2019 Fiscal Year Research-status Report
脂質代謝に着目した副腎白質ジストロフィーの病態発症機序解明とバイオマーカーの創出
Project/Area Number |
19K11777
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
濱 弘太郎 帝京大学, 薬学部, 准教授 (20534481)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 副腎白質ジストロフィー / 極長鎖脂肪酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
指定難病である副腎白質ジストロフィー (X-linked adrenoleukodystrophy, X-ALD) は、脱髄を含む進行性の神経症状と副腎の機能不全を主徴とする先天代謝異常症であり、その原因遺伝子は、細胞内の極長鎖脂肪酸をペルオキシソームに輸送するトランスポーターである ATP-binding cassette sub-family D1 (ABCD1) である。X-ALD 患者ではこの輸送過程に異常が生じる結果、過剰な極長鎖脂肪酸が細胞内および細胞外に蓄積する。しかし、極長鎖脂肪酸の蓄積と X-ALD の臨床所見との因果関係および機序は殆ど明らかにされていない。さらに、X-ALD は原因遺伝子が 1 つであるにも関わらず、その病態の進展および臨床症状は個人間で大きく異なることが、効果的な診断と治療を行う上で障害となっており、脱髄や副腎機能不全等の病態進展と相関するマーカーの開発が強く望まれている。 本研究の目的は、極長鎖脂肪酸の代謝機構を分子レベルで明らかにすることで、極長鎖脂肪酸の蓄積と X-ALD の病態発症の因果関係を明らかにすることである。また、X-ALD 患者血漿中に高濃度に蓄積する新奇脂質分子種を見出し、その新規病態マーカーとしての有用性を評価することである。 本年はABCD1の機能異常によって生じる脂肪酸代謝過程に注目し、脂肪酸の活性化体である脂肪酸CoAの定量系を構築した。この定量系を用いて、X-ALD患者由来の線維芽細胞及びゲノム編集技術を用いて作出したABCD1欠損HeLa細胞中の各種脂肪酸CoAを定量したところ、極長鎖脂肪酸-CoAとして、26:1-CoAが極長鎖脂肪酸CoAとして最も顕著に蓄積していることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者はABCD1の機能異常によって生じる脂肪酸代謝過程に注目し、脂肪酸の活性化体である脂肪酸CoAの定量系を、イオンペア試薬を用いない移動相を用いたLC-MS系によって構築した。さらに、重水素標識脂肪酸CoAを作出し、これを内部標準物質と用いることで、実験間の評価を容易にした。この定量系を用いて、X-ALD患者由来の線維芽細胞及びゲノム編集技術を用いて作出したABCD1欠損HeLa細胞中の各種脂肪酸CoAを定量したところ、極長鎖脂肪酸-CoAとして、26:1-CoAが極長鎖脂肪酸CoAとして最も顕著に蓄積していることを見出した。これまでX-ALD患者試料を対象として行われた脂肪酸解析は、試料中の様々な複合脂質に含まれる脂肪酸の総量を測定する方法が主であり、飽和型極長鎖脂肪酸であるC26:0が最も蓄積する脂肪酸として明らかにされていた。本結果は、活性型極長鎖脂肪酸は、二重結合を1つ含むC26:1であることを示しており、構造上は不飽和度が1つ違うだけのC26:0とC26:1の脂肪酸は、ABCD1欠損下では代謝様式が異なることが示唆された。以上の結果は原著論文として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
極長鎖脂肪酸CoAを測定する方法、およびABCD1の機能異常によって最も蓄積する極長鎖脂肪酸CoAを明らかにすることができたことから、今後は、当初の予定に従って、極長鎖脂肪酸CoAの代謝を制御する分子機構の解明に着手する。また、X-ALDの原因遺伝子であるABCD1の欠損マウスは脱髄などのX-ALDの病態を忠実に反映しないことが、X-ALDの病態解明の上で大きな課題となっている。このことから、X-ALDの病態を部分的に反映するin vitroモデルを作出し、このモデルを用いて、極長鎖脂肪酸CoAの代謝異常がX-ALDの病態にどのような影響を及ぼすかを解析する。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定した試薬が、在庫不足の為に年度内に入手できなかった為、翌年度分として計上した。
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