2020 Fiscal Year Research-status Report
ホロ・レコグナイザ:計算機から光学系への機械学習拡張による物体の完全3次元知覚
Project/Area Number |
19K12012
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
杉坂 純一郎 北見工業大学, 工学部, 准教授 (00599227)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安井 崇 北見工業大学, 工学部, 准教授 (20403438)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人工知能 / ホログラム / 光計測 / 散乱理論 / 電磁界解析 / ニューラルネットワーク / リザバー計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、光学系と計算機の双方から構成される人工知能を構築し、物体の立体情報を正しく知覚させることである。前年度は、試料の微細な凹凸情報を抽出するためのホログラムと、正しい識別結果を出力する計算機処理を別個に実装していた。本年度は光学系と計算機を分けて設計・最適化するのではなく、一体化した一つのシステムとみなし、光学系と計算機処理を同時に学習させる手法を考案した。ニューラルネットワークの誤差逆伝播法を応用したもので、学習用試料と教師データを与えると、試料表面の凹凸を正しく識別するように、ホログラムの透過率パターンと計算機内のニューラルネットワークが同時かつ自動的に最適化される。識別精度は学習用試料数200以上で90%以上、学習用試料数600以上で97%以上となり、光学系を用いず、従来の計算機処理のみで識別を行った場合より10%以上改善することを確認した。学習後のホログラムを解析すると、ホログラムを通過した時点で試料のデータはほぼクラスタリングされており、計算機側での処理の負担を少なくするように学習が進められていることを確認した。したがって、ホログラムには単純に識別精度を上げるだけでなく、計算機側の演算量を削減する効果もあることが明らかになった。ホログラムは光を透過させるだけで処理が完了するため、演算時間や消費電力は無視できるほど小さく、結果的にシステム全体の処理が高速化・低消費電力化するメリットもある。 光学系による識別処理を発展させ、ホログラムの代わりに不規則な表面形状を持つ粗面に置き換えた識別システムの検討も行った。光学系のパラメータを調整すると、識別精度は99%以上になり、より簡易なシステム構成、少ない学習試料数で優れた識別結果が得られた。本システムは物理リザバー計算の一種ともみなすことができ、凹凸識別以外にも様々な知覚処理への応用が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の当初の目的は、光学系と計算機を一つの人工知能とみなし、同時に学習処理を行うアルゴリズムを構築することであった。実際に、誤差逆伝播を応用した同時学習法を実装し、明らかな効果があることを確認できている。成果の一部は2021年度に発表することになったが、粗面を利用した識別システムなど、新たな方向性も見つかり、システム構成や応用先にさらに拡がる可能性が現れている。現在のところ、次年度は計画を大きく修正する必要はなく、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で、光学系(ホログラム)の設計法や学習法が決定しているが、識別対象の試料は、線条のキズまたは繊維状の突起構造に限られている。残された課題は、(1)より現実的な凹凸構造を識別すること、(2)光学系による演算量削減の限界を明らかにすることである。(1)については、例えばブツ(dig:物体表面が欠けた点状の構造)や、表面に付着した微粒子の識別を目標にしている。これは半導体ウェハの検査などを想定しており、識別が困難とされる問題の一つである。識別のための光学系・計算機の学習方法は、基本的に前年度と同様で良いが、試料から放射される散乱光が複雑化するため、学習データ収集のための電磁界解析方法を変更する必要がある。そのためのプログラムは準備済みであり、次年度はワークステーションや大型計算機を利用して学習データを準備し、学習処理と識別シミュレーションを行う予定である。(2)については、機械学習でよく用いられるベイズ最適化をホログラム学習アルゴリズムに適用する。光学系から計算機へ渡すデータ量を削減することが全体の演算量削減に直結するため、光学系透過時点でのデータの次元をできるだけ下げるように最適化する。また、粗面を用いたシステムは、計算機側の処理が単純な線形演算であるため、線形代数の範囲内で見通しの良いデータ削減方法が見つかる可能性がある。例えば、スパースモデリングはわずかな観測データから必要な情報を抽出することができ、光学系を透過する大量の情報の選別に適している。
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Causes of Carryover |
学会発表がオンライン開催となり、当初予定していた旅費を他の手段による研究成果公表(論文投稿、ウェブサイト作成、ポスター展示物作成)に充てたため、若干の誤差が生じた。次年度は、前年度の研究成果の未発表分を含めた論文投稿費に使用する予定である。
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