2020 Fiscal Year Research-status Report
戒厳令期台湾の民主化運動とキリスト教 在外台湾人組織の分析から
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19K12469
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤野 陽平 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (50513264)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 台湾 / 民主化 / 白色テロ / 東アジア / キリスト教 / 正教関係 / 長老教会 |
Outline of Annual Research Achievements |
戒厳令下台湾の民主化運動の萌芽期に位置付けられる1970-80年代のキリスト教の動向を、台湾の外である在外台湾人組織の資料を通じて明らかにすることを目的とする本研究は、人類学的なエスノグラフィを調査法として採用してきたが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い現地調査が実施不可能になり、今年度は計画の大幅な変更を余儀なくされた。そこで、文献収集とその読解に方法論をシフトし、当時の日本国内のキリスト教や台湾の政治犯を支援する団体に関する関係資料の文献調査を行った。 主として特に『キリスト新聞』(キリスト新聞社)の70年代のものを入手し、読み込む作業を行った。前年度に分析を行った王育徳らが刊行した『台湾青年』はキリスト教とは一線を画した台湾独立派の団体である。一方で日本のキリスト教界は台湾の独立運動とは距離をとるが宗教を通じての連帯の姿を反映している。両者を総合することで、多角的に当時の戦後東アジアの民主化運動における宗教と政治団体との連帯のあり方を捉えることができた。その他にも『台湾の政治犯を救う会活動記録』(台湾の政治犯を救う会)、『アジア通信』(日本基督教協議会キリスト教アジア資料センター)も入手し、並行して読解を続けている。 こうした資料を見比べてみると在日台湾人社会、日本人の左派のグループ、キリスト教と言ったそれぞれのアクターが相互に乗り入れていた状況が見えてきた。一方で、全ての要素でこれらのアクターが協力関係を構築していたかと言えばそういうわけでもない。どの部分は連帯し、どの部分がそうでなかったのかについて、最終年度に精査していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大のため、予定していた台湾及び米国での調査ができなかったことにより入手予定であった情報にアクセスできなかったことのマイナスの影響は少なくない。しかし、上述のように本年度は日本国内での関連資料を収集すること、それを読み込んでいくことに集中することとした。期せずして、昨2019年度はフィールドワークを十分に行っていたために、その際に入手したフィールドデータと、本年度入手した文献資料とを付き合わせることが可能となり、当初の予定とは方法が異なるものの、総合的かつ俯瞰的な視点を獲得することができた。これは怪我の功名であったと言えるだろう。なお、本年度は文献調査に加えてオンラインでのインタビューも実施したため、全くの予定変更となったわけではないことを付け加えておく。 研究成果の報告という面でも当初、発表を予定していたthe East Asian Society for the Scientific Study of Religion (以下、EASSSR)、「第8回 東アジアと同時代日本語文学フォーラム 2020 バリ大会」が延期となり発表の機会を得られなかった。従来の予定では国内外の研究者との議論を行い、最終年度に実施する成果報告に反映させるはずであったので、影響がないとは言えない。しかし、年度末には学会、シンポジウム、研究会などがオンラインで開催されるようになり、年度内に口頭発表や講演を計5回行うことができ、他の研究者からコメントをもらうことができた。また、夏期と春期に予定していたフィールド調査に出られないことで、執筆に当てる時間を多く当てることができ、2冊の編著と2本の共著を刊行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2021年度は昨年度までに入手したフィールドデータ、関連文献の整理と分析に主眼を置くこととする。すでに一定の量の情報を入手、整理をしているので研究目的を達成することができるであろう。 本年度も台湾や米国でのフィールド調査を実施することは難しいことが予想される。新型コロナウイルスの感染状況が好転し、渡航できるようになればフィールド調査を実施するが、いずれにせよ最終年度であるため補足的な調査が中心となるため、万が一実施ができないことがあっても、体勢に及ぼす影響は大きくない。 本年度、発表を予定していたが延期されたEASSSRと「東アジアと同時代日本語文学フォーラム」は2021年度にオンサイトで開催できない場合でも、オンラインやハイブリッドで開催される予定である。いずれの国際学会でも韓国、香港、日本などの東アジアの他地域を専門とする研究者とパネルを組み、本研究が扱ってきた台湾の事例を東アジア全域の中に位置付け、次の研究へとつなげていきたい。これらの国際学会で今年度の研究成果も盛り込んだ形で発表をし、国内外の研究者と議論を行い、成果報告につなげていく。最終的には査読付き論文か学術本への投稿という形で成果を公表していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で研究計画の変更を余儀なくされたため、次年度へ繰り越すこととした。 繰り越した分については2021年度に刊行される関連書籍の購入に充てる。
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