2021 Fiscal Year Research-status Report
脳梁を介した大脳皮質一次運動野からの運動出力と二足歩行
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19K11370
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
森 大志 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 教授 (50301726)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大脳皮質 / 運動野 / 歩行 / 磁気刺激 / 運動誘発電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳皮質感覚運動野が二足歩行運動の神経制御機序に重要な機能的意義を有している可能性が示唆されている.これまでは大脳皮質感覚運動野から脳幹や脊髄への下行性投射に着目した研究が実施されてきた.しかし,大脳半球の活動を相互に調節している左右半球間調節機序の歩行運動への関与についてはいまだ明らかではない.そこで本研究では,運動時の同側の大脳半球一次運動野(M1)の活動性に着目して相互半球間の活動性調節の実態を明らかにする研究を実施している.歩行運動は下肢だけによる運動ではなく,意識しないものの上肢運動も伴う.そこで本年度は意識して行う上肢運動と意識しないで行う上肢運動での脳活動の違いを検証する実験項目を追加して実施した.最初に意識して行う上肢運動時の脳活動を検証するために難度が異なる運動課題を設定した.検証仮説として,半球間抑制によって課題を実施した手側のM1の活動性が低下することを立案した.被験者は右手(利き手)で自分の最大握力強度(MVC)に対して10%,25%,50%強度で一定時間握力計を把持するよう指示された.この時の同側M1の活動性を対側手の短母指屈筋から記録される運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)の振幅値で評価した.また運動課題の難度等を主観的に評価した.その結果,50%MVC把持課題はほかの強度課題に比べ明らかに難度が高く,この時には同側M1の活動性が有意に増加することが明らかになった.一方,10%や25%強度の把持運動時には有意な活動性の増加はみられなかった.この結果は,意識下での上肢運動時には半球間抑制とは異なる制御メカニズムが存在する可能性を示唆した.今後は実際の歩行運動に類似した課題(意識しない上肢運動時の検証のため)を設定し,その際の脳活動の制御機序について詳細の検討を行う必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は人との接触を避けて実施することは困難である.さらに,所属機関での様々な活動制限や実験機器の故障のため昨年度は当初計画を果たすことが出来なかった.その中で,今後の研究発展を目的として本研究課題に当初予定にはなかった実験項目を追加した.二足歩行運動は一見すると下肢だけの運動にみえるが,上肢運動も伴う.また下肢運動と上肢運動は対側性に律動的に発現している.このことから上肢運動に着目した脳活動の評価も必要と考え,本年度はこれについての研究を主に進捗させた.意識した上肢運動では,その運動課題の難度が同側運動野の活動性を優位に増加させることが示された.一方,一側足による歩行様運動時の同側運動野の活動性についての検証は十分に行うことができなかった.次年度も実験環境の準備を徹底し,当初計画を実現させるための努力を続ける.
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Strategy for Future Research Activity |
今後実施すべき実験項目は,(1)一側足による歩行様運動時の同側運動野活動性の評価,(2)意識しない上肢運動時の運動野の活動性の評価,と考えている.いまだ十分な検証数ではないが,(1)の課題では同側運動野の活動性が増加するケースがみられる.したがって,次年度も引き続き本項目についての実験を継続実施する.その際,歩行時には足関節背屈が重要であることから,これに関わる前脛骨筋活動に着目して運動野の活動性評価を行う.(2)については前年度に実施した「意識する上肢運動時」の運動野活動性について一定の成果が得られたため,「意識しない上肢運動時」について具体的な課題設定を検討する.実験項目の追加によって二足歩行運動を全身運動としてとらえ,この運動時にどのような脳活動が形成されているかをより広い視野で考察することが可能になったと考える.実験を行うための感染対策も強化できていることから,研究対象者の協力を得て本実験の進捗を加速させ,得られた研究成果について学会報告する.
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Causes of Carryover |
令和3年度も,感染対策,研究活動制限,機器故障などのため実験規模を縮小せざるを得なかった.また当初予定した国内のみならず海外での学会参加も不可能であった.そのため,新規に購入する予定であった消耗品や学会参加費,さらにはデータ解析のための人件費を使用することがなかった.その上で研究機関の1年延期を申請した.一方,実験項目をより適切に実施するために磁気刺激用ダブルコイルほかを新規に購入した.令和4年度は本課題最終年度であり,研究費は消耗品購入,国内外の学会への参加,論文準備などのために使用したい.
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