2020 Fiscal Year Research-status Report
新規SREBP-1プロテアーゼR4によるlipid-sensing分子機構の解明
Project/Area Number |
19K11713
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
韓 松伊 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 研究員 (80729541)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 嘉 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (80361351)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | SREBP-1 / プロテアーゼ / lipid-sensing |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新規SREBP-1プロテアーゼ(R4)によるSREBP-1活性化制御のlipid-sensing分子機構を解明し、その生理的意義を明らかにすることを目的としている。これまでの研究により、R4によるSREBP-1活性化は、ゴルジへの移行を介さず、小胞体上でSREBP-1と共局在・相互作用し、SREBP-1を切断するという新たなメカニズムを明らかにしてきた。また、コムギ無細胞タンパク質合成システムを用いてR4によるSREBP-1切断活性の再構築系を確立し、cell-free再構築系において、R4がSREBP-1を切断することを明らかにすることができた。 今年度は、in silico分子可視化とタンパク質の変異体を用いた細胞実験により、R4によるSREBP-1活性化制御のlipid-sensing分子機構のより詳細な解析を行った。R4によるSREBP-1切断は膜貫通ドメインで行われていることを明らかにし、既存のSREBP-1切断部位近辺ではあるが、異なるアミノ酸を認識していることを見出すことができた。R4はユビキチンを認識し、プロテアソームによるタンパク質分解のERADシステムに関与することが報告されているが、R4によるSREBP-1切断において、ERAD関連分子が活性化に関与していることを示すことができた。R4による切断・活性化に関与するSREBP-1認識部位は少なくとも2か所以上存在することを見いだし、1か所は同定することができた。もう一か所の候補部位の同定に関しては、コムギ無細胞タンパク質合成システムを用いて現在検討中である。また、cell-free再構築系において、脂肪酸種によるR4-SREBP-1活性化経路の予備検討を行った。今後は細胞やマウス実験で見られている、脂肪酸種によるR4-SREBP-1活性化機構をin vitroの系でより詳細に行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、in silico分子可視化や細胞実験、in vitroタンパク質発現システムを駆使して、R4によるSREBP-1切断活性メカニズムの詳細な解析を行うことができた。R4によるSREBP-1の活性化認識アミノ酸を同定し、ERAD関連分子の関与を明らかにした。また、マウスを用いたin vivo実験において、R4-SREBP-1活性化経路が脂質の量だけでなく質も制御していることを見出した。 膜貫通タンパク質であるSREBP-1やR4は、その発現や精製の効率が悪いことが問題点であったが、本研究により、新技術を用いて簡便に発現・精製できる系を確立している。確立したcell-free再構築系に各種脂質を加えた実験により、R4によるSREBP-1切断活性化に及ぼす影響の予備検討を行った。昨年度までは、cell-free再構築系に脂質を適切に取り込むことが困難であったため、今年度は、共同研究者の助言のもと最適化を行った。リポソーム作製条件をアップデートした結果、脂肪酸を含むリポソーム条件下においてもR4-SREBP-1切断活性化を評価することが可能になった。しかし、さらに精製されたタンパク質の量を増やす必要があるため、今後は大量精製の条件検討を行い、より詳細な分子メカニズムを明らかにしていく。 今年度は、R4-SREBP-1経路による脂肪酸種への作用を検討するため、高脂肪食を負荷した野生型やR4 KOマウス肝臓における脂肪酸組成解析を行った。その結果、R4 KOマウスではde novo lipogenesisの低下に伴う脂肪酸量の低下だけでなく、特異的脂肪酸種の増減が見られた。このことにより、R4-SREBP-1の脂肪酸種への新たな制御機序を見出すことができ、これまでに不明な点が多かった、SREBP-1経路による脂肪酸種を介した代謝制御機構を説明できるのではないかと期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は、目的とした、R4によるSREBP-1活性化制御のlipid-sensing分子機構を解明し、その生理的意義を明らかにするため、包括的に研究を進めていく。これまでに、培養細胞やin vivo実験により、特異的脂質種によるR4-SREBP-1経路の活性化、抑制機構を示すことができた。過去の報告により、SREBP-1経路のコレステロールによる制御機構が良く知られていたが、本研究により、脂肪酸種による制御機構を新たに見出すことができた。 次年度は、確立したcell-free再構築系に各種脂質を添加し、R4-SREBP-1複合体がどのような脂質種により制御されるかを詳細に解析する。また、R4-SREBP-1の生理的意義を明らかにするため、cell-free再構築系、培養細胞を用いたin vitro実験系に加えて、KOマウスを用いて長期間高脂肪食ウェスタンダイエット負荷し、炎症や線維化を誘発させた条件での解析を行う。細胞実験により、ERAD系タンパク質がR4-SREBP-1経路に関与することを見出しているが、in vivoにおいての検討を行う。このような実験により、R4-SREBP-1経路による肥満への作用だけでなく、ERADを引き起こすような炎症や線維化が進行したNAFLDのような病態における機能を明らかにできると考えている。マウスに長期間高脂肪食を負荷し、R4によるSREBP-1の切断活性化、脂質合成遺伝子の発現変動、脂質パラメーターの変動、炎症や線維化に関わる遺伝子やタンパク質、パラメーターを解析する。また、脂肪酸組成解析により明らかになった、R4-SREBP-1経路が一連の脂肪酸種への制御も行うということから、特異的な脂肪酸種によるR4-SREBP-1活性化抑制機構の解析を進め、肥満・炎症に及ぼす影響を検討し、脂質代謝異常病態における治療基盤を模索する。
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