2019 Fiscal Year Research-status Report
短期のチアミン不足とエネルギー源の偏りが安静・運動時のエネルギー代謝に及ぼす影響
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19K11504
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Research Institution | Niigata University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
佐藤 晶子 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 講師 (70593888)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | チアミン / ピルビン酸脱水素酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
チアミン(ビタミンB1)は糖質代謝の律速酵素とも言えるピルビン酸脱水素酵素(PDH)の補酵素として機能しているが、研究代表者は欠乏症が生じない程度の短期的なチアミン不足によって安静時にのみ骨格筋に中性脂肪が蓄積し、脂質の利用が抑制される可能性があることを確認している。そこで、チアミンが短期的に不足したときに ①なぜ糖質代謝ではなく脂質代謝の停滞とみられる現象が生じたのか ②①の現象はなぜ運動時には見られなかったのか ③エネルギー源が糖質または脂質に偏った場合はどのような変化が生じるのかという3つの課題に対してPDHの活性が関連していると仮定し、初年度は①②の課題について下記2つの実験を実施した。 【実験1】Wistar系雄性ラットを2群に分け、普通食とチアミン欠乏食(普通食のチアミンを制限した飼料)を水分とともに1 週間自由摂取させた。 【実験2】【実験1】と同様に飼育したラットに運動を行わせた。運動は水中運動とし、運動様式の違いによる影響も検討するため、低強度持久運動(体重の3%以下のおもりを装着し、水泳運動を1時間)および高強度運動(体重の18%のおもりを装着し、20秒の水泳運動を40秒の休憩を挟んで8回)を行った。 飼育後または運動直後、運動時に主に動員される骨格筋(滑車上筋)を採取してサンプルとした。またPDH活性の測定については、市販の測定キットはチアミンピロリン酸(チアミンの活性型)を含有していることから本研究においては不適当と判断し、活性の指標としてPDHのリン酸化状態をウェスタンブロッティング法で測定した。しかし、【実験1】および【実験2】のいずれの条件においても普通食群とチアミン欠乏食群の間にPDHのリン酸化において有意な差は確認できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者は、1週間のチアミン欠乏食の摂取により食欲不振や体重減少などのチアミン欠乏症の初期症状はみられないが、骨格筋中のチアミンピロリン酸濃度は有意に低下することを予備実験において確認している。チアミンが組織中で減少すればPDHの活性も低下すると予想していたが、【実験1】【実験2】ではこれに反して、安静時および運動直後のいずれにおいても骨格筋のPDHのリン酸化状態は有意な群間差を示さず、組織中のチアミン濃度が低下していてもPDHの活性が維持されていることを示唆するものであった。 当初研究代表者は課題①について、短期的なチアミン不足によって骨格筋にのみ中性脂肪が蓄積するのは、PDHの活性が低下することでTCAサイクルにおける代謝が鈍化し、脂質が代謝過程に入りにくくなるためと考えていた。また課題②については、運動刺激がPDHの活性を高めて短期的なチアミン不足による活性の低下を相殺すると仮定していた。しかし上記の結果で示されたようにPDHとの関連は考えにくくなり、これらの仮定は否定された。 現時点で【実験1】【実験2】は終了しているが、本研究では課題③に対して、飼料を高糖質食または高脂肪食とし【実験1】【実験2】と同様の実験を行うものとしている(【実験3】)。現在は【実験3】の一部サンプルの採取まで完了しているが、課題①および②についてさらなる検討が必要となり、順調とは言い難い状況と認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果より、短期的なチアミンの摂取不足によって組織レベルのチアミンが減少しても、PDH活性には影響がないことが示唆された。そのため、安静時にのみ骨格筋に中性脂肪の蓄積が見られた理由は他の代謝過程に存在することが推測される。 チアミンが補酵素として機能しているのはPDH以外に、TCA回路の2-オキソグルタル酸脱水素酵素、分岐鎖アミノ酸の代謝に関わる分岐鎖2-オキソ酸脱水素酵素、そして五炭糖リン酸経路のトランスケトラーゼが知られている。しかし、いずれも脂質代謝と直接的な関わりが薄く、その活性低下が安静時の脂質利用を抑制するとは考えにくい。一方、チアミンを補酵素とするもう一つの酵素として、脂肪酸のα酸化に関与する2-ヒドロキシアシルCoAリアーゼ(HACL1)がある(Quant、1999、Casteels、2003)。脂肪酸は通常β酸化によって炭素が2分子ずつ切り取られ、TCA回路に合流して代謝されるが、脂肪酸の第3位(β位)に分枝があるフィタン酸などはα酸化によって第2位(α位)が酸化されてからβ酸化を受ける。HACL1がチアミン欠乏の影響を受けることは示唆されているが、α酸化を受ける脂肪酸が限られていることや、骨格筋における活性があまり確認されていないことから、短期的なチアミン不足による脂質の蓄積の原因となりうるか慎重に判断する必要である。 したがって今後は、【実験3】で採取した分析を進めると同時に、チアミンを補酵素とするPDH以外の酵素への影響についても検討を進めることとする。
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Causes of Carryover |
ウェスタンブロッティング法によるPDHのリン酸化の測定は本実験において極めて重要と考えていたため、実際のサンプルの測定の前に、抗体の選別、テストサンプルによる予備測定の実施、酵素活性測定キットとの比較などを行い、多くの時間を費やした。初年度はこれらの作業を優先し、呼吸チャンバーの購入を見送ったことから、次年度使用額が発生した。
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Research Products
(1 results)