またマウス皮膚圧迫創に同種マウス脂肪由来幹細胞を直接局注して幹細胞投与群を作成し無処置対照群と2群間で、創部位の治癒過程を経時的に組織学的に比較検討する。幹細胞投与群では、投与細胞の生着についてマーカーを免疫組織学的に検出することで、生着率や組織内分布を検討する。また炎症細胞や組織再生に関わる組織学的マーカーを用いて、創傷部位の免疫組織学的検討を行う。これらにより、マウス褥瘡モデルにおける幹細胞投与による組織改善効果の有無と創傷治癒メカニズムの一端を組織学的に検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)covid-19によるパンデミックのため、日常業務における負担増加や活動制限などにより研究時間に不足が生じ、また実験室や研究室等が一定期間、十分に使用できず、活動の制約などにより十分な研究環境が維持できなかったため、研究の予定の一部を次年度へ繰り越したため、研究使用物品の購入や成果発表に関わる経費が必要となり次年度の使用額が生じた。 (使用計画)サンプリング試料の血液・生化学検討および病理組織学的検討、免疫組織学的検討、各種液性因子や炎症細胞の検討、移植組織の検討等のため、実験動物、実験用器具、遺伝子工学用試薬、遺伝子工学用器具、一版薬品、細胞等の消耗品を購入する。データ処理や成果発表に伴う一般文具やソフトウェア等の消耗品、印刷費、学会費用および論文掲載費を予定する。
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