2020 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症当事者の自己開示・自己発見・リカバリー:ナラティブの質的量的分析
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19K10942
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Research Institution | Seirei Christopher University |
Principal Investigator |
小平 朋江 聖隷クリストファー大学, 看護学部, 准教授 (50259298)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 武彦 和光大学, 現代人間学部, 教授 (60176344)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 統合失調症 / リカバリー / 当事者研究 / ピアサポート / テキストマイニング |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度~2020年度は、当事者本人が執筆したものや当事者研究、支援者やピアサポーターによる記録の分析を行う。注目すべき出版物が見出されることを想定し、分析は3年間に渡り行いたい。A.分析対象とする闘病記・手記・記事の選択、B.データの電子化とコーパスの作成、C.テキストマイニングによる量的分析、D.原文参照による質的分析、E.回復の語りを公開している当事者活動で資料収集、F.分析結果を統合し、看護学・心理学関連の学会発表。以上の計画で、当事者視点を最大限に重視し、リカバリーの姿を浮き彫りにする。 第15回日本統合失調症学会では、23人の当事者のナラティブの内容をテキストマイニング分析の対象とし、トリガーに焦点を当て、リカバリーを支える要素としてピアサポートの重要性を報告した。本学会は当事者や家族の参加が最大の特徴であり、オンライン開催となったことから研究成果を広く発信できた。 マクロ・カウンセリング研究第13号では、浦河べてるの家の創設と当事者研究の発展に関わり続けている向谷地生良氏との共著が実現した。本論文は、研究者らの10年以上に渡る参加的な観察に基づき、対面集合が可能だったからこそ実現できた当事者研究の実践からの丹念な記述による資料の収集である。加えてビジュアル・ナラティヴの視点から、当事者研究で用いられる多様な表現方法や特徴に注目して整理・分類したものである。コロナの感染が拡大してしまった今、感染が完全に収束し克服されない限り、実現できない報告であり、非常に貴重な研究成果である。共同創造の可能性に言及できたことも意味のあるタイミングであった。 コロナ禍においても、オンラインで当事者や家族、ピアサポーター、支援者、研究者が立場を超えて集う学会で研究成果の発信を実現できた。当事者研究においては論文化により貴重な資料の蓄積に貢献した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍においても当事者や家族、ピアサポーター、支援者、研究者が立場を超えて集い、学び合う学会で研究成果の発信をオンラインという形で実現できた点は、重要な意義があったと捉えている。このことは、「弱さ」のもつ創造性を公開し、発見したことを共有し、みんなで生きていく開かれた関係をつくるという、本研究課題が最も大事にしている点であり、コロナ感染症の拡大を経験する時代におけるリアリティであるといえよう。 向谷地生良氏との共著による論文化が実現したことで、当事者研究における語りの関係の特徴である「並立的な傾聴と対話」と研究者らが提唱する「UDR-Peerサイクル」を関連づけて報告できた。公開(Uncovery)-発見(Discovery)-回復(Recovery)のひとまとまりが、仲間(Peer)という関連性のもとで実現されていることに言及できたことから、この研究成果は本研究課題を次への発展へと導くものであると考えている。 そして、これらの成果は、根拠に基づく当事者視点でのリカバリーの考え方に根差すナラティブ教材の発展につながり、豊かな教育的活用をすることができる。看護学や医学、心理学などを学ぶ学生にとっては、非常に大きな学びを提供するものとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題に取り組む過程で得た資料や情報により、多様なスタイルの出版物があることを見出している。 たとえば、当事者らによりピアスタッフの用語を定義し、ピアサポートの経験を記述している出版物から、その経験の内容を分析し考察することの意義は大きいであろう。研究者らが提唱する「UDR-Peerサイクル」における仲間(Peer)とのつながりは、どのようなものであるかを明らかにできる可能性がある。 それから、統合失調症当事者が、自らの病いの体験を自身の言葉で記述し、事典という形で出版したものや、当事者と精神科医師の2人が、精神疾患のある読者からの質問に回答するQ&A形式をもつ出版物などの分析に取り組むことは、公開(Uncovery)-発見(Discovery)-回復(Recovery)が、ひとまとまりのあるサイクルとなっていくことの意義についての考察を深めていくと考えている。このような資料の分析に取り組み、研究を推進していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、例年、発表を計画している学会は延期や中止、オンライン開催となった。また、打ち合わせのための出張は感染のリスクがあり、往来が困難な状況が長期間に渡って継続している。例年、参加している当事者との交流のための企画や、研究会、シンポジウムなどは対面集合による開催ではないため、生の声を聞く形での資料収集が困難な状況も継続している。 新型コロナウイルスの状況を見ながらではあるが、出張旅費として次年度に繰り越し、またパソコンなどの備品を充実させることで研究を進展させたいと考えている。
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