2019 Fiscal Year Research-status Report
帰納的ゲーム理論における意思決定過程の論理的分析手法とその応用に関する研究
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19K11894
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
長谷部 浩二 筑波大学, システム情報系, 准教授 (80470045)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 帰納的ゲーム理論 / 知識論理 / 意思決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,帰納的ゲーム理論の定式化を,動的様相を含まないS5などの様相論理をもとに行った。具体的には,まず各プレイヤーの利得に関する情報を原子命題として導入し,そこから各プレイヤーの持つ戦略の選好関係や行動の選択,意思決定基準といった概念を論理式によって記述する。次に,これらの論理式を使って,帰納的ゲームにおいてプレイヤーが繰り返しゲームをプレイすることによって得られる知識を公理として追加する。以上で得られた論理体系によって,繰り返しゲームの各回における意思決定過程を証明図として記述することができる。さらに,帰納的ゲーム理論に関する既存の結果として知られている経験をもとにした意思決定とbehavior pattern の遷移の関係について,論理学的観点から説明を与えることができた。その概要は,behavior patternからの逸脱によって得られる経験を論理式として与え,その信念命題から経験をもとにした意思決定を論理推論によって導出するというものである。この定式化により,behavior patternの遷移およびそれに伴う知識の変化を,ある規則に従ったEXiの書き換えに対応させることができる。 また本年度の後半では,以上で得られた考察を,認識論的ゴシッププロトコル(epistemic gossip protocol)に応用することを試みた。本年度はまだ十分に帰納的ゲーム理論との関係を明らかにできていないが,論理的分析手法についてのいくつかの結果を得ることができた。その一部は現在論文としてまとめ,国際会議に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の当初の計画としては,帰納的ゲーム理論において各プレイヤーの行う推論を,知識論理によって定式化することを目標としていた。特に,近年のゲーム理論の論理的分析に関する研究で主流となっている動的知識論理のような複雑な体系を用いることなく,様相論理体系のS5をもとにしたより簡単な体系による定式化を行うことにより,従来の研究に比べ,より見通しが良く決定可能性の観点からも優位な体系を得ることを目指してきた。本年度は,研究実績の概要で述べた通り,この目標がほぼ達成できたと言える。特に,ゲームのプレイの過程で得られる経験からの推論と,戦略の除去のプロセスとの間の関係について,いくつかの新しい結果が得られたことは評価できると考えられる。また,認識論的ゴシッププロトコルを応用例とした研究も行い,その成果を最初の研究論文としてまとめる足がかりを得るところまで進められた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,各主体の主観的な知識の形成過程と均衡などの全体性が創発する過程との関係を,演繹的推論と帰納的推論の双方の果たす役割から明らかにすることを目指す。また,主体の持つ記憶や学習といった帰納的推論に関わる能力の違いを想定し,それが全体の均衡達成にどのような影響を及ぼすのかといった問題についても検討する。そのために,次年度は認識論的ゴシッププロトコルや帰納的ゲーム理論の論文で提案されたフェスティバルゲームなどをもとに適切な例を探し,定式化を行うところから始めたいと考えている。本年度に分析を行った認識論的ゴシッププロトコルについては,現段階ではゲーム論的要素が加味されていなかったが,今後は,秘密分散プロトコルなどのアイデアを参考に,秘密の共有に対するインセンティヴを導入した状況を検討する予定である。その上で,本年度に得られた成果をもとに,具体例を使いながら上記の分析を行うことを計画している。
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Causes of Carryover |
本年度に旅費として計画していた予算が,共同研究打ち合わせや学会発表で想定よりも少ない金額となったため,翌年度以降に研究発表旅費として利用することを計画している。
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