2020 Fiscal Year Research-status Report
Selenium against methylmercury toxicity: A novel analysis using environmental and patient samples at the time of Minamata disease outbreak
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19K12353
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Research Institution | National Institute for Minamata Disease |
Principal Investigator |
坂本 峰至 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 所長特任補佐 (60344420)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 政明 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 部長 (50399672)
板井 啓明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (60554467)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 水俣病 / メチル水銀 / セレン / 環境試料 / ヒト試料 / 環境 / 水俣病患者 |
Outline of Annual Research Achievements |
水俣病の原因物質であるメチル水銀は、食物連鎖を介してヒトへ曝露される。その毒性は、共に摂取されるセレンにより抑制されることが知られている。また、水俣病の原因物質が水銀であることが究明される前に、環境やヒト臓器に高濃度のセレンが検出され、セレンが原因物質と疑われたことがあった。しかし、水俣病の発生源、環境媒体、患者までの曝露パスウェイで果たしたセレンの役割は明らかでない。 本研究では、チッソ水俣工場廃液、環境試料、工場内で行われた発症実験のネコ臓器および水俣病認定患者の臓器等の貴重な保存試料を新規に分析し、水俣病発生時の各曝露パスウェイにおけるメチル水銀とセレンの動態を検討する。更に、水俣病認定患者および対照の小脳、大脳、肝臓、腎臓の水銀とセレン濃度及びそれらのモル比を比較することで、水俣病におけるヒト健康被害に果たしたメチル水銀とセレンの役割解明を目指す。 令和2年度は、水俣湾から水俣川へ工場排水変更の8-10ヶ月後に相当する、1959年5-7月に水俣湾とその周辺17ヶ所から採取されたヒバリガイモドキのホルマリン保存試料が、当初予定していなかったにもかかわらず、幸運にも入手可能となった。このヒバリガイモドキは、熊本大学医学部喜田村元公衆衛生学教授が、工場排水中による水俣湾の水銀汚染分布を立証した歴史的にも重要な試料である。我々は、そのホルマリン保存試料を用いて、水俣湾の各地で採取されたヒバリガイモドキの総水銀とセレン濃度を分析した。その結果、総水銀濃度とセレン濃度は、r = 0.89の強い相関が得られ、ヒバリガイモドキの総水銀濃度とセレン濃度との間の量・反応的な関連が示された。加えて、水銀汚染の無い海洋におけるヒバリガイモドキの入手が可能となったので、令和3年度は一般自然界における対照のセレン濃度との比較も可能になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、熊本大学医学部喜田村元公衆衛生学教授が、当時の工場から排出された水銀による水俣湾の汚染分布を立証することとなった、歴史的に重要な意味を持つヒバリガイモドキ試料を用いて、水銀曝露とセレン濃度の量・反応関係的関係を示した。アセトアルデヒド精留塔ドレイン(HI液)で発症を確認したネコ臓器、水俣湾汚泥、汚染魚に加えて、水俣病関連の全ての環境試料で、水銀濃度に連動したセレン濃度上昇が確認された。特に、水俣湾汚泥のセレン上昇は他の生物試料と比較して桁違いに高く、メチル水銀と同時に比較的高濃度のセレンも工場から湾内に排出されていた可能性が示唆された。 更に、水俣病認定患者(13名)と対照(20名)の大脳を用いた総水銀とセレンの分析で、対照と比べて患者大脳で有意なセレン濃度の上昇が確認された。 現在のところ、これら水俣病関連試料に含まれた高濃度のセレンの発生源としては、硫酸製造に使われた硫化鉱に含まれる硫黄の同属元素として含まれていたセレンが想定される。一方で、セレンは2価の無機水銀との親和性が強く、生体内での高濃度・長期のメチル水銀の無機化に伴って、メチル水銀単独の曝露でもセレン濃度が高まる可能性も考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、本研究において最も重要な焦点となる、水俣病認定患者13名の大脳、小脳、肝臓、腎臓の総水銀とセレンの分析と解析を実施する。そして、対照20名の測定値との比較で、各臓器における水銀濃度に応じたセレン濃度上昇の有無を検証する。加えて、全臓器における水銀とセレンのモル比を比較することで、そのセレン濃度上昇が水俣病発症で果たした意義について考察を加えることが可能となる。 水俣病関連試料でセレン濃度が上昇した機序について、①メチル水銀に加えて比較的高濃度のセレンも水俣湾に排出されていた可能性と、②高濃度メチル水銀曝露そのものが生体内セレン濃度を増加させた可能性の両面からの検討を実施する。①については、工場に生産物や原料についての資料収集と解析を行う。②については水俣病発症当時の条件に近い、高濃度・長期メチル水銀曝露の動物実験を計画中で、メチル水銀の単独曝露で実験動物臓器のセレンが上昇するかを検討する。
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Causes of Carryover |
令和2年度は国内外にて開催される学会に参加し研究発表を行う予定だったが、新型コロナ感染症拡大予防のため延期となり、費用発生も延期となった。謝金については、所属機関の研究費にて支払うことができた。 令和3年度以降に開催予定の関連学会へ参加し研究成果を発表するために必要な、学会参加費及び旅費に使用する計画である。更に、統計解析のためにノートパソコンを購入して、揃ってきたデータの統計解析を行うと共に、現状のコロナの状況でリモート開催となる可能性が高い国内外の学会でのオンライン発表に備えることを検討している。
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Research Products
(3 results)