2020 Fiscal Year Research-status Report
Release of damage-associated molecular patterns from intestinal epithelia by aluminum salt and involvement in the development of food allergy
Project/Area Number |
19K11703
|
Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
若林 あや子 日本医科大学, 医学部, 講師 (30328851)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | アルミニウム塩 / 食品添加物 / 腸管上皮細胞 / 炎症性細胞死 / アレルギー / 好酸球 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究の結果、硫酸カリウムアルミニウムまたは硫酸アンモニウムアルミニウムのような食品添加物であるアルミニウム塩を経口投与したマウスの小腸上皮細胞では、生細胞数が著しく減少し、細胞死が増加することが明らかになった。 今年度、マウスの小腸上皮細胞を分離し、フローサイトメトリーを用いて細胞死に関して解析したところ、アルミニウム塩を経口投与したマウス小腸のEpCAM+上皮細胞ではAnnexinV+ Zombie+ 死細胞が、PBS経口投与マウス上皮細胞に比べて有意に増加した。さらにこのアルミニウム塩による小腸上皮細胞死が炎症誘導性性質を持つか検討するため、炎症性細胞死の過程で出現することが知られている、アポトーシス関連スペック様カード蛋白質(ASC)スペックと呼ばれる細胞内タンパク凝集塊の形成について検討した。マウスの小腸上皮細胞を分離して上皮細胞マーカーである抗EpCAM抗体と抗ASC抗体で免疫染色し、共焦点レーザー顕微鏡により観察したところ、アルミニウム塩を経口投与したマウスのEpCAM+小腸上皮細胞では、PBS経口投与マウス上皮細胞に比べてASCスペックが有意に多く見られた。 また、アルミニウム塩を経口投与した場合の腸管における好酸球の増加と浸潤を調べるため、マウスの小腸粘膜固有層から好酸球分画を分離してフローサイトメトリーを用いて解析したところ、アルミニウム塩を経口投与したマウス小腸粘膜固有層ではSiglec-F+ CCR3+ MHCII- 好酸球の割合が増加していた。 このように今年度研究結果により、硫酸カリウムアルミニウムまたは硫酸アンモニウムアルミニウムといったアルミニウム塩の経口投与により、腸管上皮細胞の炎症性細胞死が著しく誘導され、好酸球の腸管への浸潤といったアレルギー病態の惹起に関与する可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、食品添加物である硫酸カリウムアルミニウムまたは硫酸アンモニウムアルミニウムのようなアルミニウム塩は、マウス腸管上皮細胞の炎症性細胞死を誘導する可能性が示唆された。アルミニウム塩を投与したマウス腸管上皮細胞においては、パイロトーシスやネクロトーシスといった炎症性細胞死の過程で出現するASCスペックが多く観察された。そこで今後さらに、こうしたASCスペック形成を伴う炎症性細胞死の細胞内分子や細胞死様式について調べ、腸上皮細胞特有の炎症誘導性細胞死について解析していく方針が決定したことは、大きな進歩であったと考える。 また、アルミニウム塩経口投与によって抗体産生やリンパ球活性化のような獲得免疫反応が起こるのみならず、好酸球の腸管浸潤といった腸管局所でのアレルギー・炎症病態が惹起されることが明らかになった。腸上皮細胞の炎症性細胞死は、こうしたアレルギー・炎症病態誘導の起点となる可能性が示唆されたことも大きな進展である。 今年度当初4-5月頃は、コロナ禍の影響で実験動物の搬入や試薬の納入が滞るなどの事態もあったが、その後研究環境も徐々に整い、研究はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度までのマウスを用いた研究の結果から、食品添加物である硫酸カリウムアルミニウムや硫酸アンモニウムアルミニウムの経口投与は、食物アレルギー反応や好酸球の腸管への浸潤と炎症を誘導し、これうした病態の起点は腸管上皮細胞の炎症性細胞死である可能性が示唆された。この炎症性細胞死は細胞内ASCスペック形成の誘導を伴うものであることが明らかになったが、ASCスペック形成に関与する細胞内分子および細胞死の様式については未だ明らかでない。 そこで今後は、アルミニウム塩を経口投与・未投与したマウスのEpCAM+腸管上皮細胞をFACSAriaにより分取してRNAを抽出、RNAシークエンシングを行い、炎症性細胞死の誘導に関わる細胞内分子などの遺伝子の発現変動を解析する。発現変動が観察された遺伝子については、リアルタイムPCR(RT-PCR)およびウエスタンブロッティングにより遺伝子発現変動およびタンパク質発現変化を確認 (validation) する。 さらに、アルミニウム塩を経口投与したマウスの腸上皮細胞におけるIL-18, IL-33, HMGB1といった炎症誘導性のサイトカインや細胞損傷関連分子パターン(DAMPs)の分泌に関わる遺伝子の変動についても解析し、遺伝子発現変動およびタンパク質発現変化を確認する。 食品添加物として用いられている硫酸カリウムアルミニウムまや硫酸アンモニウムアルミニウムといったアルミニウム塩の腸上皮細胞に対する作用や影響を明らかにし、アレルギー・炎症病態の起点となる腸管上皮細胞の炎症性細胞死の詳細を網羅的に遺伝子発現レベルから解析する。食物アレルギーや好酸球による腸管炎症の予防や治療の発展につながる礎となるべく、本研究を推進する所存である。
|
Causes of Carryover |
理由:今年度研究計画当初は、国内学会における研究発表のための交通費や宿泊費を計上していた。しかし、学会の開催中止やオンライン化のためにそれらが不要となった。また、コロナ禍の影響で今年度当初4-5月頃マウスの搬入や一部の試薬の納入が滞り、若干の次年度使用額が生じた。
使用計画:次年度はマウス腸上皮細胞の分取、RNA抽出、RNAシークエンシング、RT-PCR、ウエスタンブロッティングなど多くの実験研究を計画している。次年度の研究に必要なマウス、試薬、器具は多く、次年度使用となった研究費は、今後有効に使っていく予定である。今後も適切に実験を進め、貴重な研究費を社会に還元すべく研究する所存である。
|
Remarks |
若林あや子、ミョウバンによる腸管上皮損傷に伴う炎症・アレルギー誘導性損傷関連分子の放出の解析と免疫学的安全性評価の検討、日本食品化学研究振興財団 第26回研究成果報告書、p.130-6、2020年12月
若林あや子, 他、食品添加物ミョウバンによるマウス腸上皮細胞インフラマソーム活性化のトランスクリプトーム解析、生物資源ゲノム解析拠点ニュースレターNo.8、p.18、東京農業大学、2021年3月
|
Research Products
(3 results)