2020 Fiscal Year Research-status Report
地球温暖化防止と地域環境浄化の融合-油性藻クロレラのAsストレス応答での新展開
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19K12384
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
佐藤 典裕 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (50266897)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 祥子 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (30266895)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | クロレラ / トリアシルグリセロール / ヒ素 / バイオ燃料 / 光合成 / 呼吸 / 脂質リモデリング / 遺伝子導入 |
Outline of Annual Research Achievements |
80 mMヒ酸存在下、緑藻クロレラの細胞では、中性脂質であるトリアシルグリセロール(TG)が蓄積すると同時にAsが吸収される。光合成生物のTGからは、再生可能であり、かつカーボンニュートラルなバイオディーゼル燃料が合成でき、一方、地下水等のAs汚染は東南アジア等で深刻な環境問題となっている。したがって、クロレラは、このバイオ燃料生産による地球環境の保全とAs汚染水浄化の両立に利用できると期待される。本研究では2020年度、As誘導性のTG蓄積について、将来、遺伝子操作により、そのクロレラの能力を向上させることを視野に置き、Asストレス誘導性のTG蓄積を支える代謝機構に関して、以下の二点に焦点を絞り解析した。①TG合成それ自身、つまりは脂肪酸合成系に必要な固定炭素(前駆体)や化学エネルギー(ATPやNADPH))を供給するための代謝系。②高濃度ヒ酸ストレスが細胞内にもたらす、強度のリン酸欠乏ストレス下、膜機能を支えるための脂質リモデリング、つまり、リン脂質PCとPEの非リン脂質DGTSへの置き換えの分子機構。①については、Asストレス下、光合成と呼吸活性の挙動を調べ、これら2つの系が共同して、TG蓄積のための炭素化合物前駆体と化学エネルギーを供給することを見出した。②については、クロレラにおいてDGTS合成酵素遺伝子を単離し、同酵素タンパク質の一次構造と機能、およびAsストレス下での発現誘導パターンを明らかにした。さらに、2019年度に作製したクロレラの発現ベクターによる、遺伝子導入を試みた。 これらの成果は、2020年度の植物学会と植物生理学会の各大会で発表済みであり、また、その発表内容に該当する論文を投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
As添加後、クロレラではクロロフィルが分解され、72時間では細胞あたりで添加前のレベルの50%に減少した。光合成系の機能を測定すると、24時間でφII値は0.68から0.34へ減少し、その後、72時間後まで下げ止まった。Fv/Fm値は、φII値と同様の挙動を示したが、qP値は24時間で低下したものの、72時間では元のレベルに回復した。以上の結果から、Asストレスは光化学系II(PSII)活性、そして光化学系Iを含む、PSII反応より先の光合成反応を低下させるが、後者の反応の阻害は一時的であると示された。光合成とは対照的に、呼吸速度はAsストレスに影響されず、同時に光化学系タンパク質の分解を示すクロロフィル分解、および炭素異化系遺伝子の発現が誘導された。Asストレス下、光合成系はサイズが縮小するが、残存する光合成機能は、呼吸を含むタンパク質/アミノ酸の異化反応と共に、脂肪酸合成系へ炭素化合物前駆体や化学エネルギーを提供することでTG蓄積を支えたのであろう。 一方、クラミドモナスのDGTS合成酵素CrBTA1のアミノ酸配列を元にクロレラのゲノムからホモログ遺伝子を検索し、得られた情報からcDNAの塩基配列を決定した。クロレラのホモログタンパク質は、CrBTA1とアミノ酸配列で62%の相同性を示し、かつ大腸菌で発現させると、新規の脂質としてDGTSが検出された。以上により、クロレラのホモログは、構造的に、かつ機能的にBTA1と同定され、CkBTA1と名付けた。CkBTA mRNAはAs非添加下のクロレラでは検出されず、As添加で発現誘導された。これによりAsストレス下、DGTSの合成は、CkBTA1の転写レベルの上昇により誘導されることが示された。CkBTA1の細胞内局在部位を同定するため、現在、当該cDNAを発現ベクターに組み込み、クロレラの形質転換を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
Asストレス下、光合成系のサイズは経時的に縮小するが、呼吸活性はほとんど影響されない。したがって、Asストレス下、TG合成を駆動するための前駆体や化学エネルギーについて、その供給の依存度は光合成に対しては経時的に下がり、逆に炭素異化に対しては上がると考えられる。2021年度は、Asストレス下のクロレラにおいて、①光化学系の縮小、そして、②それに伴うタンパク質の異化の二つの代謝過程を以下の要領で解析し、TG蓄積を支える代謝機構を明らかにする。①光化学系の縮小については、(i)チラコイド膜のSDS-PAGE等での解析を通して、Asストレス下、光化学系タンパク質の量的変動パターンを明らかにする。(ii)RubisCO等、可溶性タンパク質に関しても(i)と同様に量的変動パターンを明らかにする。(iii)光化学系複合体が配置されるチラコイド膜での脂質組成の変動パターンを明らかにする。(iv)(i)-(iii)のタンパク質や脂質代謝酵素遺伝子に関して、発現レベルの変動パターンをmRNAレベルで明らかにする。以上、(i)-(iv)の結果をChlの減少や光合成機能の変動のパターンと合わせて議論し、Asストレス下、TG蓄積に対する光合成系の貢献度が低下する過程を分子レベルまで掘り下げて理解する。②タンパク質の異化については、(v)①の(i)、(ii)の結果をもとに、分解対象のタンパク質種を明らかにする。(vi)クエン酸回路の酵素等、タンパク質/アミノ酸の異化に関わるタンパク質に関して、発現レベルの変動パターンをmRNAレベルで明らかにする。以上、(v)、(vi)の結果をクロロフィルの分解パターンや呼吸活性と合わせて議論し、Asストレス下、TG蓄積に対する炭素異化の貢献度が増加する過程を分子レベルまで掘り下げて理解する。加えて、クロレラの発現ベクターを用いて、クロレラの形質転換法を確立させる。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナ禍の中、前期には学生(学部4年生の卒業研究生と大学院生)、教員共に入校が制限され、後期でも研究室内で分散登校を促した。このため、実験時間が総じて短くなり、必然的に、実験に用いる試薬等の購入額が当初、予定していた額に達せず、次年度使用額が生じた。今後、この状況が改善されるかどうか不透明である。そこで、2021年度は、研究を確実に進めるため、マンパワーの不足分を受託研究を依頼することでカバーしたいと考えている。次年度使用額を含め、今年度の交付額は、その受託研究の費用への配分を計画している。
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Research Products
(9 results)