2019 Fiscal Year Research-status Report
運動・スポーツ行動への動機づけを規定する挑戦と快情動の精神生理学的研究
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19K11522
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
星野 聡子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (80314524)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小森 康加 京都光華女子大学, 健康科学部, 教授 (90296773)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 挑戦・脅威 / 情動 / 認知的評価 / 精神生理学 / 競技ストレス / 動機づけ |
Outline of Annual Research Achievements |
誰しも運動・スポーツの実行には多様な心的過程が関与し,意思決定の前段階に経験する何らかの認知的評価によって感情が揺さぶられることを経験する. 競技者にとって取り巻く環境はストレス反応を喚起する要因となるが,その状況を「挑戦」と評価するか,「脅威」と評価するかは個々の競技者によって異なり,評価の違いが自律神経系に影響を及ぼし,ひいては運動パフォーマンを左右するのである. 競技ストレスを「挑戦」と評価する場合は,「脅威」として捉えるときよりも,競技を下支えする心身のコンディショニングがよく,優れたパフォーマンスを導くことができるであろう.これらの情動が引き起こす生理反応(ソマティック・マーカー)の作用は,意思決定や行動選択の動機づけに影響を及ぼすと考えられる. 本研究では,目前の競技ストレスに対して脅威を感じることなく,挑戦的に困難課題に立ち向かえる状態にあるのか否かについて,運動やスポーツ行動の動機づけを左右する認知的評価とソマティック・マーカーを精神生理学的手法に求め評価する.「挑戦か脅威か(challenge and threat states)」の認知的評価に加え,課題に対する需要評価・資源評価・感情評価の違いによる生理反応を心臓血管系応答に求め,行動を認知・情動・生理の3過程から多角的に探究することを目的とした. そして,実際のスポーツ競技に臨む一流選手において,挑戦・脅威のストレス反応について,今年度はパイロットスタディを行った. 勝利の可能性が少なからずある「挑戦」として捉え対処する場合には能動的対処時のストレス反応が生じ,一方で怖い・勝てなさそうであると「脅威」として捉え対処する場合には,受動的対処時のストレス反応が生じるかどうかについて検証するべく実験を実施した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
心理学とくに精神生理学や認知心理学,また生理学領域で発表されているヒトの自律神経系(心臓血管系応答)および内分泌系反応の振る舞いについて,ストレスに関する文献収集を商用データベースの活用により操作的定義を行った. 実験では,精神力が重要視されるスポーツのうち,技の正確性と表現力を競う演技型競技の心理的・生理的・行動的ストレス反応の観察を試みた. アーティスティックスイミングチーム青年期前期女子を中心として国体経験者あるいは国際大会挑戦者とし,競技に向けて既述の精神生理学的評価指標を大会や合宿の前後にわたり,演技の変容過程を測定・観察した.心理指標は,選手自身の演目に対する需要評価(受動的対処・能動的対処,目標,動機づけ水準)および,個々がもつ資源評価(自己効力感,制御可能性,技能)そして感情評価(ポジティブ情動・ネガティブ情動,快―不快,挑戦・脅威),生理指標は連続血圧(,心電図,視線と瞬目,呼吸数(心拍変動の統制説明のため)を測定した.データ解析の進捗は,昨今の社会情勢も一因となり思わしくない状況であるが,努力して進めていきたい.
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Strategy for Future Research Activity |
競技ストレスを心臓血管系応答の振る舞いのみならず,それを支配する自律神経系のバランスを指標に加えて総合的に考察することを目的として発展させる.代謝要求と脳の覚醒水準を鑑みた考察を試み,汎用性ある生理応答を求めることとする. 初年度を終え,推進方策に大きな問題が生じている.現有設備である平成23年度に科研費の補助を受けた「非侵襲連続血圧計MUB101」の老朽化および制作・販売元の廃業のため血圧測定の安定的な生体情報データ収集が困難になりつつある.また現有機器では血行動態を心臓系の振る舞いを捉えるに留まり,末梢系の血管系の振る舞い(末梢血管の抵抗値など)を測定・算出できないため,本申請研究が目指す自律神経系の支配による血行力学的解釈を詳述できない.今後の本研究遂行にあたっては,設備備品費として申請した新たな「連続血圧・血行動態測定装置(Finometer MIDI)」の整備が必須である.しかしながら,この装置もさらに改良されて新たな企画で販売されるに伴い,価格が高騰したため,本申請研究予算での購入を断念ぜざるを得なくなった.この代替方策をとることが喫緊の課題であるが,課題克服できない場合でも,現存機器の生体情報を丁寧に取り扱い,仮説を立証していくために鋭意努力していきたいと考えている.
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Causes of Carryover |
本研究では,設備備品費として自律神経系活動の振る舞いを捉えるための連続血圧・血行動態測定装置・Finometer MIDI(Finapres MedicalSystems社製)の整備を要求した.併せてこの機器専用のデータ記録用パソコンとメディアを必要として予算の使用計画を立てていた. しかし,申請していた連続血圧・血行動態測定装置(Finometer MIDI)は,輸入元(製作元)企業の吸収合併に伴い,その時期に製造販売終了であることを日本の代理販売業者(zeroC seven)を通じて知った.新しく改良・販売の「非観血式 連続血圧+血行動態計測モジュール NIBP100D-HD」は750万円という価格であることも併せて知ったが,価格の高騰から本申請研究予算の実での購入は厳しく,他に合算できる予算も獲得できなかったため購入を断念した.本研究遂行のカギとなる指標であるため,来年度以降に代替となる機器を調査して購入を希望する.
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Research Products
(3 results)