2019 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症当事者の自己開示・自己発見・リカバリー:ナラティブの質的量的分析
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19K10942
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Research Institution | Seirei Christopher University |
Principal Investigator |
小平 朋江 聖隷クリストファー大学, 看護学部, 准教授 (50259298)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 武彦 和光大学, 現代人間学部, 教授 (60176344)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 統合失調症 / リカバリー / 当事者研究 / ピアサポート / テキストマイニング |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度~2020年度は、当事者本人が執筆したものや当事者研究、支援者やピアサポーターによる記録の分析を行う。注目すべき出版物が見出されることを想定し、分析は3年間に渡り行いたい。A.分析対象とする闘病記・手記・記事の選択、B.データの電子化とコーパスの作成、C.テキストマイニングによる量的分析、D.原文参照による質的分析、E.回復の語りを公開している当事者活動で資料収集、F.分析結果を統合し、看護学・心理学関連の学会発表。以上の計画で、当事者の視点を最大限に重視し、リカバリーの姿を浮き彫りにしていく。 こころのバリアフリー研究会総会では「みんなのナラティブ教材」の演題で、ナラティブ教材は当事者・家族、学生、支援者・研究者など立場を超えて、みんなの関係に変化をもたらす可能性があるとし、リカバリーの視点から意義を報告した。当事者・家族・支援者はじめ、一般の人々にも公開されている北海道浦河町で開催された当事者研究全国交流集会in浦河では、これまで取り組んだ当事者研究のテキストマイニング分析結果を、当事者との共同創造のヒントを得る観点からポスター発表を行った。日本心理学会では、浦河べてるの家が誕生した当時から関わった向谷地(ソーシャルワーカー)、川村(精神科医師)、清水(浦河べてるの家の映画制作者)の鼎談で、べてるの家の原点を知れる貴重な資料の分析を報告した。その分析と考察をさらに深め、べてるの家誕生以来の思想と実践を貫くものについて、鼎談のキーワードを手がかりに、一貫して流れるべてるの家の哲学の現代的意義を確認し、論文化したものが和光大学現代人間学部紀要に掲載となった。 本研究課題としては、当事者や家族、ピアサポーター、支援者、研究者が立場を超えて集い、対話し、学び合う場で研究成果の発信を実現できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当事者や家族、ピアサポーター、支援者、研究者が立場を超えて集い、対話し、学び合う場で研究成果の発信を実現できた点は、重要な意義があったと捉えている。このことは、「弱さ」のもつ創造性を公開し、発見したことを共有し、みんなで生きていく開かれた関係をつくるという、本研究課題が最も大事にしている点に通じることである。 浦河べてるの家に関しては鼎談という特徴をもつ貴重な資料を得た。向谷地・川村・清水の立場の異なる3人の語りは多声性であり、ナラティブ・アプローチに通じるものである。この貴重な資料を得て、分析した成果を学会で発表し、論文として発表できたことで、コミュニティ援助への示唆を得ることができた。この点は、本研究課題の次への発展を導くものであると考えている。 そして、これらの成果は、根拠に基づく当事者視点でのリカバリーの考え方に根差すナラティブ教材の発展につながり、豊かな教育的活用をすることができる。看護学や医学、心理学などを学ぶ学生にとっては、非常に大きな学びを提供するものとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度、研究課題に取り組む過程で得た資料や情報により、多様なスタイルの出版物があることを見出した。 統合失調症当事者が、自らの病いの体験を自身の言葉で記述し、事典という形で出版したものは注目したい。当事者らによりピアスタッフの用語を定義し、ピアサポートの経験を記述し、当事者と支援者が共同でピアサポートとは何かを論じている出版物や、当事者と精神科医師の2人が、精神疾患のある読者からの質問に回答するQ&A形式をもつ出版物などは、最近、出版されたものである。このような資料の分析に取り組み、研究を推進していく予定である。 本年度、見出した出版物においては、このように非常に特徴的な出版形態がみられることが分かった。いずれも、これからのリカバリーを考える上で貴重な資料となるであろう。 最近では、当事者や家族など多様な立場の人たちが集う学会や研究会があることから、当事者視点のリアルを反映させ、このような場で本研究課題の成果を発信したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、2020年3月に発表を予定していた第15回日本統合失調症学会が次年度に延期となった。その学会発表のために確保していた必要な旅費などの経費は、次年度に繰り越すことで有効に活用したいと考えている。 この新型コロナウイルスの影響は、2020年2月~3月以降、長期間に渡っており、打ち合わせのための出張に支障をきたしている。また、計画していた当事者との交流のための企画への参加や、研究会、シンポジウムなどが延期となり出席ができず、資料や情報の収集が困難となった。 新型コロナウイルスの状況を見ながらではあるが、出張旅費としても次年度に繰り越すことで、研究を進展させたいと考えている。
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