2020 Fiscal Year Research-status Report
放射線抵抗性コケ植物は相同組換えだけでDNA2本鎖切断を修復できるのか?
Project/Area Number |
19K12332
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
横田 裕一郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 主幹研究員(定常) (30391288)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂本 綾子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 上席研究員(定常) (00354960)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヒメツリガネゴケ / 放射線抵抗性 / DNA2本鎖切断 / パルスフィールドゲル電気泳動 / 相同組換え修復 / RAD51B / ゲノム編集 / CRISPR-CAS9 |
Outline of Annual Research Achievements |
相同組換え(HR)は無傷の姉妹染色分体を鋳型にしてDNA 2本鎖切断(DSB)を正確に修復する。非相同末端結合(C-NHEJ)はDSB末端を最低限に処理して再結合する、比較的保守的な修復経路である。オルタナティブ末端結合(Alt-EJ)はDSB末端を削り込み、偶然に存在した20 bp未満のマイクロホモロジーを利用してDSBを再結合するが、欠失や挿入を伴う。RAD51B、LIG4とPOLQはHR、C-NHEJおよびAlt-EJ経路でカギとなる遺伝子産物である。我々は、放射線抵抗性のコケ植物ヒメツリガネゴケにおいて、CRISPR-CAS9法を用いて、PpRAD51B、PpLIG4あるいはPpPOLQ遺伝子をノックアウト(KO)したrad51b、lig4およびpolq株を作製し、DSB修復能力と放射線感受性を調べた。その結果、野生型株と比べてrad51b、lig4およびpolq株ではDSB修復が同等に遅延すること、lig4およびpolq株では最終的に全てのDSBが修復されるが、rad51b株では約10%のDSBが修復されずに残存することを発見した。この結果から、ヒメツリガネゴケにおいてHR、C-NHEJとAlt-EJ経路は生じたDSBの1/3ずつを修復すること、いずれかの経路が破綻してもDSBの9割は他の経路のバックアップで修復されるが、残りの1割はHR経路でないと修復できないことが示唆された。このことに合致して、rad51b株では野生型、lig4およびpolq株に存在した放射線抵抗性が消失した。ヒメツリガネゴケでは、大半の細胞の細胞周期が姉妹染色分体の存在するS期からG2期に留まることで、比較的多くのDSBをHRで修復していると考えられた。また、HR経路でしか修復できないDSBは複製フォークの崩壊等で生じたシングルエンドDSBではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の目的は、放射線抵抗性のコケ植物ヒメツリガネゴケにおいて、①DSBの大半がHR経路で修復されるのか?②HR経路が破綻してもC-NHEJとAlt-EJ経路はDSB修復をバックアップできないのか?を明らかにすることであった。現在までに、①については、DSBの1/3がHR経路で修復されることを発見した。ヒメツリガネゴケのDSB修復におけるHRの寄与は哺乳類(5%未満と考えられている)や高等植物と比べて大きく、ヒメツリガネゴケで放射線抵抗性や相同DNAを利用したゲノム編集効率が高いことの一因であると考えられる。また、②については、HR経路が破綻しても、C-NHEJとAlt-EJ経路のバックアップにより、生じたDSBの9割までが修復されることを発見した。以上のように、3年計画の2年目で研究目的を概ね達成できたため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、主要なDSB修復経路のうちHR経路だけが機能するlig4/polq株、C-NHEJ経路だけが機能するrad51b/polq株、Alt-EJ経路だけが機能するrad51b/lig4株、全て機能しないrad51b/lig4/polq株の作製に取り組む。哺乳類細胞を用いた研究では、DSB修復に係る単一の経路を破綻させるだけでもゲノム不安定性が著しく高まり、複数の経路を破綻させた細胞株は作製することすら困難である。従って、これまでの研究では、例えばHR経路の機能を調べるには、HR経路を破綻させ、その影響から間接的に推定するしかなかった。一方、ヒメツリガネゴケは、どの経路を破綻させた株も正常に生育したことから、二重あるいは三重変異株の作製も可能ではないかと見込んでいる。この取り組みが成功すれば、C-NHEJとAlt-EJ経路を破綻させ、残ったHR経路の機能をダイレクトに調べることができる。また、DSB修復への寄与が小さすぎ、主要な修復経路が存在する間は検出できなかったような、未知の修復経路の発見にも繋がるかもしれない。
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Causes of Carryover |
昨年度までにKO株の作製やDNA2本鎖切断の定量実験などが順調に進んだため、今年度は実験補助員の雇い入れを見送った。また、コロナ禍で学会がオンライン開催となったため、旅費が発生しなかった。次年度は、これまでに作製したKO株に加えて二重、三重のKO株を作製し、放射線感受性とDSB修復能力の評価実験を実施するとともに、RNA-Seq解析により放射線照射後の遺伝子発現を網羅的に解析する。繰り越した助成金は、そのための費用として充てさせていただきたい。
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