2019 Fiscal Year Research-status Report
Biological analyses at the molecular and cellular levels of the effects of cold stimulation using cultured nerve cells
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19K11404
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Research Institution | Kibi International University |
Principal Investigator |
井上 茂樹 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (40531447)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加納 良男 吉備国際大学, 保健福祉研究所, 教授 (70116200)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | PC12細胞 / PC12m3細胞 / 寒冷刺激 / プログラム低温恒温器 / 神経突起形成 / 神経突起形成率 / p38 MAPキナーゼ / CREB |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は培養神経細胞を用いて、寒冷刺激の刺激強度(温度)や刺激時間を変えることにより、寒冷刺激効果に対する最小の量(閾値)や細胞死を引き起こす量(致死量)、さらに閾値と致死量の範囲で神経突起形成が高まる量(最適値)を神経突起形成率やそのメカニズムについて検証を行った。本研究は、物理療法の1つである寒冷刺激の最適有効量を決定するための基礎となり、寒冷刺激の影響を分子生物学的に示すための重要な知見になると考えている。 寒冷療法は、古代ギリシア・ローマで雪と天然の氷を使って医学的治療をしたことが始まりとされ、1881年には冷湿布が手術の補助手段として認められていた。治療に寒冷を利用する寒冷療法は、リハビリテーション分野や医学分野でも臨床応用されている。リハビリテーションでは、穏やかに冷却して、炎症、疼痛、浮腫の抑制、痙縮の減少などの効果を得るために用いられている。スポーツ現場では、治療やコンディショニングに当てられる時間は限られるため、効果的かつ効率的な治療を実施することが求められる。スポーツ外傷の日常的管理に貢献するうえでも、生体への効果を探究し、基礎研究の成果が求められると考えられる。 我々は、薬剤高感受性PC12変異細胞(PC12m3細胞)を用いて、寒冷刺激の効果を調査する実験を行った。PC12m3細胞に寒冷刺激を与えたとき、対照群と比較して寒冷刺激を与えたものは神経突起形成を誘導する結果が得られている。この研究から、p38 MAPキナーゼを介した細胞内シグナル伝達経路を活性化することにより、寒冷刺激がPC12m3細胞の神経突起形成を誘導することを示唆する結果が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度における研究実施計画は、培養神経細胞を用いてプログラム低温恒温器を使用し、寒冷刺激の刺激強度(温度)や刺激時間を変えることにより、寒冷刺激効果に対する最小の量(閾値)や細胞死を引き起こす量(致死量)、さらに閾値と致死量の範囲で神経突起形成が高まる量(最適値)を神経突起形成率から検証を行った。 対象は、培養神経細胞であるPC12m3細胞とPC12細胞を用いて行った。具体的な方法は、寒冷刺激装置であるプログラム低温恒温器を用いて、刺激強度は0℃から10℃、刺激時間は0時間から168時間、刺激頻度は1回(連続)により実施した。効果判定は、神経突起形成率、細胞生存率、p38 MAPキナーゼと転写因子の検出を実施した。 研究成果は、PC12m3細胞を用いて4℃の寒冷刺激を30分間与えると、神経突起形成が大幅に誘導される結果が得られた。一方、PC12m3細胞の対照群ではごくわずかな神経突起形成であった。 そのため、4℃の寒冷刺激を30分間与えた群は、対照群よりも約4.5 倍も高い神経突起形成が誘導される結果が得られている。興味深いことに、PC12m3細胞に5℃の寒冷刺激を30分間与えると神経突起形成があまり誘導されず、5℃の寒冷刺激を120分間与えると神経突起形成が誘導される結果が得られた。さらに、PC12m3細胞に3℃の寒冷刺激を30分間与えると神経突起形成があまり誘導されず、3℃の寒冷刺激を10分間与えると神経突起形成が誘導される結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度における研究実施計画としては、培養神経細胞を用いて、プログラム低温恒温器を使用し、寒冷刺激の安全性を細胞生存率から見出す。我々は、寒冷刺激の影響が細胞内シグナル伝達系に関連していると考え、遺伝子の活性化が神経突起形成に作用しているので、ストレス応答シグナル伝達経路であるp38 MAPキナーゼやその下流にある転写因子の活性化をウエスタンブロット法により検出する。 PC12m3細胞は、寒冷刺激による神経突起形成の誘導にはp38 MAPキナーゼ経路の活性化が必要であることが推察されている。一方、細胞がわずか1℃の温度変化を認識する方法を調査する必要があるため、p38 MAPキナーゼ経路の詳細な分析を試みる予定である。 p38 MAPキナーゼの活性化の検出実験は、PC12m3細胞に寒冷刺激を与えた場合、p38 MAPキナーゼ(phospho-p38 MAPキナーゼ)が有意に活性化する結果が得られている。PC12m3細胞を用いて3℃で5分間、4℃で30分間、5℃で120分間の寒冷刺激を与えた場合、p38 MAPキナーゼのリン酸化の程度は最も亢進する結果が得られてきている。さらに、寒冷刺激によるp38 MAPキナーゼの活性化の程度は、寒冷刺激による神経突起形成の誘導のピーク値と一致する結果も得られてきている。 我々は、PC12m3細胞を用いて高浸透圧およびマイクロ波照射などの刺激によってCREBの活性化を検出している。 CREBは、細胞増殖や分化、生存を含む多用な細胞応答、細胞外刺激に対する細胞応答を媒介するさまざまなシグナル伝達経路の標的となる転写因子である。そのため、PC12m3細胞を用いた寒冷刺激によるCREBの活性化を検討していく予定である。
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