2019 Fiscal Year Research-status Report
小型デバイス上でのデータ処理アルゴリズムの使用メモリ領域の効率化
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19K11820
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
山上 智幸 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (80230324)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メモリ領域 / 線形メモリ領域量仮説 / 多項式時間 / NL完全問題 / 量子アニーリング / パラメタ付き決定問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高速通信網により送受信される巨大データを、小型モバイル機器(デバイス)で高速処理するために使用されるメモリ領域量の上下限値を、個々の問題について明らかにすることを目標とする。本年度は、国際会議で4編の査読付き論文を発表すると共に、国際的専門誌には1編の査読付き論文が掲載された。この5編の論文で、以下に述べる研究成果を報告した。 先行研究の成果に作業仮説「線形メモリ領域量仮説」(LSH)があり、この仮説から様々な問題の最少使用メモリ領域量の下限値が導かれる。しかし、仮説の真偽は未だ明らかではない。この LSH の真偽の検証に貢献すると期待されるのが、メモリ領域量が一定値に固定されたオートマトンであり、実際に多くの複雑なデバイスに埋め込まれている。この機械はアルゴリズムの解析が比較的容易とされているが、こうした直観に反し、本研究では2方向非決定性オートマトンを制限付き相互変換オートマトンで模倣可能であるか否かが、LSH の真偽と論理的に同値であることを示した。 外部デバイスからの補助情報により計算効率が格段に向上する場合がある。この様なデバイスは一般に「オラクル」と呼ばれ、これらを用いてデータ処理計算を相対化することで、複数の計算量クラス間の包含関係を示すことができる。本研究では、LSH が真及び偽となる2種類の相異なるオラクルを構成した。更に、弱線形メモリ領域を使って多項式時間内に解くことが可能なパラメタ付き決定問題のクラスである PsubLIN を、オラクルを用いて相対化することで、新たに他の対数メモリ領域量クラスや多項式時間クラスとの様々な包含関係を示した。 近年注目されている量子計算機の基本ハードウェアの一つに量子アニーリングがある。今後の研究準備として、この量子計算を制御する方式として初めて量子オートマトンを提案し、その利便性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の後半にコロナウィルスによる自粛措置で国際会議の中止や計算機の周辺機器の調達ができず研究活動が十分にできなかった。このために研究計画の大幅な変更を余儀なくされた。しかし、研究計画初年度として4編の査読付き国際会議論文と1編の査読付き国際ジャーナル論文を発表することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では以下の研究目標に向かい、新たな視点から研究を行う予定である。先行研究で2SAT3に基づいて提案された線形メモリ領域量仮説(LSH)に関して、新たなパラメタ付き決定問題を構築し、それら問題に必要な最少メモリ領域量の詳細な分析を通してLSHの真偽の解明に迫る。特に、新しい問題の構築には、現実的に解くことが困難であると考えられている非決定性多項式時間(NP)完全問題の入力条件を適切に設定することで、非決定性対数メモリ領域(NL)完全問題を構成するという方法を用いる。LSHを仮定した上で、こうした問題を解くために必要な最少メモリ使用量の下限値を求め、その値の妥当性からLSHの真偽に迫る。 LSHの真偽解明の視点の一つとして、先行研究ではLSHの特徴を論理式によって表現する方法を開発し、こうした表現の可能な問題のクラスSNLを定義した。しかし、SNLの構造的性質(例えば閉包性など)に関しては未知な点が多い。そこで、SNLの構造を詳細に解析することでLSHの真偽に迫る。 文脈自由言語に対数メモリ領域量で還元可能な決定問題のクラスは、データベース検索と密接な関係が有る。こうした観点から文脈自由言語に着目し、これらの言語が多項式時間内に弱線形メモリ領域量で認識可能であるか否かを明らかにする。この過程で、非循環の超グラフに基づいた制約充足問題に着目し、その特性を分析する。また、決定性文脈自由言語はメモリ領域量が対数の2乗で認識されるが、それが理論上の最少領域量であるか否か不明である。これが真に最少であると仮定して、データベース検索法の必要メモリ領域量の下限値を求める。更に、決定性プッシュダウンオートマトンの拡張である決定性k-制限オートマトンによって認識可能な言語クラスの構造的特性も明らかにする。 最後に、近年開発の進む量子計算機を用いてLSHの真偽を確かめることを目指す。
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Causes of Carryover |
(理由)研究初年度の冬以降にコロナウィルスが世界的に蔓延し、予定していたネットワーク計算機とプリンタなどの周辺機器の部品の流通が滞ったために購入が出来なかった。また、国内研究会や国際会議の相次ぐ中止によって、研究計画の大幅な変更があった。6月中にドイツから来日予定であった大学院生との共同研究は令和3年3月以降に延期されたが、秋冬にかけてコロナウィルス感染が再発した場合には取り止めになる可能性もある。また、プログラミングの補助として本研究に参加予定であった中国からの大学院生もビザが取得できずに来日出来ずにいる。こうした理由により、予算の執行に大きな変更が生じた。 (使用計画)研究計画2年目は、コロナウィルスによる大学内での研究活動の自主規制が緩和されるに従って、本来の研究計画に沿った研究活動を再開する予定である。計画初年度に執行出来なかった計算機環境の整備を行う予定である。旅行の自粛が順次解除され出入国の規制が緩和されるのを待って、国内研究会や国際会議での研究成果発表を再開する予定である。
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