脳梁を介した大脳皮質一次運動野からの運動出力と二足歩行

2020 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 19K11370
• Research Institution: Prefectural University of Hiroshima
• Principal Investigator: 森 大志 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 教授 (50301726)
• Project Period (FY): 2019-04-01 – 2022-03-31
• Keywords: 歩行 / 神経制御 / 大脳皮質 / 経頭蓋磁気刺激

Outline of Annual Research Achievements

半球間抑制は，脳梁を介した左右の大脳皮質感覚運動領野の活動が相互の活動を調節するメカニズムの一つであり，特に巧緻運動時に機能発現していると考えられている．歩行運動の神経制御機序に関する研究は主に脳幹や脊髄に投射する下行系に向けられ，左右の大脳皮質一次運動野間の関与については十分に検討されていない．そこで本研究では，座位による歩行様運動実施時の大脳皮質一次運動野の活動を計測し，その歩行様運動への関与を明らかにすることを目的とした．被験者は，椅子上座位で右足を流れベルト上に， 左足を別の静止流れベルト上に置き，この姿勢で最も快適と自覚する流れベルト速度で右足だけの歩行様運動を実施する．この運動中に右大脳皮質一次運動野を単発磁気刺激し，左下肢前脛骨筋から記録される運動誘発電位（motor evoked potential: MEP）の振幅値から右大脳皮質一次運動野の活動性を評価する．右一側肢による歩行様運動では左大脳皮質一次運動野の活動が上昇することは明らかであり，歩行様運動時でも半球間抑制が発現していれば右大脳皮質一次運動野の活動性は低下することが予想された．またこれまでの課題では，実験対象者間での運動課題の実施精度が異なることから運動課題を一部変更した．これまでに得られた結果から，運動時に右大脳皮質一次運動野刺激のよって得られるMEP振幅は増大し，同部の活動性は上昇することが観察された．この結果は，本研究での歩行様運動時には半球間抑制のような制御メカニズムは発現していない可能性があることが示された．今後さらに実験を重ねて詳細の検討を行う必要がある．

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

本研究は，人との接触を伴うものであり，また所属機関での様々な活動制限のために昨年度は当初予定していたような進捗を得ることが出来なかった．そのため，感染拡大を予防するための実験機器及び実験室環境の整備を行い，可能な範囲で実験を実施した．その中で，当初のテスト実験で示された課題として挙がった2つの課題，流れベルト上での歩行様運動の速度と頭部と刺激用コイルとの物理的位置関係については解決できた．一方で，本研究では立位ではなく座位で肢運動を行うために実験対象者個人間でその運動の正確度が異なるという次に解決すべき課題も明らかになった．そのため，完全な椅子座位のような姿勢ではなく，座面の高い椅子に腰を軽く乗せる座位姿勢で行うことに変更した．また実験対象者にこの課題に慣れるための訓練期間を設けた．その結果，まだ十分な解析対象者数には達することが出来なかった．現状では歩行様運動時では非運動時に比べ，右大脳皮質一次運動野の活動性が上昇することが観察されている．これは当初予想していた結果とは異なるものであった．しかし，いまだ十分な対象者数ではないため，今後実験対象差数を増やし解析する必要がある．

Strategy for Future Research Activity

初年度に実施したテスト実験で明らかになった課題は解決できたが，その後の実験の中でさらに解決すべき課題が発現した．昨年度は歩行周期を細かく分けずに遊脚期と立脚期間で大脳皮質一次運動野の活動性の違いを明らかにする予定であった．しかし，個人間での歩行様運動の精度が異なるために座位姿勢を変更した．そのため，足関節運動に関わる前脛骨筋の活動が増加する前遊脚期から初期接地後までの遊脚期で大脳皮質一次運動野の活動を計測した．今後は遊脚期での活動を計測するとともに立脚期でも同様の実験を行う．
また本研究を推進している中で，一側上肢運動時の皮質運動野活動を計測することも必要であることが考えられたため歩行様運動時だけではなく上肢による把持運動時での運動野活動の計測を加えている．このため右手で指定された強度で電子握力計を把持している実験対象者の同側一次運動野を磁気刺激し，対側の短母指屈筋からMEPを記録した．活動性の評価はこれまでと同様に行う．これまでのところ，下肢運動同様に運動時には同側運動野の活動性が上昇することを示すデータが得られている．実験を行うための課題が解決され，また感染対策も強化できたため，研究対象者の協力を得て本実験の進捗を加速させる．

Causes of Carryover

令和２年度は，新型コロナウイルス感染対策，研究活動制限などのため実験規模を縮小せざるを得なかった．当初予定した国内のみならず海外での学会参加も不可能となった．そのため，新規に購入する予定であった消耗品や学会参加費，さらにはデータ解析のための人件費を使用することがなかった．この当該助成金は令和３年度助成金と合わせて使用したい．本研究で必要としている研究備品の多くは前年度に設備されたが，磁気刺激用コイルを新規に導入したい．