2020 Fiscal Year Research-status Report
腸内で酢酸を生成するトリアセチンの炎症性腸疾患に対する有効性の評価
Project/Area Number |
19K11807
|
Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
吉村 征浩 神戸学院大学, 栄養学部, 准教授 (60455566)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 炎症性大腸炎 / 酢酸 / 短鎖中性脂肪 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、腸内細菌が産生する酢酸が炎症性腸疾患(IBD)に抑制的に働き、大腸炎モデル動物の症状が酢酸Na摂取により緩和することが明らかとなっている。しかし、酢酸は毒物であり多くの量を飲めない等の問題がある。そこで、本研究では小腸内で酢酸を生成するトリアセチン(TAce)に注目し、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎に対する予防効果を検討している。初年度の動物実験では、TAce摂取が大腸炎症状を緩和することを明らかにした。 2020年度は、大腸組織における各種遺伝子発現量を定量した。酢酸Na投与により制御性T細胞(Treg細胞)が大腸組織へ移行し、過剰な炎症を抑制することが知られている。本研究においてもTreg細胞のマスター遺伝子であるfoxp3遺伝子の大腸組織における発現量は、酢酸Na摂取群で有意に増加していた。当初の仮説では、TAce摂取群においても、同様の経路で炎症が抑制されていると考えていたが、興味深いことに、TAce摂取群の大腸組織では、foxp3遺伝子の発現は顕著には増加していなかった。このことから、TAce摂取群の大腸炎抑制機構は、酢酸Naとは異なることが示唆された。酢酸Na群とTAce摂取群における違いは、大腸組織の細胞接着因子発現量にも見られ、TAce摂取群におけるZo-1、cadherin-1遺伝子の発現量は増加傾向にある一方で、酢酸Na摂取群において増加は認められなかった。このことは、TAce摂取群では腸管バリア機能強化が、DSSによる大腸炎を抑制している可能性を示唆している。 以上のことから、小腸で酢酸を生成するTAceと酢酸NaのDSS誘導性大腸炎モデルに対する炎症抑制機構は異なるものであることが分かり、TAceによる炎症抑制は腸管バリア機能の強化によるものであることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、2020年度より大腸炎モデル動物に対するトリアセチンの効果を評価する予定であったが、2019年度に前倒して実行することができた。その結果、2020年度には大腸組織の遺伝子発現解析を行うことができた。遺伝子発現解析の結果から、酢酸Na摂取とトリアセチン摂取では、炎症抑制効果のメカニズムが異なる可能性、トリアセチン摂取では免疫抑制よりもむしろ、大腸上皮の腸管バリア機能の向上により炎症を抑制している可能性を示すことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
得られた結果から、トリアセチンの炎症抑制効果は免疫抑制よりも腸管バリア機能の向上によることが示唆されたことから、トリアセチンがどのような作用機序により腸管バリア機能を向上させるかに焦点を当て、引き続き、大腸組織における遺伝子発現量やタンパク質発現量の調査を実施する。また、トリアセチンは小腸管腔においてほぼ全て消化され、吸収を受けることが分かっているため、大腸組織には管腔側からトリアセチン由来の酢酸は到達していない可能性が高い。トリアセチン摂取が間接的に腸内細菌叢構成に影響を及ぼし、その結果として炎症抑制を発揮している可能性もある。そこで、最終年度では、糞便中の細菌叢の解析や、糞便移植により腸内細菌叢の関与も調査する予定である。
|
Causes of Carryover |
当初の計画ではミクロトームを購入する予定であったが、予想以上に試薬等の出費が大きく、ミクロトームは別予算で購入を行った。ミクロトームの購入を本予算から支出しない分、予定よりも繰越金が大きくなった。合わせて、COVID-19感染拡大の影響により、学会発表に伴う旅費の支出が抑えられたことも要因の一つである。
|