2020 Fiscal Year Research-status Report
慢性腎臓病患者のサルコペニアと2ステップ動作を用いた動的バランス能力との関連
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19K11551
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤田 和樹 大阪大学, 全学教育推進機構, 准教授 (00361080)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小笠原 一生 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (70443249)
山本 陵平 大阪大学, キャンパスライフ健康支援センター, 准教授 (00533853)
中田 研 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (00283747)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 交互片脚立ち課題 / 動的バランス能力 / 加速度情報 / サルコペニア / ロジスティック回帰モデル / 高齢者 / 慢性腎臓病患者 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は,一定のペースでゆっくりと交互に片脚立ちを行う課題(ASLST)における加速度パラメータが高齢者の動的バランス能力の有用な指標になる可能性を報告した.2020年度は,ASLSTにおける加速度パラメータによりサルコペニア判別のためのロジスティック回帰モデルについて検討を行った. 2019年度に続き,2020年度も新型コロナウィルスの影響により慢性腎臓病患者を対象とした測定はできなかった.しかし,箕面市健康福祉部の協力により市内在住の自立高齢者71名(男性27名,女性44名,年齢74.8±6.6歳)を対象に動的バランス測定とサルコペニア診断を実施することができた.本報告書では,2019年度と2020年度に測定を行った箕面市在住の高齢者138名(男性51名,女性87名,年齢74.0±6.7歳)の解析結果を報告する. サルコペニア該当の有無を従属変数,年齢,性別,BMI,ASLSTにおける加速度・角加速度パラメータの自己相関係数を独立変数とする多変量ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った.解析の結果,サルコペニア該当の寄与因子として性別とBMI(肥満),Z軸(矢状軸)方向の加速度及びX軸(垂直軸)回りの角加速度の自己相関係数が選択された(ROC曲線下面積=0.798).すなわち,サルコペニア該当の鍵は,性別と肥満,交互片脚立ち動作における骨盤の前後移動速度及び回旋速度の再現性であり,なかでも,肥満と骨盤の前後移動速度の再現性はサルコペニア該当に強く寄与することが示された.腹部肥満により身体重心は前方へシフトし,身体重心の前後移動が制限される.また,腹部肥満者では運動時に体幹の回旋が制限される.ASLST動的バランス測定から導かれたサルコペニア判別モデルは,サルコペニアの中でも近年問題になっているサルコペニア肥満の予測にすぐれている可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度に関しては、新型コロナウィルスの影響による計画の一部変更はあったものの,研究は概ね順調に進展していると言える.その理由として,今年度71名の高齢者を対象に動的バランス評価を行ったことにより,当初の研究計画で目標に掲げたサンプル数200名まで残り62名となり,2021年度で達成可能な状況となったことがあげられる.また,この2年間,138名の高齢者を対象にASLST課題を用いた動的バランス測定を行ったが,転倒などの有害事象は皆無であり,本研究の測定方法の安全性が確認された.現時点では,サルコペニア判別の予測精度に関しても,感度0.77,1-特異度0.25であり,関連する他の先行研究と比較しても遜色のない精度である.しかし,当初予定していた慢性腎臓病患者を対象とした測定に関しては,今年度も新型コロナウィルスによる院内感染対策により実施できなかった点は誤算であった. 本研究課題の実施に伴い,新たな研究課題が発生した.その一つとして,新規な動的バランス評価の比較対象として実施した静的バランス能力の代表的指標であるロンベルグ率とロコモティブシンドロームの関連に関する新たな発見があった.これに関しては,2020年度のEuropean College of Sport Scienceで報告し,現在論文投稿に向けて準備中である.また,大阪大学大学院工学研究科との連携の下,本研究で取得した動的バランスデータを人工知能(AI)による機械学習にかけてロコモ・サルコペニア判別のためのアルゴリズムを作成し,ロジスティック回帰モデルによる判別予測精度と比較する研究が開始された.また,高齢者の動的バランス能力の優劣を評価するためのスコアを算出するため,市販のiPod touchを用いて大学生や大学院生など若年者を対象にASLST課題における加速度データを収集中である.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,2020年度に引き続き箕面市健康福祉部の協力が得られる予定であり,地域の自立高齢者70名を対象にASLST課題を用いた動的バランス能力によるサルコペニア判別の予測精度について検証を進める.また,2021年度はサルコペニア判別のカットオフ値の作成についても検討を行う予定である. ASLSTを用いた動的バランス評価方法の慢性腎臓病(CKD)患者への臨床応用については,研究フィールドとなる大阪府高石市の高石藤井病院と研究ミーティングを重ねており,同病院のリハビリ病棟や回復期病棟,療養病棟の入院・外来患者を対象にデータの収集を進めていく予定である.しかし,現時点では,被験者数は当初予定していたCKD患者200名を大幅に下回る見込みである.最終的に,CKD患者を含むフレイル高齢者200名を対象にASLSTを用いた動的バランス能力とサルコペニア判別のためのロジスティック回帰モデルが構築できるよう,新型コロナウィルス感染の収束状況を見ながら効率的に測定を進めていけるよう準備したい. 本研究で開発したサルコペニア判別のアルゴリズムの汎用化・実用化研究についても,2020年度に引き続き大阪大学大学院工学研究科と連携の下,進めていく予定である.市販の加速度センサ搭載端末の利用により,病院や介護施設でフレイルな高齢者に対してASLST課題を用いた動的バランス評価の利用機会が増えれば,サルコペニアの判別精度の改善が期待できる.2020年度には,上述の高石藤井病院のほか,大阪市住之江区加賀屋・粉浜地域包括支援センターからも共同研究の承諾を得ており,大阪大学研究倫理審査委員会への研究計画の変更も完了している.2021年度はこれらの施設とも連携を密に図り,運動機能にバイアスのないデータを収集していきたい.
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Causes of Carryover |
2020年度は,所要額に対して実支出額が約100万円少なかった.この理由として,新型コロナウィルスの影響により,当初予定していた高石藤井病院における動的バランス計測が次年度に延期になったことがあげられる.これにより,同病院で使用する予定だった動的バランス装置(スポーツセンシング社製加速度センサ(5万円/セット)×4セット,ハイパワーデータ送受信機(5万円)×4セット,専用ノートパソコン×1台(30万円))計70万円の物品費が未使用となった.同様に,当初の計画では,高石藤井病院での測定に係る人件費40万円を計上していたが,これについても未使用となった. 2021年度の直接経費(前年度未使用額100万円+当該年度請求額30万円=130万円)の使用予定は以下の通りである.1)2020年度に未使用となった高石藤井病院における動的バランス測定に係る物品費と人件費で110万円.研究成果の英文校正費用及び国際雑誌への投稿費用として20万円.
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Research Products
(2 results)