2020 Fiscal Year Research-status Report
多重極子展開による環境静電ポテンシャルを用いた周期境界条件FMO-MDの開発
Project/Area Number |
19K12010
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
古明地 勇人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (30357032)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | FMO / MD / 周期境界 / 新型コロナ / プロテアーゼ / スパイク / 富岳 |
Outline of Annual Research Achievements |
フラグメント分子軌道法FMOは、巨大分子系に適用可能な電子状態計算手法である。タンパク質や核酸などの生体高分子などに広く適用されている。またFMOを分子動力学法MDに応用したFMO-MD法は、溶媒中の低分子化合物の科学反応シミュレーションなどで、顕著な成果を挙げてきた。 2020年度は、非周期境界FMOに多重極展開(CMM)を導入し、さらに高速な近似法のCholesky decomposition with an adaptive metric (CDAM)を改良して、必要なメモリーサイズを下げることに成功した(Okiyama et al., 2021)。現在、CDAMとCMMを利用したFMO-MDのテスト計算を、水とペプチド系に対して行っている。 一方、FMO-MD法の近似法である、MM-MD/FMOプロトコールを用いて、新型コロナウィルスのメインプロテアーゼやスパイクの電子状態計算を行い、ダイナミクスや基質相互作用を解析した。MM-MD/FMOプロトコールは、FMO-MDの直接対象としては大きすぎる分子系の電子状態ダイナミクスの計算方法で、古典MM-MDで構造をサンプルしてそれに対して、FMOによる量子電子状態計算を行うことで、熱揺らぎの効果を採り入れる(Komeiji & Ishikawa, 2021)。今回、メインプロテアーゼの基質結合の動的状態や(Hatada et al., 2020, 2021)、スパイクタンパク質の受容体認識に関与するアミノ酸残基などを解析し(Akisawa et al., 2021)、新型コロナに関する、生化学的知見を得ることができた。これらの計算は、富岳など国内のスーパーコンピューターで得られたもので、生体分子の電子状態計算としては、世界最高規模のものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FMO-MD法の開発を行いつつ、FMO-MDと緊密な関係にある、MM-MD/FMOプロトコールにより、新型コロナウィルスの構造タンパク質の電子状態計算を進めている。FMO-MD法の開発については、CMMとCDAMを、ABINIT-MPプログラムに実装し、現在、水クラスターとペプチド系で、テスト計算を実行中である。新型コロナの影響で計算機開発者間の対面協力が困難になってしまっため、ソフト開発はやや遅れ気味ではあるが、その一方で、時代の要請に応じ、新型コロナウィルスの計算科学的研究を遂行した。方法として、FMO-MD法の近似であるMM-MD/FMOプロトコールにより、新型コロナのメインプロテアーゼとスパイクタンパク質の電子状態計算を行い、それぞれの基質や受容体との相互作用に関して、重要な知見を得た。現在、変異株についても計算を進めている。新型コロナウィルスの感染性に関する生化学的知見に、計算科学的な裏づけを与えることができた。これらは、富岳をはじめとする、日本のスパコンの、社会的に影響力のある成果である。なお、今年度発表した原著論文は、科研費の方針に従い、すべてオープンアクセス化してあり、広く、成果の普及を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
FMO-MDのアルゴリズム実装のおおまかな計画は以下の通りである。まず、非周期境界でCDAMとCMMを入れたFMO-MDの精度解析を早急に行い、論文化する。これは現在、進行中である。これが完成した時点でフラグメント毎に計算している多重極子周期境界のツリー構造下で足し合わせて計算する機能を追加する。さらに、それを使って、エネルギーとエネルギー勾配(力)を計算する機能を実装する。これらの計算サブルーチンはMPIで並列化しておく。2021年度にはテスト的なFMO-MD計算を水分子で走らせ、計算精度と速度を検証する。Hartree-Fock(HF)とMP2の両方での試験が必要である。可能ならば、周期境界でもフラグメントの切り替えに対応できる機能を付け加える。その時点で、簡単な化学反応がシミュレーションできるかどうか検証する。この計画の遂行において、新型コロナウィルスの感染拡大が大きな問題となっている。というのは、中野氏との対面による共同プログラミング作業に支障が出ていることである。今年は、オンラインでの遠隔的な協力で仕事を進めたい 一方、MM-MD/FMO法による新型コロナウィルスのタンパク質の電子状態計算については、共同研究者の立教大・望月教授の研究室と協力して、さらに進めていく。この系については、すでに、富岳などのスパコンを利用して計算を進めるシステムを構築したため、オンラインでの研究協力体制ができあがっている。残りの一年は、特にスパイクタンパク質の変異株の、受容体や抗体への相互作用解析を推し進める予定である。
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