2019 Fiscal Year Research-status Report
被災した地域スポーツクラブにおけるレジリエンスの担い手のライフヒストリー分析
Project/Area Number |
19K11453
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Research Institution | Toin University of Yokohama |
Principal Investigator |
吉田 毅 桐蔭横浜大学, スポーツ健康政策学部, 教授 (70210698)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 地域スポーツクラブ / 復興の深層要因 / レジリエンスの担い手 / ライフヒストリー / クラブ愛 / 使命感 |
Outline of Annual Research Achievements |
東日本大震災(以下「3.11」)で被災した地域スポーツクラブの復興要因の深層について、レジリエンス(回復力、抵抗力)の担い手のライフヒストリ―分析を通じて解明するために、甚大な被害を受けた宮城県B町の社会人サッカークラブ(以下「Bクラブ」)及びサッカースポーツ少年団(以下「Bスポ少」)を対象にフィールドワーク(主に聞き取り)を実施した。途中で当初の対象であったN市のサッカースポーツ少年団に問題が生じたため、予備としていたBスポ少に対象を切り替えた。切り替えが可能であったのは、Bスポ少の復興の様相は既に調査ずみであり、担い手のライフヒストリー分析だけ行えばよかったからである。聞き取りはほぼ計画通り、詳細なデータを得るべく各クラブの関係者及びレジリエンスの担い手に対し計20回ほど実施した。 3.11でBクラブもBスポ少も人的被害はなかったが活動の場を失った。各クラブの3.11以前のリーダーはキャプテンH氏、代表M氏であったが、両者も自宅が甚大な被害に遭いスポーツどころではない状況となった。にも拘わらず、両クラブとも5月の連休頃には隣町のグラウンドを借りて活動を再開した。再開の指揮を執ったのは、BクラブではH氏、Bスポ少ではM氏であった。両者がそのようにレジリエンスの担い手となり得たのは、さしずめクラブ愛ともいうべき心情によるとみられた。こうした復興要因の深層を更にライフヒストリーから探ると、H氏の場合はスポ少時代に指導を受け、サッカー強豪校に進んだ高校時代も親身に関わってくれたBクラブの代表と「絆」レベルの関係性が、M氏の場合はBスポ少時代に「一番弟子」のごとく評価してくれた監督と「家族」のような関係性が築かれており、各々においてはかつてより、そうした他者への「恩返し」として当該クラブを背負わねばという使命感が甚だ強いことが分かった。クラブ愛の深層は概してこのように捉えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は「研究実績の概要」でも示した通り、研究計画に即して2つの地域スポーツクラブ(社会人クラブ及びスポーツ少年団)を対象にフィールドワークを実施した。それにあたり、特に担い手のライフヒストリー分析については回想による誤謬の防止、ならびに詳細なデータの収集を心がけねばならず、そのためには労を惜しまず現地に足を運び聞き取りを重ねていくことが必要となるが、それに関してほとんど問題はなかったといえる。その理由としては調査旅費が十分であったことが挙げられる。途中で調査対象を切り替えても調査旅費に不足が生じることはなかったほどである。また、そのように調査対象を途中で切り替えても、本研究課題の進捗に全くといってよいほど支障を来すことはなかった。数年前から個人研究として、Bスポ少を含め3.11で被災した地域スポーツクラブの復興要因に関する調査を進めていたこと、そうした中で本研究の調査対象とし得る予備のクラブを有していたことが功を奏したとみてよい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、研究計画を実行するにあたり重大な問題が発生した。いうまでもなく新型コロナウィルス感染症の問題である。これにより、少なくとも6月頃まではフィールドワークのための出張(神奈川県から宮城県)を控えねばならず、その後も遠隔授業の準備等に時間を要し、例年以上に多忙が続くことが予測される。時間的にみて、研究計画通りにフィールドワークを実施するには無理があるといわざるを得ない。「急いては事を仕損ずる」ことに留意すべきであろう。そのため、2020年度はオーバーワークとならないように、フィールドワークの対象を研究計画にある2つのクラブから1つのクラブに減らし、慎重かつ丁寧にフィールドワークを実施することにしたい。減らした1つのクラブの分のフィールドワークは、研究期間を1年延長して2022年度に実施するより他はないと考える次第である。
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