2019 Fiscal Year Research-status Report
自律型マイクロロボットとしての単細胞生物ゾウリムシの知的行動の創発原理の解明
Project/Area Number |
19K12140
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
國田 樹 琉球大学, 工学部, 助教 (20645478)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 行動変容能 / 学習記憶能 / 環境適応能 / 単細胞生物 / ゾウリムシ / 膜電位動態 / 数理モデル / Hodgkin-Huxleyモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,自律的に移動可能なマイクロロボットの行動設計への応用を目指し,自然が創り出したマイクロロボットである単細胞生物の行動のしくみを明らかにすることを目的としている.具体的には,単細胞生物ゾウリムシの学習能をターゲットに,その学習能が高等生物と比較してどのくらいのレベルか,どのような細胞機能に基づいて実現されているかを生物実験と数理モデルの両面から明らかにしようとするものである. その実現のために研究を3段階に分けて遂行している.第1段階は,ゾウリムシが通常の生活空間とは異なる形状の空間におかれたとき,空間形状に適した運動を試行錯誤的に獲得する行動変容能(学習能)を持つことを実験的に示す段階である.第2段階は,その行動変容が短期的に記憶できることを実験的に示す段階である.第3段階は,それら学習能および短期記憶能をゾウリムシの行動を制御する膜電気動態に基づいて数理モデルで表現する段階である. 2019年度は,上述の第1段階および第2段階の基礎となる実験的研究を遂行した.その遂行にあたり「ゾウリムシが単一の刺激反応行動を繰り返すことで,行動を変容させて空間適応的な行動を生み出すか?」という問いをたてた.この問いに答えるために,ゾウリムシをその身体を転回できないほど細く行き止まりのある空間に閉じ込めて,その空間内でのゾウリムシの行動を画像解析により定量評価した. その結果,ゾウリムシが反復刺激を受けることで徐々に長距離を後退遊泳できるようになる行動変容を示し,それが数分程度の短期間のみ維持されることがわかってきた.またその維持にはゾウリムシ自身が分泌する分泌物が影響を与えている可能性があることもわかってきた.これはゾウリムシが環境適応能や記憶能を示す際に細胞機能として通常とは異なる物質を分泌していることを示すもので,ゾウリムシの行動のしくみを明らかにするうえで重要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,本研究を遂行する基盤となる実験設定を実装し,それを用いて計画段階で予測していた結果に近いゾウリムシの行動変容を確認することができた.前者は,自身の研究論文(Front. Microbiol, 2015)のゾウリムシの行動環境を基盤として,ゾウリムシが物理刺激を受けない行動をする期間を設けられるように改良を施した.実験中に手動による操作を要するが再現可能な操作であり,実験設定としての問題はないと考えている.後者については,計画段階では,これまでの研究からゾウリムシの行動変容が数十分に渡り維持されると予測していたが,実験結果からは1分程度の維持であった.今後,本研究を遂行するにあたっては,本年度の実験で得られた行動変容の維持時間が何に依存しているかを明らかにすることが必要となった.また,ゾウリムシの行動には自身の分泌物が影響を与えているとの先行的な見解があったが,行動態様に影響を与えているという具体的に結果として確認できたことは,ゾウリムシの行動のしくみを理解するうえで重要な知見となる.以上のことから,概ね当初の計画通りに進行していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り,数理モデルを構成するための基礎となる実験データの収集を中心に研究を遂行する.具体的には,ゾウリムシの行動に影響を与え得る化学物質を含む溶液条件下でのゾウリムシの行動変容を観察し,ゾウリムシの行動変容が生じるまでの時間や,行動変容の態様,行動変容の維持時間などに対する影響を実験的に検証する.また,実験的研究の成果をまとめ,生物系もしくは生物物理系の国内学会で研究発表を行う. 2020年4月末時点で新型コロナウィルス関連の対応で大学設備の利用に制限があるため,実験的研究を実施することが難しい期間については,数理モデルの基盤構築のための情報収集やプロトタイプ版のモデル構築を行う.
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Causes of Carryover |
画像解析用に自作のデスクトップパソコンを構築したが,パーツの値下がりや安価で良質なパーツの入手が可能となったために,次年度使用額を生じた.この費用については,次年度の実験消耗品として使用する.
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