2020 Fiscal Year Research-status Report
統合海氷厚推定アルゴリズムの構築と北極海氷分布変動の解明
Project/Area Number |
19K12296
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
島田 浩二 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (80421882)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 海氷 / 北極海 / 海氷厚推定 / 熱力学的成長 / 力学的成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「冬季の結氷による熱力学的海氷厚成長」と「海氷の積み重なりによる力学的成長」の2つの過程に対する独立したアルゴリズムを構築し、それらを結合することにより、真の海氷厚を求めることを試みる。2019年度は、衛星マイクロ波放射計データを用い、季節海氷厚は、その増大とともに高周波ほど放射率が低下する季節海氷の特性を考慮に入れ、季節海氷厚を推定するアルゴリズムを構築した(以降、アルゴリズムA)。アルゴリスムAの場合、雲や雪の影響などで、データ欠損となる頻度が高く、欠損の少ないアルゴリズムの構築が必要となった。そこで、2020年度は、雲や雪の影響をほとんど受けない6.9GHzのマイクロ波放射データを利用し、海氷の熱伝導度は一定の仮定を課した熱力学的海氷成長量を求める新たなアルゴリズム(以降、アルゴリズムB)を構築した。このアルゴリズムBでは、初期海氷厚を与えれば、任意の時刻の熱力学的成長のみによって増大した海氷厚が求められる。アルゴリズムAにより求められた11月~12月初旬の積み重なりが顕著ではない時期の海氷厚を初期値として与え、アルゴリズムBにて熱力学的海氷厚成長を求めた。その5日平均値と、実観測による日最頻値海氷厚データを5日平均した値との比較から、約10㎝の精度で熱力学的成長のみによる海氷厚の推定が行えることが確認された。さらに、予備的に、海氷運動の収束に伴う力学的海氷厚増幅アルゴリズムを統合した結果、5日平均値で、精度10-15㎝で海氷厚推定できることが分かった。誤差の要因は、(a)衛星海氷速度アルゴリズムの誤差の蓄積による漂流に伴う海氷存在位置のずれ、(b)衛星により求めた海氷速度の空間出力分解能が50㎞×50㎞であり、50㎞×50㎞のスケールよりも小さなスケールで生じる海氷の積み重なりが正確に再現できていないこと、に起因すると想定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由 本研究の目標達成のためには、重要なパーツとなる「(1)冬季の結氷による熱力学的海氷厚成長」と「(2)海氷の積み重なりによる力学的成長」の2つの過程に対するアルゴリズムの構築が不可欠となるが、(1)については、2つの方法のコンビネーションにより、シームレスに平坦な海氷厚を求める方法を構築することができた。但し、海氷の熱伝導率の与え方には改善の余地がある。(2)について誤差を生み出す要因は、海氷速度データの空間出力分解能にあり、長期推定を行うほど、速度誤差の蓄積による位置のズレで海氷厚推定誤差が増大する。しかし、実観測データと推定データの比較から、上記の海氷厚誤差は、位相差によるものが主であり、アルゴリズムの方法論としては正しい方法であると思われる。誤差が位相差に依存しているということは、時空間分解能を犠牲にし、位相差の時間スケールでフィルタリングした場合には、推定ができるということを意味する。よって本研究は、次年度に向けて順調に進捗していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、「冬季の結氷による熱力学的海氷厚成長」に関する2つのアルゴリズムと「(2)海氷の積み重なりによる力学的成長」に関するアルゴリズムを本格的に統合する。2020年度に行った予備的統合からの改善点の1つとして、アルゴリズムで用いる海氷の熱伝導率の改善が挙げられる。海氷直下の海洋表層混合層が結氷水温に達している海域での実観測海氷厚データに見られる海氷厚変動をベンチマークとし、実観測観測厚となる実用海氷熱伝導度を求める。また、海氷厚推定は、海氷速度の誤差に起因することから、実用的に推定できる適用限界について検討する。適用限界とは、推定可能時間スケール、推定可能字空間分解能である。 実際の北極海では海氷直下の海洋表層混合層は結氷水温に達していない海域が存在する。この表層混合層水温の結氷水温からのズレは、海氷成長の遅延をもたらし、その結果、結氷期に渡って成長する海氷厚は小さくなり、夏に海氷が消滅する場合、より早く消滅すると考えられる。すなわち、統合アルゴリズムで推定した結氷期の海氷厚から想定される海氷消滅時間と実際の消滅時間とのズレは、海洋表層混合層の貯熱量に依存していると考えられる。本研究の最後には、統合海氷厚推定アルゴリズムを用いて、表層海洋混合層の貯熱量分布の把握に関する研究を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスが蔓延し、出張自粛要請が発令されたため、出張を中止し、当該分の予算を使用できなかった。2021年度中に、改めて、研究打ち合わせを実施する計画である。但し、上半期までに出張が行えない場合、解析対象期間を増やし、大規模計算に必要な計算機環境の整備費に経費を充てる。
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