2019 Fiscal Year Research-status Report
核内受容体どうしの協働作用が引き起こすビスフェノールの低用量シグナル毒性効果
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19K12340
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Research Institution | Sojo University |
Principal Investigator |
劉 暁輝 崇城大学, 生物生命学部, 准教授 (60596849)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 核内受容体 / ビスフェノール / 協働作用 / シグナル毒性効果 / 転写制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
ビスフェノールA(BPA)の「低用量効果」が懸念されるなか、これまでの研究では、その特異的な受容体としてエストロゲン関連受容体γ型(ERRγ)を世界に先駆けて発見し、さらに、「エストロゲン受容体ERαにERRγを始めとする一群の自発活性化型核内受容体を働かせると、協働的に作用して、BPAの弱い活性を低用量で大きく増強させる」 という、低用量効果を説明するきわめて重要な現象を発見した。加えて、甲状腺ホルモン受容体TRαも同様な協働作用を受けることを明らかとし、『一般的に、ERαやTRαのようなホルモン活性化型核内受容体は、ERRγのような自発活性化型核内受容体の協働作用により大きく活性増強される』という作業仮説を立てるに至った。本研究の最大の目的は、上記の作業仮説を証明しつつ、BPAの低用量シグナル毒性効果の核内受容体を介した分子機構を解明することである。
48種あるヒト核内受容体のうち、13種は自発活性型核内受容体である。初年度である本年度は、まず、もう一つのエストロゲン受容体ERβに対して、これら13種の協働作用の有無を検討した。その結果、約半数の6種がERβの活性を2倍以上も増強することが明らかになった。次いで、この協働作用の本質的機構解明のため、自発活性化型核内受容体についてリガンド結合ドメイン(LBD)だけの発現遺伝子を作製した。これは、『ERRγはLBDだけでもERαと協働作用し、DNAに結合しなくて良い』という新事実が判明したためである。さらに、もう一つの大きな目的であるBPAの代替え「新世代ビスフェノール」の標的受容体探索について、これらビスフェノールのERαとERβに対する転写活性化能を調べた。その結果、「ERαにはアゴニストとして、ERβにはアンタゴニストとして働く」ビスフェノールが複数存在することが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年計画の初年度である本課題研究は、ほぼ計画通り、順調に進展している。ヒト核内受容体48種のうち、ホルモン活性化型が34種、自発活性化型が13種で、残り1種はこれらを不活性にする調節型である。自発活性化型核内受容体は、リガンド無しでも予め100%フルに活性化されており、その生理学的意義は未確定な受容体である。
これまでに自発活性化型核内受容体13種のうち6種が ERαに対して協働作用を示し、7種は協働しないことを明らかとしていた。そこで今回、ERβに対して協働作用を検討した。その結果、協働作用を示すものはやはり6種であったが、ERαとERβに共通するのは2種に過ぎないことが判明した。ところで、ERRγのERαに対する協働作用にはそのリガンド結合ドメイン(LBD)だけで十分である。この事実は、その作用メカニズムでは「ERRγはDNAに結合していない」「LBDだけに本質的な作用点、作用機構が存在する」ことを意味し、したがって、この事実の他の自発活性化型核内受容体での証明は、きわめて重要である。そこで本年度は、ERRγ以外の残り12種について、それらのLBD発現遺伝子の作製に取り組み、これらを完遂し、発現実験の準備に成就した。
BPAの代替えとなる「新世代ビスフェノール」の市中での使用拡大は、世界規模で、爆発的になってきている。こうした「新世代ビスフェノール」の核内受容体に対するシグナル毒性の解明は、緊急な課題である。このため、まず、ERαとERβに対する新世代ビスフェノール10種の転写活性を調べた。その結果、BPAF、BPC、BPZなど数種類の化合物に、「ERαとERβに強く結合するものの、ERαにはアゴニストとして、ERβにはアンタゴニストとして働く」という、異なる機能性を新発見した。このように、本年度の研究はおおむね期待通り、順調に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、初年度に引き続き、ERαとERβのそれぞれに対する協働作用が判明した自発活性型核内受容体について、その協働作用に必須な構造要因が何か? を詳細に解析する。まず、本年度に作製に成就した自発活性型核内受容体のLBD発現遺伝子を用いて、協働作用の有無、有る場合はその程度および様式を調べる。新規に取り組む課題は、協働作用へのN端活性化ドメイン-1(AF-1)の関与の分子機構解明である。既に、AF-1を欠く自発活性型核内受容体CAR と SF-1 が、ERαに対して協働作用を示すことを明らとした。自発活性型核内受容体LBDの協働作用、AF-1欠損体の協働作用の解析から、分子機構解析のポイント、糸口を探ることが非常に重要となる。
エストロゲン受容体ERαとERβは共にホモダイマーとして機能する。このようなホモダイマー構造を取るERαとERβに協働する自発活性化核内受容体はERRγ以外、どのように協働作用するのか? を分析することが重要となる。このために、 ① 核内受容体ダイマーを形成のインターフェスを構成するα-ヘリックスペプチドを共発現させて協働作用を阻害するか? を調べる、② 分子間相互作用に参加しているアミノ酸を明らかとし、これらを変異させて協働作用を阻害するか? を調べる、等の手法で解析予定である。
新世代ビスフェノールの核内受容体に対するシグナル毒性の分子機構解析研究においては、① ERαにはアゴニスト、ERβにはアンタゴニスト活性を示す新世代ビスフェノール化合物について、受容体と化合物の双方について、それぞれに特異的な構造要因を突きとめる。② 結合性が確認されたER以外の核内受容体について、転写活性化の有無・程度をレポーター遺伝子アッセイで調べる。また、協働作用する自発活性化型核内受容体が存在するか? を探索する。こうして、今後の研究を鋭意に推進する。
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Causes of Carryover |
一部の注文試薬が在庫切れのため、納品が間に合わなかった。未納品の試薬については、現在の新型コロナウイルスCOVID-19感染症による緊急事態のため遅れることが予想されるものの、今年度9月までには納品予定である。そして、今後の研究計画を順調に進めるために、必要な試薬は可及的に早急に注文、購入する予定である。
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Research Products
(11 results)
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[Journal Article] Receptor-binding affinities of bisphenol A and its next-generation analogs for human nuclear receptors.2019
Author(s)
X. Liu, H. Sakai, M. Nishigori, K. Suyama, T. Nawaji, S. Ikeda, M. Nishigouchi, H. Okada, A. Matsushima, T. Nose, M. Shimohigashi, Y. Shimohigashi
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Journal Title
Toxicology and applied pharmacology
Volume: 377
Pages: 114610
DOI
Peer Reviewed
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