2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K12041
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
羽田 陽一 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (80647496)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 空間発話特性 / 指向特性 / 能動騒音制御 / 音響信号処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢化社会に向けて補聴支援技術はますます重要性を増しており,また大きな声での会話はプライバシー漏えいにつながることが指摘されている。これらの支援技術は,主に聞く側の観点からの検討であり,発声側に関連した研究はこれまで行われてきていない。本研究課題では,ヒトの声の放射指向特性を動的に把握し,その特性に基づいて音声を空間的に強調,あるいは抑圧する方法を明らかにし,周囲への音漏れは少ないが,聞き取りやすい会話の提供を目的とする。今年度は主に, (1)人の発話における音の動的な空間放射特性の測定と可視化,および(2)空間に放射された発声音の抑圧のための剛球モデル実験を行った。(1)の発話特性の測定用にまず,人の頭部を囲える半径30cmの球体に,48個のマイクロホンを配置したマイクロホンアレイを作成し,無響室および通常の残響のある実験室において測定を行えるように環境整備を行った。また,実際に測定を行い,発話の放射が口前方のみならず後方においても強調されることを確認した。また,周波数依存性が強いことも分かった。(2)については,剛球に口を模した一次音源スピーカを配置し,その反対方向に直線上に並べた制御用スピーカを用いて一次音源からの音が後方にて抑圧可能かを調査した。検討においてはまず比較用に計算機シミュレーションを行った。その後,中身を詰めたアクリル球体に口を模したスピーカを配置した装置を作り,その反対側に4個のスピーカが直線上に並んだエンドファイア型アレイを設置して後方への音声放射が抑圧可能かを無響室にて実験した。その結果,実際の装置においては制御領域範囲が狭い,位置ずれ等のロバスト性に欠けるということが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初予定どおり人の発話放射特性の測定を行い,また,人の頭部を模した剛球モデルに対する放射抑圧実験を計算機シミュレーションおよび無響室内での実験により確認した。発話放射特性の測定においては,無響室と通常の残響室内での測定が行えるように環境を整備し,実際に測定も行った。ヒトの発話においては,母音によっても周波数特性が複雑に変化し,また子音は高周波数も含むが発話レベルが低い,また,人によってその特性も大きくことなり,”人の発話放射特性“といった全体を包括した知見を得るには至らなかった。唯一,口から見て後方に対しても音の放射が大きいことが予想され,また実際にそのような傾向のデータもあったが,発話内容や個人への依存性が大きいことが分かった。今後は,発話の分析についてより詳細に行う必要がある。発話放射音の抑圧については,最も単純なモデルとして,人の頭部を剛球とみなしたモデルを用いた実験を行った。ある一方向のみに関して言えば,その方向への放射をもっとも効率よく再現できるのは放射方向にスピーカを直線上に並べたエンドファイア型アレイである。このため,今年度はエンドファイアアレイを頭部後方に配置し,その方向に対する放射音を抑圧する実験を試みた。しかしながら,直線方向に対して均一に音声が放射されていないことから,制御領域が狭く,またスピーカアレイの位置によって性能が大きく異なることがわかりロバスト性に欠ける結果となった。このため,制御用スピーカ配置に関しては再考が必要と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた結果および当初の計画から,今後の方策としては,(1) ヒトの発話放射特性のさらなる解析,(2) 制御用スピーカ配置の見直し,(3) リアルタイム制御系の検討,を軸に研究を進める。(1) に関しては,無響室および通常の残響のある実験室の両者において測定が可能であるため,それぞれにおいてデータを収集し,時間・周波数・空間の3つの観点から人の放射の解析を行う。特に,放射の可視化を進め,発話内容や人の依存性を明らかに,さらに実際の会話における特性についても測定を行う。(2) については,スピーカ配置をもっとも効率の良いとされているエンドファイアアレイではなく,頭部を囲むように配置することを考える。ただし,頭部を囲むためには,多数のスピーカが必要となり,現実的ではない。そこで,今後においては,例えば椅子の背もたれが頭部上方まであるような形状を想定し,背もたれの周囲にスピーカを配置し,背もたれから回り込む音を抑圧することで放射抑圧領域の拡大を目指す。この際,背もたれの形状の検討も合わせて行う。また,背もたれを用いることは,能動制御において不得意な高域の音についてはパッシブ抑圧の効果が期待でき,低域のみに集中して制御系を構築可能となる。(3) のリアルタイム系の構築においては,低域のみの制御であればディジタル信号処理における逆位相の合わせこみが全帯域よりは実行しやすくなると考えられるため,原音としての発話の収音方法と制御フィルタの生成アルゴリズムの検討に着手する。
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Research Products
(2 results)