2019 Fiscal Year Research-status Report
ホロ・レコグナイザ:計算機から光学系への機械学習拡張による物体の完全3次元知覚
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19K12012
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
杉坂 純一郎 北見工業大学, 工学部, 准教授 (00599227)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安井 崇 北見工業大学, 工学部, 准教授 (20403438)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人工知能 / ホログラム / 光計測 / 散乱理論 / 電磁界解析 / ニューラルネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、一般に計算機内で動作するソフトウェアの形態としての人工知能をレンズ・ホログラム等から構成される光学系に拡張し、光学系と計算機の双方から構成される人工知能を構築し、物体の立体情報を正しく知覚させることである。最初に、人工知能に組み込む光学系が物体の情報を正確に取得できているか検証を行った。通常のカメラや顕微鏡では撮影できない微粒子表面のわずかな凹凸形状やガラス板表面の欠陥を、散乱された照明光の分布から復元する数値実験を行った。その結果、顕微鏡等で一般に回折限界として知られる分解能の理論限界は、物体を忠実に拡大した像を投影できないだけであり、回折限界を超えた微細な凹凸形状の情報を散乱光から抽出できることと、その具体的な処理の方法を明らかにした。同時に、処理の方法に関わらず試料の情報を取得できない真の限界の存在と、その限界値を推定する計算方法も明らかにした。以上の成果は、知りたい立体情報のみを物体の散乱光から抽出するための光学系の構成の決定につながった。 次に、ガラス板に微細な欠陥を加えた単純な形状の試料を想定し、その欠陥の凹凸を判別する人工知能を設計した。光学系側はレンズとホログラム、計算機側は一般的なニューラルネットワークから成る人工知能を設計した。判別シミュレーションの結果、計算機だけの人工知能では50%程度の正答率しか得られなかったのに対し、光学系を組み合わせた人工知能では90%以上の正答率が得られた。試料の凹凸情報が人工知能内をどのように伝播しているか追跡する解析を行ったところ、光学系によって試料の凹凸情報のみが計算機側に渡され、高い効果が現れていること、計算機のみでは、本質的に識別が不可能であることが明らかになった。この結果は特定の試料に限定されるものでなく、他の様々な形状の物体の識別にも適用できる一般的なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の当初の目標は、散乱光の中に物体の特徴情報がどのように含まれていることを明らかにすること、散乱波から物体の立体情報を効果的に抽出する光学系を設計し、演算量の少なさ、識別精度の高さの少なくともいずれかの点で優れていることを示すことであった。前者については、微粒子表面・平板上の欠陥の凹凸形状を散乱光から推定する解析を通して明らかにできている。成果の発表は2020年度に行うことになったが、従来の光学では議論できなかった微細な凹凸情報が伝播するメカニズムを解析でき、その情報量と伝播できる限界について定量的に推定できるようになった点は、当初の予定以上の進展である。これらの結果をもとに物体の特徴情報を散乱波から抽出するホログラムを設計する新手法を確立できている。微細な凹凸を判別について従来の人工知能と比較すると、同じ学習データ数(演算量)については誤認識が1/5以下で、同じ識別精度であれば1/15の学習データ数で達成できている。したがって、現時点では当初の目標を達成できており、次年度以降も大きく計画を見直すことなく研究を実施できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始時点の計画は、第一段階:物体の特徴情報を抽出する光学系の設計、第二段階:光学系と計算機の同時学習法の確立である。この計画に基づき、第一段階については初年度の実施内容に続き、(1)3次元シミュレーションに基づくホログラムの設計、(2)試料の照明条件の最適化法の確立を行う。初年度は試料の断面のみを考慮した2次元シミュレーションを用いたが、次年度以降は3次元のシミュレーションを導入し、より現実的な問題に対応するとともに、照明の角度や偏光状態など、識別処理に有効なより多くの条件を検討できるようにする。続いて、(3)ホログラムの多重記録を応用した複数の特徴情報の抽出を試みる。ホログラムは1枚に複数の像を記録でき、これを応用すると欠陥の凹凸、幅、形状などの複数の特徴量を、単一のホログラムで抽出できる。光学系側の演算量を多くし、計算機側の演算量を少なくするという本研究の方針にも沿うことになる。第二段階に向けては、(4)ホログラムの設計自動化、(5)光学系と計算機の同時学習へ向けて進める。(4)については従来のホログラム設計法と最適化手法を用いて、特徴量抽出の効果が最大になるようなホログラムの設計を、与えられた学習データに基づいて自動的に設計できるようにする。(5)については先述のスポット列のように、あらかじめ定められた原理に基づいて特徴情報を抽出するのでなく、光学系から計算機へ渡す情報量をできるだけ少なくする等の最低限の制約条件の下で、ホログラムと計算機内のニューラルネットワークを同時に学習させていくアルゴリズムを構築する。ホログラムに対する学習処理は、光学系を伝播する光波とニューラルネットワーク内部の信号の伝播の類似性をもとにアルゴリズムを構築し、情報量をできるだけ少なくするための制約条件として、スパースモデリングやシステムの特異値を用いた解析を計画している。
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Causes of Carryover |
2019年度は研究成果の発表に関して、計画の変更が生じた。投稿予定の一部の論文原稿の準備が遅延したため、2020年度に投稿することになった。そのため、投稿費を繰り越して2020年度に使用する予定である。また、学会の中止により予定していた旅費を繰り越し、2020年度に開催される旅費に充当する。2020年度も学会の開催が見送られた場合は、その他の手段、例えば論文、ウェブサイト、ポスター等に変更し、そのための費用に充当する予定である。
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Research Products
(5 results)