2020 Fiscal Year Research-status Report
2型糖尿病の高リスク疾患関連遺伝子による新しい病態と分子機構の解明
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19K11723
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
市川 弥生子 杏林大学, 医学部, 教授 (90341081)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
粟崎 健 杏林大学, 医学部, 教授 (60359669)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 2型糖尿病 / 疾患関連遺伝子 / TBC1D4 / GLUT4 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
2型糖尿病の発症リスクが高いTBC1D4遺伝子バリアントが報告され、注目されている。その世界的に稀少な遺伝子バリアントを持つ日本人における臨床スペクトラムを明らかにするため、当科の家系と東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)から分譲された試料と臨床情報を用いて臨床データベースの構築を行った。2020年度(令和2年度)、新たにToMMoから分譲されたDNA試料1検体については、直接塩基配列解析を行い、R684Xのヘテロ接合体であることを確認した。当科の1家系3名およびToMMoから試料・情報分譲をうけた5名、計8名 (60歳代5名、30歳代1名、20歳代1名、年齢不明1名)については、いずれも、調査時点では、糖尿病は発症していなかった。1名で2型糖尿病の家族歴がみられた。これまでの臨床病態解析の成果を日本人類遺伝学会第65回大会にて発表した。 TBC1D4のショウジョウバエオルソログ遺伝子であるpollux(plx)遺伝子の機能解析のために、plx突然変異体を用いてグリコーゲンならびに脂肪の貯蔵状態をPAS染色ならびにOilRedO染色により調べた。成虫と幼虫の脳、骨格筋、脂肪体におけるグリコーゲンと脂肪を調べたが、コントロールと顕著な違いは見られなかった。さらに、plx突然変異ならびにplxの過剰発現が個体に与える影響として、絶食耐性を調べた。その結果、予備的結果ではあるが、plx突然変異は絶食に対して影響しないが、plx過剰発現は、絶食に対する耐性を亢進しうるという興味深い結果を得た。また研究解析ツールとして、GFPタグされたトランスポーター、ヒトR684X 変異に相当するplxΔCを発現するトランスジェニック系統作成のためのコンストラクションを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2型糖尿病の発症リスクに関与するTBC1D4の特定の遺伝子バリアントを持つ日本人を、計8名見出すことができた。今後も、症例を蓄積し、検討していく。 複数のplx突然変異体を用いて、plx変異における影響の検出を試みたが、これまで明確な影響を検出できていない。一方で、上述の過剰発現による飢餓耐性効果は期待を抱かされるものである。また、脂肪組織においてplxを強制発現すると個体は発生できないという結果も得ている。過剰発現やヒトR684X様の変異分子の発現による解析の準備を行なったので、今後はノックダウン、ノックアウトによるLOF(loss of function)解析に拘らず、GOF(gain of function: 機能獲得型)の解析も視野に入れてplxの機能解析を行なっていく。
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Strategy for Future Research Activity |
1. TBC1D4 遺伝子バリアントを持つ日本人の臨床スペクトラム 対象症例について、臨床経過をみていくとともに、新規該当例を見出し、日本人における臨床像を明らかにしていく。当科のホモ接合症例については、寒冷期に傾眠性や認知機能の悪化がみられている。認知機能低下の原因精査を進めるとともに、調子の良い季節と寒冷期の検査結果を比較し、バイオマーカーとなるものがないかどうか検討していく。 2.ショウジョウバエを用いたTBC1D4の分子機構に関する研究 2020年度に引き続き、plx突然変異やplx組織特異的なノックダウンが、糖代謝や行動に与える影響を個体レベルで解析する。また、ヒトTBC1D4の機能から想定されるショウジョウバエplx の機能として、グルコーストランスポーターや昆虫の血糖であるトレハローストランスポーターの膜移行の制御を仮定し、これについて現在作成中のGFPタグされたトランスポーターを発現するトランスジェニック系統を用いて解析する。また、plx機能については、plxノックダウン系統に加えて、plx過剰発現個体やヒトR684X 変異に相当するplxΔCを発現するトランスジェニック個体を用いて解析を行い、plxの分子機能を解明する。
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Causes of Carryover |
2020年度は、COVID-19感染が国内外に拡がり、購入予定品の搬入も遅れ、次年度使用額が生じた。また、国内外の学会の現地参加を控え、web参加としたため、旅費は発生しなかった。東北メディカル・メガバンク機構からの該当検体の分譲費用、臨床データベースの構築、病態解析に、今後も使用していく。 ショウジョウバエを利用した研究に必要なトランスジェニック系統の作成において、作成に用いる遺伝子のアイソフォームについて再検討する必要がでたため、コンストラクションのやり直し等を含めて予想以上の時間を要した。さらに、コロナ禍により海外受託の取扱中止や納期延長、海外からの輸送遅延などの問題が生じたため、長鎖DNAの合成受託やトランスジェニック系統の作成受託の一部を2021年度に延期した。そのため予定していた支出が2021年度に先送りとなった。これらについては、2021年度に執行する予定である。
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[Presentation] 2型糖尿病発症の高リスク疾患関連遺伝子バリアントを有する日本人の臨床像2020
Author(s)
市川弥生子, 宮崎泰, 炭谷由計, 茂呂直紀, 渋谷裕彦, 永井健太郎, 石本麻衣, 徳重真一, 内堀歩, 石浦浩之, 三井純, 辻省次, 戸田達史, 安田和基, 千葉厚郎
Organizer
日本人類遺伝学会第65回大会