2019 Fiscal Year Research-status Report
フレイルの悪循環サイクルにおける筋肉量減少とうま味感受性障害についての基礎的研究
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19K11647
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Research Institution | Kyushu Dental College |
Principal Investigator |
中道 敦子 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (20567341)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古株 彰一郎 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (30448899)
星野 由美 神奈川歯科大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (60457314)
邵 仁浩 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (10285463)
本田 尚郁 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (10840085)
松原 琢磨 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (00423137)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | うま味感受性 / 体脂肪率 / 隠れ肥満 / 骨格筋量 / 若年女性 / Tas1r1 |
Outline of Annual Research Achievements |
Clinical research ヒトを対象とした調査 2019年4月から7月に、健康な若年女性98名(19.9±1.3歳)を対象とした体組成とうま味感受性の調査を実施した。体組成はInbody470®(インボディジャパン)により測定した。うま味感受性は1mol,5mo,10mol,50mol,100ml,200mlのL-グルタミン酸ントリウム水溶液を浸潤させたろ紙ディスク法(6段階上昇法)により、スコアが高いほど濃度が高いことから味覚感受性が低いと判断した。その結果、 “うま味感受性障害(100ml以上の濃度で感知)”が疑われる者は13%であった。体組成項目で、うま味感受性との間に相関があった項目は体脂肪率のみであった(r=0.193,p=0.055)。そこで、うま味感受性を感度により100ml未満(味覚良好群)と100ml以上(味覚不良群)の2群に分け体脂肪率を比較したところ、味覚良好群は26.0±4.2%、味覚不良群は28.2±5.9%と、うま味感受性が低い者は体脂肪率が高いことが分かった。一方で、骨格筋量との相関はr= -0.028, p=0.786と有意な関連がなかった。刺激唾液量もr= -0.103, p=0.311でうま味感受性と有意な関連がなかった。本対象者の体組成は、BMI20.1±2.0kg/m2、骨格筋量19.5±1.8kg、体脂肪率26.3±4.5%、2分間の刺激唾液量5.6±2.0mlという健康な集団であったため、動物実験の結果に対する明確な実証は得られなかった。しかしながら、隠れ肥満が全体の14%存在し、BMIが普通の者のうち隠れ肥満群と非隠れ肥満群の比較では、骨格筋量が18.9±1.9kg、19.9±1.7kgと有意差があった。隠れ肥満群と非隠れ肥満群のうま味感受性については有意な差が無かったものの次年度調査に有用な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒトを対象とした実態調査は、計画に基づき若年成人の女性で実施した。対象人数は98名であった。その結果、健康な若年層からは、「骨格筋量が少ないことがうま味感受性障害に繋がる」と言う仮説の裏付けには至らず、仮説に関する知見が限定的であった。一方で、若年女性において社会的問題とされている隠れ肥満者では、筋肉量や骨格筋量が少ない事が分かった。また、体脂肪率とうま味感受性には負の相関があったことから、これを踏まえて、性年齢が異なる集団で調査を実施すればフレイルに資する知見が期待できる可能性があると考える。特に、味覚感受性は、室温、湿度、時間帯等の環境のほか、試薬の保管条件、季節等の調整可能な条件以外に、女性ホルモンによる影響を受ける。骨格筋量について、味覚障害から食事摂取量の減少と低栄養へのベクトルを確認するため、次年度は若年層ではなく、成人男性や壮年層を対象とした調査を実施する。今年度の調査は、体脂肪と味覚の関連を示唆する知見が得られたことを総合し、パイロットとしての意義があったと考える。 動物研究では、培養骨格筋細胞を用いた実験から、骨格筋同化(増殖・分化)過程でうま味特異的な受容体であるTas1r1の発現が上昇した。一方で、骨格筋異化(分解・萎縮)過程ではTas1r1の発現が著明に低下した。さらに、Tas1r1をノックダウンした骨格筋細胞では骨格筋の増殖能が著しく低下したことから、骨格筋細胞の正常な機能にTas1r1が必須である可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
Clinical research ヒトを対象とした調査 年齢層特有の体組成の実態調査をもとに、各年代でうま味感受性との関係について明確化すれば、ライフコースにおいて健康維持に有用な介入方法に資する知見が得られる。次年度は近隣の事業所従業員(40歳代の男性100名程度)および健康な高齢者が集まる地域のイベント等で、体組成とうま味味覚感受性に加え、栄養摂取状況についても調査を実施する。 Laboratory test 骨格筋代謝の解析 Tas1r1ノックアウトマウスが準備できているので、骨格筋の同化・異化プロセスにおけるTas1r1の役割を解析し、骨格筋代謝におけるうま味受容体の役割をin vivoで明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度の調査は、研究代表者の所属施設内で実施したため、調査に係る交通費と人件費が抑えられた。次年度調査のため現在調整中の施設は、公共交通機関利用で1人往復3千円程度を要す。加えて、調査は対象者の業務中となることから、調査日時が限定される。このため、熟練した調査者を増員する必要があり、研究費はこれらに充当する予定である。
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