2019 Fiscal Year Research-status Report
多重極子展開による環境静電ポテンシャルを用いた周期境界条件FMO-MDの開発
Project/Area Number |
19K12010
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
古明地 勇人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (30357032)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フラグメント分子軌道法 / 分子動力学法 / FMO-MD / 周期境界条件 |
Outline of Annual Research Achievements |
フラグメント分子軌道法FMOは、巨大分子系に適用可能な電子状態計算手法である。タンパク質や核酸などの生体高分子などに広く適用されている。またFMOを分子動力学法MDに応用したFMO-MD法は、溶媒中の低分子化合物の科学反応シミュレーションなどで、顕著な成果を挙げてきた。だが、FMO法もFMO-MD法も、ほとんど孤立系の計算に限られてきており、周期境界条件下では実用的な速度と精度で行うことはできなかった。そこで、本課題では、多重極展開を用いて、FMOへの周期境界を導入することにした。 2019年度は、以下のように準備を行った。まず、非周期境界FMOに多重極展開を導入し、それを利用してFMO-MD計算ができることを確認した。さらに、FMOにすでに導入されていた高速な近似法のCholesky decomposition with an adaptive metric (CDAM)を改良して、必要なメモリーサイズを下げることに成功し、巨大系への実用計算が可能になった(Nakano et al., 投稿準備中)。これを周期境界に導入するためには、古典MDで広く使われている、ツリー法を用いて、FMOのフラグメント群の多重極モーメントを計算することが必要になる。今年度は、その計算のためのサブルーチン類を整備した。 なお、関連研究として、非周期境界でのアンモニアクラスターのFMO-MD計算を行い、振動状態などを明らかにした(Ninomiya et al,., 2020)。加えて、新型コロナウィルスのメインプロテアーゼの電子状態をFMO法で計算し、基質との相互作用解析を行った(Hatada et al., 投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、FMOとMDそれぞれ独立に準備する予定であったので、ほぼその通りに進捗したと考える。進捗状況については、すでに成果の概要に述べたので繰り返さないが、FMO側では、多重極近似とCDAMを整備し、MD側では多重極の計算機能を整備した。 また、それに加えて、FMO関連の研究成果として、アンモニアクラスターの解析の論文を出版できた。そして、今年度降ってわいたSARS CoV-2ウィルスのMProタンパク質のMDとFMOを組み合わせた計算にも着手した。 このように、FMO-MDと関連研究について、顕著な成果を上げることができたので、概ね、予定通り進捗したと自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
残りの二年を掛けて、FMOの多重極展開とMDのツリー法を組み合わせて、周期境界FMO-MDのプロトタイプを実装する。FMO開発者(衛研・中野達也氏)とMD開発者(古明地)が緊密に連絡を取って作業する必要がある。 これからの、アルゴリズム実装のおおまかな計画は以下の通りである。2020年度には、まず、非周期境界FMOでフラグメント毎に計算している多重極子を、周期境界のツリー構造下で足し合わせて計算する機能を追加する。さらに、それを使って、エネルギーとエネルギー勾配(力)を計算する機能を実装する。これらの計算サブルーチンはMPIで並列化しておく。2021年度にはテスト的なFMO-MD計算を水分子で走らせ、計算精度と速度を検証する。Hartree-Fock(HF)とMP2の両方での試験が必要である。可能ならば、周期境界でもフラグメントの切り替えに対応できる機能を付け加える。その時点で、簡単な化学反応がシミュレーションできるかどうか検証する。 以上の計画の遂行において、新型コロナウィルス肺炎により生じた懸念事項が二つほど存在する。一つは、東京への出張が職場から禁止されているため、中野氏との共同プログラミング作業に支障が出ていることである。上記のプログラミング作業は、FMOとMDのプログラマーが緊密に協力しないと完成できないが、遠隔的な協力では仕事が進まない恐れがある。もう一つは、古明地が富岳を用いた新型コロナウィルスに関するFMO計算プロジェクトに参加したため、そちらに工数を取られていることである。これらの懸念事項については、新型コロナの状況に応じて、柔軟に対応することが必要である。
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