2019 Fiscal Year Research-status Report
紫外線誘発DNA損傷が非照射組織であるイネ茎頂分裂組織の転写と複製に及ぼす影響
Project/Area Number |
19K12317
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
寺西 美佳 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (10333832)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 紫外線UV-B / イネ / 紫外線抵抗性 / DNA損傷 / シクロブタン型ピリミジン二量体 |
Outline of Annual Research Achievements |
紫外線B(UV-B)は植物の生育を阻害するため、植物のUV-B抵抗性を増大させることは重要である。イネにUV-Bを照射すると、UV-Bが直接到達しない茎頂分裂組織において遺伝子発現量が変化すること、その結果として細胞分裂が阻害される可能性が見出されている。さらにこれらの現象は、UV-B誘発DNA損傷であるシクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)が元となり生じたシグナルが、UV-B照射組織から離れたUV-B非照射組織に伝達されることで起こったと考えられた。そこで本研究では、イネのUV-B抵抗性メカニズムを明らかにするため、イネにUV-Bを照射した際に、茎頂分裂組織において見られる遺伝子発現の変化を引き起こすシグナルは何か、そのシグナルはいかにしてイネの生育を制御するのかを明らかにすることを目的とした。 茎頂分裂組織での遺伝子発現変化を生み出すシグナルは何かを明らかにするため、マイクロアレイの網羅的解析により見出していたイネ茎頂分裂組織においてUV-B照射により発現量が変化する遺伝子に関して、遺伝子特異的プライマーを用いた発現量解析を行った。UV-B照射量および照射後の時間を変えたイネの茎頂分裂組織から調製したRNAを用い、リアルタイムPCRにて定量解析を行い、一部の遺伝子に関しては再現性を確認することができた。またCPDによって引き起こされた光合成活性の低下が遺伝子発現の変化を引き起こしている可能性を検証するため、培養液にスクロースを加えることで擬似的に光合成活性を上昇させた状態においてUV-B照射する条件を検討した。 UV-B照射により茎頂分裂組織の転写制御機構にどのような影響があるのかを明らかにするため、クロマチン構造変化に着目した。イネ幼苗を用い、クロマチン免疫沈降法の条件検討を行い、実験系が機能していることを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
茎頂分裂組織での遺伝子発現変化を生み出すシグナルは何かに関して、これまでUV-Bを照射したイネの茎頂分裂組織を用いた発現アレイ解析により、U V-B誘発CPD数に応じて発現量が変化する可能性が考えられる遺伝子を見出していた。そこで、発現アレイ解析において発現量変化の大きい5つの遺伝子に関して、UV-B照射量および照射後の時間を変えたイネの茎頂分裂組織から調製したRNAを用い、リアルタイムPCRにて定量解析を行った。その結果、4つの遺伝子に関しては、UV-B照射量の応じた発現変動を確認することができた。またCPDによって引き起こされた光合成活性の低下が遺伝子発現の変化を引き起こしている可能性を検証するため、水耕栽培の実験系を用い、培養液にスクロースを加えることで擬似的に光合成活性を上昇させた状態においてUV-Bを照射する条件を検討した。 UV-B照射により茎頂分裂組織の転写制御機構にどのような影響があるのかを解析するため、イネにUV-Bを照射した際の茎頂分裂組織におけるクロマチン構造変化に着目した。茎頂分裂組織はサイズが小さく、解析に必要なサンプル量を得ることが容易ではないため、条件検討としてはイネ幼苗を用いてクロマチン免疫沈降を行った。ヒストンH3リジン4ジメチル化、およびヒストンH3リジン9ジメチル化に対する抗体を用いた免疫沈降を行い、得られた画分からDNAを調製した。既に報告されているイネのユークロマチン、およびヘテロクロマチン構造をとるDNA領域に特異的なプライマーを用い、リアルタイムPCRにて定量解析を行った。その結果、実験系が機能していることが確認され、また解析に必要なサンプル量を推定することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
茎頂分裂組織での遺伝子発現変化を生み出すシグナルは何かに関して、UV-B照射量および照射後の時間を変えたイネの茎頂分裂組織から調製したRNAを用い、リアルタイムPCRによる定量解析を他の遺伝子に関しても継続して行う。またCPDによって引き起こされた光合成活性の低下が遺伝子発現の変化を引き起こしている可能性を検証するため、水耕栽培の培養液にスクロースを添加した条件下においてUV-B照射を行い、茎頂分裂組織を用いた遺伝子発現量の定量解析を行う。またイネ組織を用い、活性酸素種を定量する実験系を検討する。 UV-B照射により茎頂分裂組織の転写制御機構にどのような影響があるのかを解析するため、イネにUV-Bを照射した際の茎頂分裂組織を用いたクロマチン免疫沈降解析を行う。また、UV-B照射がイネの茎頂分裂組織の複製や組織形成に与える影響を解析するため、複製時にDNAに取り込まれるチミン塩基のアナログであるEdUを細胞に取り込ませ、UV-B照射時の茎頂分裂組織におけるDNA複製量を定量する実験系を検討する。
|
Causes of Carryover |
2019年度の解析は概ね順調に進んだが、試薬代として高額であるDNA複製量解析と活性酸素種の解析に関しては2020年度以降に行うこととしたため、試薬代が低く抑えられ、次年度使用額が生じた。また、3月に大阪にて開催される学会に参加する予定であったが、covid-19対応のため実際の開催は見送られたため、使用予定であった旅費が支出されなかったため、次年度使用額が生じた。
|