2019 Fiscal Year Research-status Report
「茅」の持続可能な資源利用の再構築を目指す体験プログラムの開発
Project/Area Number |
19K12460
|
Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
釜床 美也子 香川大学, 創造工学部, 助教 (00635948)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 茅葺き / 茅場 / 環境教育 / 文化財 / 生涯学習 / 景観 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本で「茅葺き」が葺かれていたのは、屋根の葺き替えの際に出る「古い茅」が有用な有機肥料になるという2次利用の意義が大きかった。しかし、戦後は化学肥料の普及でその意義が薄れ、植林の拡大、安価で簡便な代替屋根材の普及で、日本は一様に「茅場(茅を育てる草原)」の損失、「茅葺き」やその関連技術者の衰退が進んだ。現在日本で「茅葺き」といえば、「特殊な屋根」となり、「茅」を利用するという「発想」もそれを扱う「技術」も、知る人は極めて少なくなった。ただ、「茅」を自己採取し、「茅葺き」を葺き、有機肥料にし、その過程で「茅場」としての草原が維持されるという植物の持続可能な資源利用のシステムは、持続可能な社会の実現の上で再評価すべきだと考えた。そこで、本研究では、現代にふさわしい「茅」の需要、持続的資源利用、技術に見通しを立てるため、研究の目的として持続的な生活に関心のある人々の需要に応えられるような、「茅」の持続的な資源利用のサイクルを一般の人が着手しやすいプログラムとして構築することを据えた。 初年度の今年度は、(1)プログラムの具体的な実践と、(2)最適なプログラムの考案のために参照する周辺地域の茅を利用する技術の調査を行った。(1)については、愛媛県西予市にて実施した。9月に西予市の新聞購読者全域全紙に対して12,500部のチラシを折込し、市民に3年かけて「茅」を扱う技術を習得するプログラムへの参加を募り、20代~60代の7名の希望者があった。11月に講座を開始して「茅刈り」、「運搬」、「保管」、「茅葺き」、「古茅の2次利用」という各段階の6日間のプログラムを実施した。(2)については、プログラムの考案に参考となる四国内の他の「茅場」や「茅を扱う技術」の関係者へのヒアリング調査を実施した。予定していた四国4県すべての職人や茅場の維持管理者に対してヒアリング調査が完了した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
すべて計画通りに進捗している。(1)プログラムの実践については、西予市の協力を得て、予定していた西予市の茅葺きの茶堂の一つ、1間四方の小規模なY茶堂での茅葺きの葺き替え工事を、地元の茅葺き職人1名の指導の下、ほぼ市民だけで行うことができた。全面を葺き替える工事で、工期は2019 年11月9日、10日、16日、17日、12月8日の5日間であった。7名の参加者のほぼ全員が全日程に参加した。伝統的な葺き替え工事は、職人のような「専業」者にすべての工事をさせるのではなく、住民も手伝いを通して習熟し、いずれ葺き替えの先導役をするという、「兼業」者が相当活躍できる生活技術だという想定通りの結果となった。また、従来の「茅葺き」のワークショップなどは、技術的難所(先述の軒付け・くだり棟・棟)を経験するまでのそれ以外の単純作業の工期が長すぎて、全ての技術を習得するのに時間がかかり、一般の人が全工程に参加することを困難にしていたが、本研究では小規模な茶堂を対象としたことで、平日は仕事に従事する人の参加を得られた。これも期待していた通りの結果となった。資材の茅は、初年度のため阿蘇から2尺〆200束を購入した。 茅刈りは、同じ西予市内の大野ケ原という場所で行ったが、天候が悪く、2019 年11月23日の1日のみの実施となった。広さは10haほどだったが、茅は島状に点在し、新旧様々なススキがあったため、来年以降に新しい茅を刈ることを見越しながら、まとまって茅の生えている場所や、車道に近い場所を優先して刈った。刈り取りは鎌での手刈りとした。刈った茅は車道のトラックまで人力で運び、トラックで麓の倉庫に運搬して保管・乾燥した。茅の保管は隙間を開けながら両側から縦置きで立て掛ける方法とした。全員茅刈りは初めてだったが、プログラムの参加者6名と協力者5名により1日で100束ほどを刈ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度も、予定通り、プログラムの修正を行った上で、今年度同様の時期にプログラムを実施し、ブラッシュアップを目指す。茅葺きは、西予市内の別の茅葺きの茶堂の葺き替えをすでに予定しており、茅刈りも同じ大野ケ原にて実施できる見通しが立っている。今年度は、茅を刈ったあとすぐに倉庫まで運搬したが、未乾燥の茅を運ぶのは四国の山間部では一般的ではなく、ほとんどが冬の間は茅場にクロを作って乾燥し、春先に運搬していたことが判明したため、同じ方法が大野ケ原に適用できるかを試行したい。大野ケ原の10haほどの演習林は標高1400mで降雪や天候の変化など茅場としての条件は厳しい地域であるが、そうした場所でも可能な屋根用の茅の採取のプログラムを検討したい。 また、次年度は、今年度刈った茅を使うことになるため、大野ケ原の茅の屋根材としての性質についても、データとして記録したい。茅を葺く際の技術的難所の下り棟と棟仕舞は1年目では習熟ができない参加者が多かったので、次年度は事前に前年度の職人の手本の動画を参加者に配布し、それによって習得を助ける方法を考えている。 葺き替えを行った城川地区のY茶堂は、細い坂道の脇に立地するため、当初、車道から茶堂までの徒歩での茅の運搬に大きな時間を要することが予想されたが、地元住民がその運搬作業を担い、参加者は茅葺きの施工のみの作業で済んだため、工期は予想よりも短縮された。西予市の茅葺きの茶堂の中ではY茶堂が最も立地的に難所であったため、次年度以降の工事は時間が短縮される可能性が高い。 3年間で構築した茅を扱う市民向けのプログラムは、誰でも利用することができる技術書や動画にして公開し、その普及を目指す。
|
Causes of Carryover |
天候不良による講座の中止があり、講座を指導する職人に支払う費用や、運営スタッフの宿泊費が想定よりも少なくなったため。
|