2019 Fiscal Year Research-status Report
泥炭採掘跡地の再湿潤化による群落、水質、および温室効果気体生成の初期変遷の追跡
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19K12420
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Research Institution | Sapporo City University |
Principal Investigator |
矢部 和夫 札幌市立大学, デザイン学部, 専門研究員 (80290683)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 浩之 北海道大学, 農学研究院, 講師 (10374620)
吉田 磨 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (20448830)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ボッグ / 石狩泥炭地 / 湿原復元 / 幌向7草 / ホロムイイチゴ / オオミズゴケ |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 植物と水文水質環境:遮水整備前に比べ、2017年から2019年の地表面水位が上昇した。さらに、2018年の地表面水位は2017年より、地表面から30cm以内の観測点が多く、地表面水位が安定していく傾向が見られた。 pHは、遮水整備前より若干上昇した。しかし、月別のデータから見ると、植物生育の最盛期の2018年の5月と8月には2017年の5月と8月より低下した。ECは、遮水整備前より下がった。以上のデータに基づいて、遮水整備した後の再生地の水文化学環境はボックに好適な環境に変化している傾向が確認された。ヨシ、エゾヌカボ、イ、アブラガヤ、オオイヌノハナヒゲ、およびユンゼンギクが優占していた。ユウゼンギクは外来種であり、除去が必要な植物である。 2)温室効果気体の動態と水環境評価:湿地は二酸化炭素の吸収源として注目されているが、同時にメタンの供給源でもある。そこで、窒素の動態に深くかかわる一酸化二窒素も含めて3種の温室効果気体の動態を評価する。更に温暖化能や植物の生育に関わる水環境を評価する。2019年度は小型チャンバーの制作を行い、温室効果気体のフラックス観測の定点設置や予備観測を行った。その結果、水環境や土壌水分との詳細な考察が必要であるが、一般的な湿原に比べ、メタンのフラックスは低かった。 3)環境・群落の時空間モニタリング:近接リモートセンシング技術を用いて広域で迅速に環境を評価できるモニタリング指標を考案することを目的としている。2019年度は,マルチスペクトルカメラ,サーモグラフィーカメラを搭載したUAVの製作を行い,それを用いて試験的に時空間情報の取得を行った。また,その検証データとなる土壌水分等の空間分布データを取得した。その結果,近赤外輝度分布と泥炭表面の土壌水分分布の間に空間的相関があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1) 植物と水文水質環境:2019年植物群落種組成調査と水文水質環境観測は定期的に行った。おおむね予定通り進行している。現存するボッグの群落種組成や水質環境を現存するボッグと再生地で比較するために、サロベツ湿原のデータを取り込み。解析準備を進めている。2020年は再生地の全調査定点で泥炭水のイオン組成を測定する予定である。 2)温室効果気体の動態と水環境評価:2019年度は主に温室効果気体のフラックス測定用の小型チャンバーの制作を行い、現地での気体試料の採取や研究室内での分析の準備を行った。既にメタンと一酸化二窒素を別々のガスクロマトグラフを用いて高精度分析可能となったが、今後の試料採取の数を増やすことを想定し、1試料からのメタンと一酸化二窒素の2種同時定量に向けたGCラインの改造や予備実験を行った。2種同時定量については2020年度の前期には運用可能となる予定である。また2020年度の現地フィールド内地下水の水環境集中観測に向けて、研究室内のイオンクロマトグラフを立ち上げた。このように、年次計画に従って、計画的に研究は進行している。 3)環境・群落の時空間モニタリング:2019年度は,使用するカメラの選定とUAVへの搭載方法の検討,泥炭表面の土壌水分の計測法など検証用環境データの取得方法の検討について集中して研究を進めた。このほか,現地での空撮方法,検証用データの計測地点選定についても検討した。選定したカメラをUAVに搭載して試験を実施した結果,安定してRGB画像,近赤外画像が得られた。その画像を用いたオルソ画像の作成も可能となった。この過程で,計測地点と空撮データの座標のずれが大きいことが判明したため,高精度GNSS受信機を整備してそれを併用して次年度の調査を実施する。このように広域のデータ取得方法に関する整備は整っており,予定通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 植物と水文水質環境:植生と水文水質環境については、幌向再生地と同じ日本海沿岸のボッグとしてサロベツ湿原を対照区として、水文水質環境の初期推移がどのように起こるか注意深く検討する。また、再生地に出現した群落の初期遷移は、目標のサロベツ湿原のボッグの種組成と再生地の群落を非計量多次元尺度法などの群落傾度解析で解析して、群落類似度に起因する軌跡から、その変化の方向を推定する予定である。ボッグ種を主体とした湿生植物の導入は現在中期導入の段階である。導入目標数の育成や移植方法の違いによる定着率の違いの調査を行って、より効果的な導入方法を検討する。 2)温室効果気体の動態と水環境評価:2020年度前期にはメタンと一酸化二窒素の温室効果気体2種同時定量メソッドを完成させ、フィールド観測試料の高精度分析に応用する。また湿地での二酸化炭素フラックスに関わる土壌呼吸量測定の予備実験を行い、メソッド確立後には2019年度に設定した定点において現場測定を実施する。更に2020年度の夏季には現地フィールド内地下水の水環境集中観測として栄養塩や各種イオン成分測定のための採水を行い、研究室内でイオンクロマトグラフを用いて高精度分析し、温室効果気体の動態と合わせて年次変動の解析を行う。 3)環境・群落の時空間モニタリング:2020年度は,2019年度に構築した空撮および調査方法を用いて,環境指標作成に用いる各種空撮画像と検証用データの蓄積を行う。対象地にて月1回の頻度でそれらの調査を実施する予定である。UAV空撮では泥炭表面の地温を面的に評価するための熱赤外画像の取得も追加して実施する。年度末にはこの調査で得た1年のデータを用いて湿生植物分布図,環境データ分布図を作成し,各種空撮画像と照らし合わせ,多変量解析を行うことで,環境の変異性などの評価を可能とする指標を作成する予定である。
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Causes of Carryover |
初年度の調査活動の中で、温室効果気体の動態と水環境評価と環境・群落の時空間モニタリングは方法確立のための試行段階だった。このため、これら二つの研究小題目に対して植物と水文水質環境からの、協働やバックアップ体制をとるための資金投入が必要なかったために、次年度使用額が生じた。2020年はイオン分析や土壌水分観測網設置のための準備を行っている。
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Research Products
(2 results)