2022 Fiscal Year Research-status Report
講義VOD上の議論における思考の発散・深化・収束を促す支援方法の研究
Project/Area Number |
19K12276
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
浅羽 修丈 北九州市立大学, 基盤教育センター, 教授 (50458105)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
斐品 正照 東京国際大学, 商学部, 教授 (30305354)
西野 和典 九州工業大学, 教養教育院, 教授 (70330157)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 事前学習 / バズ学習 / ソーシャルメディア / 講義ビデオ / 学習モデル / 実践的研究 / 生活的概念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,オンライン・非同期・分散での講義ビデオオンデマンド視聴学習において学習者同士がテキストコメントを用いて議論する際に,思考の発散・深化・収束という3つのステップを経ることで,より高度な共同学習環境を実現することにある.これまでの研究では,事前学習においてこの共同学習環境を実現するための「プレ・バズセッション(以下,PBと略す)」を構想し,そのオンライン化を目指したプロトタイプシステムを開発してきた. 2022年度では,以下の2つの成果を挙げることができた. 1つ目は,PBの学習モデルを構築できたことである.PBのねらいは,授業の事前に学習者の生活的概念を想起させることで,想起された生活的概念と授業で学ぶ科学的概念との相互作用を起こし,効果的な科学的概念の形成/再構築を実現することにある.すなわち,PBの学習効果は,授業の事前,授業中,授業終了以降の各学習場面において想定される.各学習場面での学習者の概念の想起/形成/再構築等を,認知心理学をベースに図式化した.この学習モデルは,PBの学習効果についての研究を計画する際の指針となるため,計画的に研究を遂行できる上で重要である. 2つ目は,PBを実際の授業で実践し,その学習効果を検証できたことにある.この実践では,構築した学習モデルを参照に「学習者の生活的概念は想起されるか.」「想起されるとすればどのような刺激に対してどのような生活的概念が想起されるか.」という2つの問いを検証した.授業の事前に5分程度の動画を視聴しながらMoodleのフォーラムにコメントを送信できる環境を学習者に用意した.送信されたコメントを分析した結果,生活的概念の想起は可能であること,動画から刺激を受けて「想起,再認」「意見,気づき」という生活的概念が想起されたこと等が明らかになった.この成果は,PBの学習効果を説明するための重要な知見となる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では,オンライン・非同期・分散での講義ビデオオンデマンド視聴学習において学習者同士がテキストコメントを用いて議論する際に,思考の発散・深化・収束という3つの思考活動の全てを実現するシステムのβ版を開発し,同システムを使った授業計画およびその実践まで進める予定であった.現状では,学習活動を事前学習である「プレ・バズセッション(以下,PBと略す)」に焦点を絞り,思考の発散を支援するプロトタイプシステムの開発に留まっている.すなわち,思考の深化と収束に関するシステムの検証と開発,および,評価実験までは至っていない. その主な原因は,PBという新しい事前学習について提案するために,PBの学習効果を説明するためのモデルの構築に時間をかけてきたことにある.本研究で目指すシステムを開発するためには,まずはその背景にある学習理論を構築することが重要である.特に,本研究では,これまでにない新しい事前学習の理論を提案しようとしている.その提案には,先行研究の調査も踏まえた慎重な議論を必要とするため,多くの時間を要する結果となった. しかしながら,PBの学習理論に関する議論は整理され,今年度の成果としてPBの学習モデルを構築することができた.開発したシステムではなく既存のLearning Management Systemを利用したものの,構築した学習モデルに従った実践的研究を実施し,PBの学習効果を検証するためのデータを収集することができた.これらの成果は,本研究において大きな研究成果といえる. これらのことを踏まえて,現在までの達成度を「やや遅れている」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」や「現在までの進捗状況」でも記述したように,現在は,プレ・バズセッション(以下,PBと略す)の思考の発散を支援するプロトタイプシステムの開発にまで至っている.また,提案している事前学習であるPBの学習モデルを構築し,実際の授業において,その学習モデルに沿った実践的研究も行うことができた.しかしながら,その実践的研究において収集したデータの分析と検証は,現在ではまだ一部しか行うことができていない. 今後は,実践的研究において収集したデータの分析をさらに進めて,PBの学習効果についてさらに検証を進めていく予定である.収集したデータは,動画を視聴しながら送信されたテキストコメントや,PBで学んだことを記述した文章等の質的データであるので,その分析には多くの時間を要することが想定される.しかし,この分析と検証によって得られる知見は,本研究の目的である思考の発散・深化・収束という3つの思考活動を基にした高度な共同学習環境を実現するための指針となることが想定される. そのため,まずは収集した質的データの分析を進めて,PBの学習効果について検証し,開発するシステムの指針を示すことが,今後の研究の推進方策である.
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Causes of Carryover |
2022年度では,実践的研究において収集した質的データの分析を行うためのPCの購入に予算を使用した.しかしながら,質的データの分析や検証が途中段階であるため,2022年度に予定していた国際会議での研究発表ができなかった.質的データの分析や検証を終え,プレ・バズセッションの学習効果について示すことができるようになった段階で,その研究成果を国際会議で公表することを計画したい. また,開発したシステムの検証用として購入を予定していたタブレットPCにおいても,システムの開発が途中段階であるため,購入を見送った.質的データの分析や検証から得られた知見を基にシステムの開発を進め,検証が必要になった段階で検証用のタブレットPCの購入を計画したい. これまで,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により,出張による対面での研究打ち合わせを控えていたが,新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行に伴い,今後は出張による対面での研究打ち合わせも再開したいと考えている.その際に,国内旅費として予算を使用する予定である.
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