2021 Fiscal Year Research-status Report
省エネ行動の促進に向けた異なる情報処理ルートの活用
Project/Area Number |
19K12457
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
本藤 祐樹 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (90371210)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 一益 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (60397164)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナラティブ / ナッジ / 心理的近接性 / 二重過程理論 / 環境配慮行動 / 政策受容性 / 地球温暖化 / 再生可能エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
人々の省エネルギー行動を促したり、再生可能エネルギー導入など政策への人々の関与を高めたりするためには、それらの意思決定に資する情報の提供が重要であるとされてきた。しかし、情報提供は必ずしも人々の意思決定や行動の変化に結び付いてはいないようである。本研究課題では、人々が情報を処理するルート、言い換えれば認知し思考するルートの違いに着目して、効果的な情報提供のあり方について明らかにすることを目的としている。 本年度(2021年度)においては、第一に、自動的かつ直感的な情報処理(システム1による情報処理)を誘発し得る情報として、物語型、鮮明型、エピソード型と呼ばれる情報形式に焦点を当て、幅広い分野で実施されてきたコミュニケーション研究を横断的にレビューした。その結果、上述の3形式を含む広い意味でのナラティブ情報は、4種の特徴的な機能、すなわち、処理の動機づけ、疑似体験の誘発、話題の「自分事」化、感情の喚起という機能を持つことを明らかにし、エネルギーコミュニケーションにおける活用可能性を示した。 第二に、エネルギーコミュニケーションにおける、上述の広義のナラティブ情報の有効性を実証的に検討した。約2000人(18歳以上)の参加者を2群に分け、それぞれに、地球温暖化に関するナラティブ情報とロジカル情報を提供し、情報提供後における地球温暖化防止に関する行動意図や政策受容性などを質問紙調査によって測定するという実験を行った(2021年3月)。質問紙調査で得られたデータを分析した結果、ナラティブ情報は、ロジカル情報と比較して、不安や恐怖といった感情をより強く喚起する傾向があり、行動意図や政策受容性をより高める傾向があることが認められた。また、この傾向は、地球温暖化に関心が低い参加者ほど顕著であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心理学、社会学、政治学、経営学、環境学などの分野において過去に実施されてきた広義のナラティブ情報に関連する研究を横断的にレビューし、エネルギー・環境分野におけるナラティブ情報の活用可能性について明らかにした。広義のナラティブ情報に関する研究は異なる分野で行われているが、それらを横断的にレビューしたものは見当たらず、新たな知見を提供できたと考えられる。幅広い分野を網羅する横断的なレビューとしたため、当初計画と比べて時間を要したが、その分、充実した内容となった。 また、実際に、地球温暖化を対象として、ナラティブ情報とロジカル情報が人々の行動意図や政策受容性などに与える影響について、実証実験によって明らかにした。エネルギー・環境分野におけるナラティブ情報の有効性に関する研究は少なく、当該分野における情報提供やコミュニケーションに関する研究の新たな発展可能性を示したと考えらえられる。 以上、コロナ禍の影響などもあり、当初計画よりも多少の遅れはあるものの、研究はほぼ順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(2021年度)の分析結果から、「研究実績の概要」でも述べたように、ナラティブ情報は、ロジカル情報と比較して、不安や恐怖といった感情をより強く喚起する傾向があり、行動意図や政策受容性をより高める傾向があることが認められた。今後は、感情成分の可能性に着目して、再生可能エネルギーに係る追加的な社会実験を実施し、得られたデータを分析することを計画している。実験設計ならびにデータ分析において関連する外部の専門家や実務家と議論する場を設け、現実の社会におけるエネルギー・環境分野における情報提供の在り方について幅広く検討する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度(2021年度)に予定していた社会実験を学内の予算を用いて2020年度に前倒しで実施し、より知見を深めるための追加的な社会調査・実験を2022年度に実施する予定である。したがって、当初計画では本年度に見込んでいた社会実験を行わなかったことにより、2022年度への繰越額(次年度使用額)が発生した。次年度(2022年度)において、これまで得られた知見に基づき、特に感情成分に着目した社会調査・実験のために、本金額を主に質問紙調査費と人件費として使用する計画である。
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