2021 Fiscal Year Research-status Report
小型デバイス上でのデータ処理アルゴリズムの使用メモリ領域の効率化
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19K11820
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
山上 智幸 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (80230324)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コルモゴロフ計算量 / 並列計算 / 情報の論理的な深さ / データマイニング / 機械学習 / 量子コンピュータ / プッシュダウンオートマトン / ファジー技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画実施3年目は研究内容の更なる進展を目標として掲げ、査読有りジャーナル論文2編と査読有り国際会議論文5編を年度中に出版した。残念ながら国際会議にはコロナ禍の為に出席できず、オンラインでの遠隔発表となった。以下簡潔に研究成果の内容を記す。 (1) 幅広く収集した様々な情報の中から関連するデータを抽出するデータマイニングでは、計算機の資源を線形的に増加させるだけで、抽出されるデータ量が飛躍的に増加する場合がある。この量が「論理的な深さ」である。本研究では、小さなメモリ領域の量子計算機を用いて、論理的な深さの異なる情報源の具体的な例を構築した。 (2) 現実に入手できる様々な情報に曖昧性(ファジー性)が有り、それらを効率良く処理できる手法の開発が求められている。データマイニングには、類似性の高い情報を識別して取りまとめるクラスタリングの手法がある。オンライン配信による情報のデータマイニングへの応用として、本研究ではファジー計算機を用いたコルモゴロフ計算量を用いた新たな手法を開発した。 (3) システムに異常や故障が発生した場合に、急遽初期設定に復旧するメカニズムである自己修復機能は、オートメーションが進んだロボットやAIなどの機器には必要不可欠である。従来まではメモリ領域の固定されたオートマトンを用いた研究が行われてきたが、本研究では先入れ後出し方式のメモリを有するオートマトンに対し、自己修復命令シークエンスの長さの最小値を具体的に求めた。 (4) 並列計算の一種である対数領域量を有する補助記憶媒体付きプッシュダウンオートマトンを拡張したストーリッジオートマトンを新たに導入し、その計算能力の限界を明らかにした。特に、この計算機で計算される決定問題はSCと呼ばれる計算量クラスに属することを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の初年度及び次年度で導入した概念や開発した手法、並びに得られた成果を更に発展させ、メモリ領域の制限された計算に係る様々なトピックスについて詳細な研究を行った。残念なことに、コロナ禍での研究3年目は、国際会議や研究会の開催日時・方法の変更、海外の研究者との共同研究のキャンセル、また国際的な半導体不足など諸々の要因で、計画していた予算執行の大幅な変更を余儀なくされた。コロナ禍での遠隔講義や研究室学生への遠隔指導に多くの時間が取られると共に、共同研究の予定の変更などで、研究計画も大幅な修正を余儀なくされた。これらの理由から、研究期間の1年間の延長をJSTに申請し、既に許可を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度として予定していた予算執行は困難となり、来年度への研究期間延長を申請し了承されている。これにより、令和4年度は研究計画の新たな最終年度として、充実した研究内容を担保するために、より具体的な最終研究目標を再設定し、メモリ領域量が大きく制限された計算機の能力に関し、十分な研究成果を上げることを目指す。以下、計画する研究内容と目標を簡単に記す。 (1) 計算機への数値入力が2進数か1進数かに因って計算時間やメモリ領域量に大きな違いが生じる場合がある。個々の決定問題に対しこの違いを明らかにし、メモリ領域量が制限された計算機での効率の良い解法を目指す。 (2) 計算機ベースの視点から形式論理的な視点への転換により、計算時間及びメモリ領域量の制限された量子計算効率の限界を求める。特に、現在の1階述語論理の枠組みを量子化した「量子1階述語論理体系」を構築し、このような新しい枠組みの中で各種決定問題の「表現計算量」を求める。更に、量子1階述語論理と量子ゲートで量子ビットを操作して計算を行う量子回路の間の関係性を明らかにする。 (3) 制約充足問題は与えられた制約条件を全て満たす解を求める問題であり、その中でも特に解の総数を求める問題は「数え上げ問題」と呼ばれる。中でも制約条件の相互関係において「回帰性」と呼ばれる性質が欠損した場合の研究は未だ進んでいない。本研究では、回帰性の無い制約条件に限定した数え上げ制約充足問題の計算量を最大にするような制約条件の種類を特定する。 (4) 対数メモリ領域に限定されたストーリッジオートマトンを、多項式の数の論理ゲートを対数段程度重ねた論理回路を使って模倣できることを示す。更に、その逆も可能であることを示し、最終的に2つの異なる計算モデルが計算論的に同値であることを示す。
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Causes of Carryover |
2020年初頭より始まった世界的なコロナウィルスの蔓延により、令和3年度も海外の研究者との共同研究の計画や、国際会議がキャンセルされたことで参加予定研究者との交流自体が実施できなかった。また世界規模での半導体の不足による電子機器の品不足により購入予定の機器が調達できず、研究計画の大規模な見直しを余儀なくされた。その為に1年間の研究機関の延長を申請し、了承された。コロナ対策も欧米などの国々では大幅に緩和されているので、令和4年度は、当初の計画を見直して、海外研究者との共同研究や電子機器の購入を順次進めていく予定である。
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