2019 Fiscal Year Research-status Report
地球温暖化防止と地域環境浄化の融合-油性藻クロレラのAsストレス応答での新展開
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19K12384
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
佐藤 典裕 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (50266897)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 祥子 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (30266895)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | クロレラ / トリアシルグリセロール / ヒ素 / バイオ燃料 / DGAT / PLC |
Outline of Annual Research Achievements |
緑藻クロレラは80 mMヒ酸添加のヒ素(As)ストレス下、カーボンニュートラルなバイオ燃料原料、中性脂質トリアシルグリセロール(TG)を細胞内に蓄積する。本研究では、クロレラのバイオ燃料生産とAs汚染水浄化の2元的利用を最終目的とし、研究実施計画に沿って、Asストレス下での脂質代謝機構を遺伝子レベルまで掘り下げて調べた。その結果、Asストレス負荷により、クロレラでは合成された脂肪酸は主にTG合成に使われ、その結果、TGが細胞乾重量16%に達した。対応して、TG合成に関連する酵素遺伝子のmRNAレベルはAsストレス下での特異的な増加が認められた。一方、極性脂質に関しては、葉緑体膜ではリン脂質で酸性脂質のPGが減少し、逆に非リン脂質で同じく酸性脂質のSQDGが増加した。一方、葉緑体外の膜ではリン脂質で双イオン性脂質のPCとPEが減少し、逆に、これまでクロレラではその存在が報告されていない非リン脂質で双イオン性脂質のDGTSが出現した。PC、PEは、その分解に関わる遺伝子について、またDGTS合成系遺伝子について、いずれもmRNAレベルの増加がAsストレス下、特異的に認められた。以上から、クロレラではAsストレス下、TGや膜脂質の代謝は、関連する酵素遺伝子の転写レベルでの発現制御を受け、TG蓄積やリン欠乏応答のための膜脂質リモデリングが起こることが示された。 併せて、遺伝子改変によるTG生産能の向上を目指し、クロレラの核での発現ベクターをデザイン・作製した。プロモーターとターミネーターは、クロレラのRubisCOの小サブユニット遺伝子ファミリーの中で発現量がmRNAレベルで最も高かった遺伝子を利用した。目的遺伝子について、その導入マーカーとしてブレオマイシン耐性遺伝子を、その産物の細胞内局在性や発現レベルを調べるためにGFP遺伝子やHisタグを用いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Asストレス下での脂質代謝に関して、TG蓄積は細胞乾重量あたりで16%に達した。これに対応して、クロレラのゲノムデータベースで見出された酵素遺伝子、つまり脂肪酸合成酵素遺伝子KASII、ジアシルグリセロールアシル基転移酵素DGAT1やDGAT2のisogenes、そして膜脂質リパーゼ遺伝子PGD1のいずれもmRNAレベルで発現誘導されていた。同時に細胞はリン欠乏に陥り、その応答として膜脂質リモデリングが起き、対応して、クロレラのゲノムデータベースで見出されたリパーゼPLC、ホスホコリンホスファターゼPLP、DGTS合成酵素BTA1のいずれの遺伝子もそのmRNAレベルが増加した。以上から、Asストレスが誘導するTG蓄積下、脂質代謝の制御様式がその酵素遺伝子の発現制御様式まで掘り下げて解明することができた。脂質代謝のうち、膜脂質のリモデリングは、細胞のリン代謝、ひいては種々の生理学的過程を支える。つまり、Asストレス下のクロレラにおけるTG蓄積が、単にTG合成に関わる遺伝子だけではなく、膜脂質のリモデリングによっても支えられることが示唆された。 クロレラの発現ベクターについて、RubisCO小サブユニットのプロモーターやターミネーターは、in vivoでmRNAの発現レベルが最も高い遺伝子を準定量的PCR法で調べ、選択された。選択マーカー遺伝子は、発現させたい目的遺伝子の5'側に配置したが、その間に2Aペプチドを挟ませ、両遺伝子は別個の翻訳産物となる仕組みである。さらに、GFPやHisタグを目的遺伝子の3’側に1つのタンパク質として発現するよう配置した。これにより目的遺伝子の産物は細胞内で蛍光顕微鏡で観察でき、またはWestern解析で生化学的に定量できる。いずれの配列もクロレラのcodon usage に対応させた。以上から、クロレラの発現ベクターは十分機能すると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度、TG蓄積を支える脂質代謝系について、TG合成系のみならず、膜脂質のリモデリングの重要性が示唆された。そこで今後は、葉緑体外の膜での脂質リモデリングについては、Asストレス下、特異的に発現誘導されるDGTSの合成系遺伝子BTA1を構造的に、また機能的に性格付けする。先ずは、BTA1に対応するcDNAをクローニングし、その塩基配列を決定し、そこからコードタンパク質のアミノ酸配列を推測する。さらに、このcDNAを他生物、例えば大腸菌で発現させ、そのDGTS合成機能を調べる。これを元に、Asストレス下の葉緑体外の膜での脂質リモデリングの代謝メカニズムを分子レベルまで掘り下げて明確化する。葉緑体膜における脂質リモリングについては、葉緑体チラコイド膜の光合成機能のAsストレスへの応答を調べることで、膜脂質のリモデリングが如何に膜機能のAsストレスへの適応に貢献するかを調べる。 一方、核での発現ベクターの開発については今後、以下の要領で完了させる。①昨年度作製した発現ベクターを用いて、核ゲノムのランダムなサイトへの遺伝子挿入をグラスビーズ法やエレクトロポレーション法等の形質転換法で試みる。その際、先ずはマーカー遺伝子の薬剤耐性能の発現を指標に形質転換法を最適化する。次いで、発現ベクターに目的遺伝子、例えばDGAT遺伝子等を挿入し、その過剰発現を成功させる。②①で確立した核への遺伝子の導入法を用いて、CRISPER/Cas9等のゲノム編集法の開発を目指す。このゲノム編集により、目的の遺伝子を破壊する系が確立される。脂質代謝以外の炭素代謝系遺伝子、例えば、デンプン合成系遺伝子を破壊することで、炭素代謝流が脂質合成系へ傾き、結果、TG蓄積能が向上すると期待される。以上の遺伝子操作法でAsストレス誘導性のTG蓄積能の強化を目指す。
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Research Products
(6 results)