2021 Fiscal Year Research-status Report
塩基性固体合成プロセスに基づく新しい気体透過材料の構築と温室効果ガス分離への応用
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19K12387
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
塩月 雅士 東京都市大学, 理工学部, 准教授 (30362453)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩村 武 東京都市大学, 理工学部, 准教授 (10416208)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自立膜 / ポリピロール / ポリフラン / ポリチオフェン / 気体透過 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、前々年度から前年度に渡り確立した気体透過膜・分離膜の一段階合成手法とそれにより得られた膜の性能評価を引き続き行った。本合成法は複素環化合物の多くを原料とすることが可能であり、またそれらの原料を混合し共重合することも可能であることから多様な膜が容易に合成できる点で有利である。 本研究の主題である二酸化炭素の選択的分離膜合成については、塩基性官能基が膜の性能に与える影響が大きいことから、窒素原子を含有する複素環モノマーの利用は極めて重要である。ここまで見出した塩基性膜の二酸化炭素分離性能は従来の分離膜と同等かそれ以上であったため、今年度はその改善を目指し膜材料への種々の官能基の導入を行った。結果として、得られた膜は自立膜として十分な強度を有するものであった。ただし、気体分離性能の向上には幾らか寄与はあったものの、気体透過性能の向上には大きな影響がないことが明らかとなった。 また、本研究で検討してきた膜合成法の課題は膜の均質化や平滑化である。これについて検討を行ったところ重合時の溶媒の利用が有効であることを新たに見出し報告している。これは、溶媒の存在により重合速度が制御可能となり、結果として急速な重合の進行を抑制できることが主な要因である。実際に得られた高分子膜の気体透過性は検討中であるが、本手法は種々の原料から膜を得る汎用性の高いものであり、かつ膜合成上の再現性についても利点があることから、今後一般に利用される手法となりえるものである。 以上の結果については、日本化学会第102回春季年会ほか計3件により発表を行い、現在学術論文誌へ投稿するためその内容を取りまとめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はコロナ禍の影響を大きく受けたため、研究のまとめ段階での進捗が予想以上に遅くなってしまった。気体分離膜の合成法と分離性能の検討については当初の期間内に終えることができないと判断したことから研究期間の延長申請を行った。実際は膜の合成法と気体分離性能の検討の両面においておおよその内容が検討済みであることから、今後は論文のまとめることを中心に研究を進めていく。 本年度の進捗については、複数種のモノマー原料を用いる共重合を検討し、新たな膜材料を得たことが挙げられる。ただし、得られた高分子膜の特性については、本研究全体に言えるように予想とは異なる結果が示されている。特に、二酸化炭素分離膜としての性能は従来のものとほぼ同等程度にとどまり、すなわち予想したほど優れた透過性能を示さないという傾向があるため更なる検討が必要である。一方で窒素ガスに対する酸素ガスの分離性能は従来のものに比べ大幅に性能が向上しており、これをさらに発展させることは有意義であると考えられる。 また研究進捗上で明らかになってきた膜の物理特性としては、電気伝導性や溶媒に対する膨潤性などがあげられ、結果として特異的な性能を示すことが分かっている。膜の構造については当初予定していた共役構造からなる主鎖の他にも非共役部位が多く生じることも示されている。これについては分析法をさらに検討し、膜の明確な分子構造を示すべく検討を重ねている。また合成時に用いるブレンステッド酸が膜材料のドーパントとして働くこともわかっているが、ドーパントの含有率を元素分析などの手法により明らかにし、ドープ率と気体分離性能の相関について明らかにすることは次の検討課題として重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように二酸化炭素の分離に対しては気体透過性および分離性能の双方において今後も改善が必要であり引き続き検討していく。特に気体透過性の向上については、分子間隙をより広げるために置換基導入が必須であると考えられる。また実際の利用を考えた際には膜の気体透過量自体も求められるため、これを実現するために膜の薄膜化と無機粒子の複合化を目指す。薄膜化には上記の重合溶媒の応用が有効であると考えられる。あるいは重合後に溶媒に溶解できる低分子ポリマーの合成も有効であると考えており、これにより膜生成に従来用いられてきたキャスト法が適用可能となり、薄膜化も容易に達成できる。無機粒子の複合化については、例えばシリカナノ粒子やMOFを粒子化して膜中に含めることで気体の透過度向上を目指す。シリカナノ粒子は市販品も利用可能であり、実際に気体透過膜の性能向上の手法として同分野で汎用的に用いられてきたことから、これを本研究にも適用する。 一方で、研究当初の計画にあったイミン部位を多数有するモノマーの重合についてもここまで未検討であるため今年度中に試みる予定である。これについては、これまでに合成して材料に比べ窒素含有率の向上が達成できることから高い二酸化炭素の分離性能が期待できる。実際の合成手法としては、イミン部位を多数有する分子ブロックとして例えばメラミンやメレムを用い対応する重合体を得る。メラミンおよびメレムは窒化炭素材料合成時の原料となるものであり、種々の無機材料合成に汎用的に用いられる原料である。メラミンやメレムを膜材料化するためにはアルデヒド化合物をコモノマーとした重合を試みる。
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Causes of Carryover |
予定と異なる費用が生じている理由は、まず、研究期間最終年度において研究期間を一年延長申請したことが影響している。また費用差額は主に前々年度に生じたものであり、当初購入を予定していたガスクロマトグラフィー分析装置が修理品でまかなえたことが主要因である。当該年度はコロナウィルスの感染状況から実際の研究実施期間が少なく、予定していた研究費の額に対し実費が抑えられた状況であったことも要因に挙げられる。 これを踏まえた新年度の計画としては、新たな膜合成の装置の購入などを検討している。特に低温での膜合成を実施できる装置や、時間に対する温度プログラムが可能な装置が求められているため検討する。他にも合成後の膜乾燥についてはこれまで従来保持していた簡易的な装置を用いているため、新たな装置の購入を検討している。
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Research Products
(3 results)