2019 Fiscal Year Research-status Report
戒厳令期台湾の民主化運動とキリスト教 在外台湾人組織の分析から
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19K12469
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤野 陽平 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (50513264)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 台湾 / 民主化運動 / 長老教会 / キリスト教 / 国是声明 / 我々の呼びかけ / 人権宣言 / 美麗島事件 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は戒厳令下の戦後台湾社会、特に70-80年代の民主化運動の萌芽期におけるキリスト教について調査、研究を行うものであり、初年度である本年は基礎的な資料の収集のための調査と、分析を行った。70-80年代の台湾社会は戒厳令下にあり、現地での調査には情報の正確さの面で限界があるために、一定の言論の自由が認められていた日本や欧米へと移住した在外台湾人組織の資料を扱うことで、その問題を乗り越える。特に対象とする教団として台湾基督長老教会をとりあげる。本教団は70年代に3つの宣言(「国是声明」(1971年)、「我々の呼びかけ」(1975年)、「人権宣言」(1977年))を出し、当時の国民党政府に異議を唱えたが、これは戒厳令下の当時、危険を伴う行為であり、民主化運動の先駆けとなった。その後の1979年に発生し台湾の民主化の方向性を決定づけた美麗島事件においても少なくない長老教会関係者が参加するなどし、現在も本教団は強い台湾アイデンティティを持つ教団として、社会運動に積極的に関わっている。 2014年のひまわり学生運動などに見られるように、近年の台湾は民主化の度合いが高まっているが、こうした台湾の民主化運動の萌芽的な時代の理解は進んでおらず、本研究を通じて理解を広めることができる。そして台湾の民主化運動の理解は、単に台湾の理解に留まるものではなく、2014年の香港の雨傘運動や2019年から続いている逃亡犯条例改正案に対するデモに対して、台湾のグループからの協力が見られるし、それは台湾社会への影響も大きいように相互作用が見られるように、本研究は戦後東アジアのトランスナショナルな公共圏における台湾に留まらない東アジア規模の総合的な理解へとつなげることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
70-80年代の台湾のキリスト教と民主化運動の実態解明のため、本年度は在外台湾人組織の資料として、戦後台湾から日本へ亡命し、明治大学教授などを歴任した王育徳を中心に編集した『台湾青年』の分析を中心に行った。本資料を通じて他の資料には見られない70-80年代台湾における民主化運動に対して、在外台湾人組織がどのように関与していたのか、また、どのようなまなざしを向けていたのかを明らかにした。 また、夏季に台湾にてフィールド調査を実施した。70-80年代に民主化運動に参与した当事者や、当時のキリスト教関係者に対してインタビュー調査を行った。関連して陳文成博士紀念基金会、鄭南榕基金会、台湾基督長老教会の総会や済南教会などの関連施設を訪問し、インタビュー調査、資料収集などを実施した。資料収集として中央研究院民族学研究所や台湾神学院の図書館を利用し、長老教会が発行する『教会公報』という新聞の関連記事の検索と複写を行った。 11月2、3日には代表者の所属する北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究員附属の東アジアメディア研究センターにおいてシンポジウム「美麗島事件と光州事件からみる「アジア連帯」」を開催した。台湾の民主化運動研究をリードする薛化元氏(国立政治大学文学院院長)、陳儀深氏(総統府国史館館長)に加え、韓国の光州事件を研究する若手研究者劉京南氏、曺娥羅氏(韓国・全南大学)と、李美淑氏(立教大学)らを招き議論を行った。また台湾の白色テロ被害者やその家族である蔡焜霖氏、キョウ昭勳氏らから貴重な体験談を聞く機会も作った。こうした議論を通じて、台湾という規模を超えて、東アジアという文脈で考察する基盤を作ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は夏季と春季にフィールド調査を実施する。調査地は昨年度に引き続き台湾では民主化運動や当時のキリスト教関係者への聞き取り調査と、図書館や関連施設における資料収集を行う。また、政治大学文学部長の薛化元氏、国史館長の陳儀深氏ら、現地研究者との意見交換を行い、議論を深化させる。米国における調査では、在米台湾人組織および台湾人キリスト教会の訪問、参与観察、インタビュー調査、資料収集を行う。ただし、2020年4月時点で流行中の新型コロナウイルスの終息の状況によっては予定の変更の可能性もありえる。 昨年度にひき続き、フィールド調査によって得られたデータの分析を続けるが、3年計画の2年目である本年度では、得られた情報を元に国際学会での発表を行う予定である。EASSSR(East Asian Society for the Scientific Study of Religion.)のThe 2020 Annual Conference of EASSSR in Jejuにて、長老教会の動向を1970-80年代の台湾の民主化運動からひまわり学生運動に至る文脈上に位置づけて発表する予定である。(ただし、本会議は7月に予定されていたがコロナウイルスの関係で延期となっている。)また、10月に開催予定の「第8回 東アジアと同時代日本語文学フォーラム 2020 バリ大会」にて、台湾の民主化運動に対して日本からどのような支援と連帯がなされていたのかについて報告予定である。こうして国内外の研究者との議論を深めることで、最終年度である2021年度に成果報告のための論文執筆に備える。
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