2020 Fiscal Year Research-status Report
Does moderate voluntary exercise have any prevent effect on inflammatory bowel disease ?
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19K11474
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
松本 綾子 順天堂大学, スポーツ健康科学研究科, 特任助教 (20833825)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯泉 恭一 東北女子大学, 家政学部, 准教授 (30439351)
川崎 広明 昭和女子大学, 生活科学部, 講師 (40531380)
棗 寿喜 東海大学, 医学部, 特任助教 (90761841)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 炎症性大腸炎 / 自発運動 / 酸化ストレス / ニトロトリプトファン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、炎症性大腸炎(IBD)の運動による予防効果とその仕組みを、マウスをモデルとしてタンパク質レベルで解明することである。 初年度である令和元年度は、自発運動させた群とさせない群に3%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を添加、または未添加した飲水を5日間与え、IBD誘発群とその対象群として実験を行った。DSS投与から6日および8日後に大腸を回収し、IBDに対する運動効果を体重変化、糞の状態、腸管の短縮、サイトカインなど炎症マーカー(TNF-α、IL-1β、IL-6など)のmRNAの発現量の変化を指標に比較したところ、当初の予想に反して運動群で炎症の憎悪が示唆された。原因として、運動群では基礎代謝の上昇に伴って飲水量が増え、摂取したDSS量が相対的に増加したことが考えられた。そこで、令和2年度は、飲水量を制限して同様の実験を行った。その結果、運動群での炎症憎悪は見られなくなったものの、予想していた運動による顕著なIBD抑制効果も観察されなかった。原因解明のために当初の予定を変更し、大腸でのマイクロアレイ解析を行った。運動群と対象群でmRNA発現量の変化を、より網羅的で感度が高い方法で比較するためである。その結果、自発運動ありDSS投与なしの群で発現量に変化があった遺伝子の約70%が、運動なしDSS投与ありの群で同様の発現変化を示すことがわかった。両者のターゲットの多くが共通で、パスウェイ解析から特に免疫関連遺伝子群が顕著であった。また、IBDを誘発した群で運動の有無によるmRNAの発現を比較したところ、発現変化のあった遺伝子の全てで、DSS単独での効果を運動が打ち消す方向への変化が生じていることがわかった。よって、現象的にはIBDを完全に抑制することはできないものの、遺伝子発現レベルでは運動がDSSによる影響を抑制することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は3年間を予定している。 初年度である令和元年度には、運動群と非運動群でIBD誘発剤であるDSSを含む飲水量に顕著な違いが見られ、体内に取り込まれるDSS量に有意な差が生じた結果、当初の予想に反して運動群で炎症の悪化が示唆された。そこで、2年目である令和2年度は、飲水量を制限して再度IBDの誘発を行った。IBDに対する運動効果は、初年度同様、体重変化、糞の状態、腸管の短縮、サイトカインなど炎症マーカー(TNF-α、IL-1β、IL-6など)のmRNAの発現量の変化を指標に行ったが、今回は、運動群での顕著な炎症憎悪はなくなったものの、運動による顕著なIBD抑制効果も観察できなかった。さらに、腸管長にも有意な差が見られなかったことから、運動の有無によるタンパク質の発現量の差は極めて小さいことが予想された。そこで、当初の予定を変更し、タンパク質の解析に移る前に、高感度かつ網羅的にmRNAの発現変動を比較する目的で、大腸サンプルを使用したマイクロアレイ解析を行った。 その結果、運動のみ、DSSのみで発現が変化する遺伝子の多くが共通していること、また、それらの多くが免疫系に関わる遺伝子であることが明らかとなった。よって、運動によって顕著なIBD抑制効果が見られなかった理由の1つとして、運動とDSSでターゲート遺伝子が共通であることが示唆された。IBD誘発群で運動の有無による遺伝子発現を比較したところ、効果は弱いながらも運動がIBDの発症を抑制する可能性を示唆する結果が得られた。 予定していなかったマイクロアレイ解析により、運動では当初の予想ほどには顕著なIBD抑制効果が見られない原因の一端が明らかとなった。一方で、タンパク質レベルの解析は未着手となっているため、研究進捗状況は若干遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、炎症性大腸炎(IBD)の運動による予防効果とその仕組みをタンパク質レベルで解明することである。本研究は3年間を計画しており、最終年度である令和3年度は、タンパク質の解析を中心に行う予定である。 これまでの研究の結果、マイクロアレイ解析で運動がIBDの発症を抑制している可能性が示唆されているものの、体重変化、糞の状態、腸管の短縮、サイトカインなど炎症マーカー(TNF-α、IL-1β、IL-6など)のmRNAの発現量の変化を指標とした解析では、運動による顕著なIBD抑制効果は見られなかった。その原因の一つとして、令和2年度の研究結果から、運動とDSSではターゲット遺伝子群が共通であることが示唆された。つまり、IBD誘発マウスで、直接、運動の有無によるタンパク質の発現変化を調べるという当初の計画では、原因タンパク質の同定が困難であることが予想される。 そこで、ターゲットタンパク質をあらかじめ絞り込むために、当初の予定を変更する。まずはIBDの誘発によってどのようなタンパク質が発現変動しているかを、運動させていないIBD誘発マウスを使って調べる予定である。サンプルとして、DSS濃度が0、2、3、4 %の条件でIBDを誘発したマウスの大腸でタンパク質解析を行う。DSS濃度依存的に発現量の変化や、ニトロ化、リン酸化などの翻訳後修飾に変化がみられるものを同定する。この結果を踏まえ、マイクロアレイ解析からIBDとの関係が予想されるものを中心に運動の有無による影響をSDS-PAGEや二次元電気泳動、また、蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動で調べる。また、翻訳後修飾については抗体や修飾部位特異的な蛍光色素を利用して解析する。さらに、質量分析器を用いて変動の見られたタンパク質の同定を行う。 これらを通して、運動のIBD抑制に対する影響を分子レベルから考察する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究案は当初は3年間の予定で、2年目である令和2年度には、運動によるIBD抑制効果を確認した上でタンパク質レベルの解析を進める予定であった。しかし、初年度の研究を実施してみると、運動の有無でDSSを含む飲水量に差が生じたために、体内に取り込まれるDSS量に有意な差が生じたことで、運動群で炎症が憎悪するという想定外の結果となった。そのため、2年度目には、飲水量を制限して取り込まれるDSS量を揃えて再実験を行った。しかしながら、その結果も予想に反するもので、運動によるIBDの顕著な抑制効果は観察されなかった。そこで、タンパク質での解析に進む前に、mRNAでどのような発現変動が見られるかを網羅的に抑えておく必要があると判断し、当初予定になかったマイクロアレイ解析に取り組むことになった。その結果、予想外の結果となった原因の一つが運動とDSSとで影響を被るターゲット遺伝子が共通していることが明らかとなった。さらに、IBD発症の完全な抑制には到らないものの、運動がIBD発症に対して抑制的にはたらく可能性を示唆する結果も得られた。マイクロアレイ解析により、本研究にとって有意義で必要不可欠な新知見が得られたものの、当初のタンパク質レベルでの解析は未着手となった。研究費の未使用分は、次年度にタンパク質解析に必要な試薬やキット、組織切片の解析費用などに使用する予定である。
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