2019 Fiscal Year Research-status Report
Governance of value chains and labor rights in Latin America
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19K12490
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
藤井 嘉祥 摂南大学, 外国語学部, 准教授 (30625190)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | グローバル・バリューチェーン / ガバナンス / 労働人権 / 社会的高度化 / 産業高度化 / グアテマラ / メキシコ / 中米 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は途上国の経済発展の変数に人権を組み込み、ラテンアメリカの事例からグローバル・バリューチェーン(GVC)の社会的統治の現状を明らかにすることで、「社会基盤の強化に基づくGVCの持続的発展」の分析枠組みを提示することを目的としている。そのために本研究は、①自動車産業とアパレル産業のGVC統治構造、②企業・労組・国家・NGO・国際機関の労働人権への取り組みと利害関係、③労使関係の3つの領域の分析に取り組んでいる。 2019年度は上記①と②に取り組み、次のような成果が得られた。第一に、2019年度8~9月にグアテマラで実施した現地調査から、韓国系アパレル生産企業が労働基準に関する法令遵守の監視を内部化する傾向が知見として得られた。2017年までの調査では、法令遵守の点検の外部委託が一般的であったが、バイヤー(主に米国のアパレル小売企業)の協力を得て、その活動を自社で行い、GVCの内部で法令遵守の監視を完結させる方法が確立されつつあることが明らかになった。これは上述の分析領域の①と②にまたがる成果である。第二に、この知見の裏返しとして、GVCの外部から労働人権と労使関係を監視してきたNGO・労組・コンプライアンス受託企業が、輸出加工業における労働実態の情報にアクセスできなくなっているという知見が得られた。 以上の研究実績には次の意義がある。バイヤーと生産者の関係において生産者が下請けからバイヤーのパートナーに成長する産業高度化にともなって、企業はバリューチェーンを外部に開放するのではなく、閉鎖的なバリューチェーンを構築する可能性が示唆される。既存のGVC研究では産業高度化の進展にともなって、労働条件の社会的監視が発達するとの経路が想定されていたが、GVCがブロック化することにより社会的監視機構の活動が制限される方向性も検討する必要があることが確認されたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は以上のような成果が得られたが、上述の②企業・労組・国家・NGO・国際機関の労働人権への取り組みと利害関係の領域では、国際労働機関(ILO)や国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の両機関のグアテマラ事務所での聞き取り調査が実施できていない。①についても自動車産業のGVH統治構造の研究に着手できていない。本務校の業務の関係でメキシコの自動車産業の現地調査を行う時間を確保できず、研究成果の公表も遅れている。またコロナ禍の影響で2020年3月の現地調査を実施できなかったため、全体的な進捗はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は途上国の経済発展の研究において、産業高度化と労働人権の保障という社会的高度化の両立にもとづく「持続的な」GVCの発展のモデルの構築を目指している。そのためのアプローチとして現地調査からミクロな事例を収集し分析する方法をとっているが、2020年度以降の研究の進捗において懸念されるのは、コロナ禍の現地調査への影響である。メキシコも中米も今年は渡航が容易ではない状況であり、渡航できたとしても感染リスクも考慮せざるを得ず、また調査対象国では外出制限が行われていることから、対面による聞き取り調査の実施は困難を予想される。電話等によるインタビューも検討しているが、ラテンアメリカの慣習的に対面での対話の中でしか、信頼を得て踏み込んだ会話をすることが難しいこともあり、データの提供も期待できない。 したがって、アパレル産業と自動車産業に限定した調査を予定していたが、それ以外の農業等を含めた輸出産業を含めて、国際機関や人権監視団体等が公表している統計データや事例に依拠した研究に方向転換することで、ラテンアメリカにおける経済発展と人権の関係の動向分析によって不足を補うことを検討している。
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Causes of Carryover |
(理由)2020年3月に現地調査を予定していたが、新型コロナ禍の影響で調査遂行の可能性が不透明であったこと、および残額が十分な調査日数を確保するために不足していたため、調査の実施を断念した。次年度に繰り越して、十分な日数を確保したうえで調査遂行に充当することが得策だと判断したためである。 (使用予定)次年度使用額は、2020年度8月もしくは3月に予定しているメキシコおよびグアテマラでの現地調査のための海外旅費として使用することを予定している。コロナ禍により調査ができなかった場合には、産業界の分析および人権問題の分析を行っている民間シンクタンクのデータベース使用料や分析レポートの購入のために使用する予定である。
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